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男性の狭心症・心筋梗塞の健康格差、中小企業で有病率2倍。 運輸業で高血圧と糖尿病の高い有病率~県内の健診データ分析から~

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■ 概要

富山大学 地域連携推進機構 地域医療・保健支援部門 副部門長の山田正明准教授と関根道和教授らは、富山県内の約 2 万人の健診データを用いて分析を行い、

①冠動脈疾患の有病率は健診受診者の属する企業規模により約 2 倍の健康格差があること

②高血圧と糖尿病の有病率は運輸業の従業員で有意に高い

との知見を得ましたので公表します。

■ 富山大学と JCHO 高岡ふしき病院との連携事業

富山大学地域連携推進機構では、地域と連携した各種事業を実施しており、今回の分析は、富山大学と JCHO 高岡ふしき病院による連携事業として実施されたものです。

■ 研究内容

人の健康は、所得や職業、地域や人とのつながりといった社会経済的状況から影響を受けます。この影響による集団レベルでの健康状態の差を「健康格差」といい、健康日本 21(第2 次)では健康格差の縮小が目標とされています。この理念は「社会経済的状況に関係なく、人の健康は公平に与えられるべき」という考えに基づくもので、SDGs.3「すべての人に健康と福祉を」と同じ理念と考えられます。

今回の調査対象は 2016 年度に JCHO 高岡ふしき病院の健診を受診した人で、年齢は 30‐75 歳の男性 10,572 人です(女性は冠動脈疾患が男性に比べて非常に少ないことなどの理由から、今回は男性のみの分析となっています)。冠動脈疾患は、健診の問診で「狭心症、心筋梗塞で内服中」であると回答した人を「冠動脈疾患有り」と定義しました。次に、健診受診者の所属する企業の規模(正規職員数により 1-20, 21-100, 101-300, 301~の 4 段階)と産業別(日本標準産業分類大分類の 20 項目)に分類して健康状態を分析しました。

【不健康な生活習慣の割合】

喫煙(現在の喫煙と過去喫煙を含む)と運動不足の割合を企業規模別、産業分類別に示します(図 1)。 企業規模では 301 人以上の企業に比べて小規模になるほど喫煙率が高いことがわかります。次に産業分類別では、喫煙に関しては農林漁業、建設業、運輸郵便業、その他サービス(廃棄物処理業、自動車整備工場、機械等修理業、職業紹介など)で高い割合でした。運動習慣がない割合は運輸郵便業、学術研究・専門で高率でした。

【狭心症、心筋梗塞の有病率と調整オッズ比】

狭心症、心筋梗塞の有病率は全体で 149 人(1.5%)でした。しかし企業規模別で差が見られ、301 人以上の企業では 0.8%でしたが、規模が小さい企業で高い有病率(1.5~1.8%)が見られました(図 2)。年齢や BMI、喫煙や運動などの生活習慣を考慮した調整オッズ比でも、規模の小さい企業で高く、中でも 21~100 人の規模では調整オッズ比 2.02 (95%信頼区間 1.01-4.02)と統計的にも有意に高い結果でした。

【高血圧、糖尿病の有病率と調整オッズ比】

最後に心疾患のリスクファクターである高血圧、糖尿病についての分析です。(図 3) 全体で高血圧の有病率は 31.5%、糖尿病は 11.0%でした。産業分類別の分析では高血圧は運輸郵便業、その他サービスに多く、糖尿病は運輸郵便、公務で高い割合でした。中でも運輸郵便業は年齢や BMI、生活習慣を調整しても有意にオッズ比が高いことがわかりました。(図 3内右上)

■ 結果のまとめと考察

企業規模や産業分類で不健康な生活習慣の割合に差は見られましたが、生活習慣や年齢などを考慮(調整)しても中小企業で冠動脈疾患の危険度は高く、また産業分類では運輸郵便業で高血圧と糖尿病が多いことがわかりました。この結果から、健康は個人の生活習慣に加えて社会経済的状況から影響を受けていると考えられます。例えば大企業には健康相談室や健康増進センターなどの設備や人材があるが中小企業では少ないなどの違い、また運輸業で高血圧と糖尿病が多い理由には、ネット通販の拡大による仕事量の増大や不規則な勤務体系、それによる定期的な受診が困難などの理由が考えられ、これらが健康格差を生み出していると思われます。

■今後の展開

SDGs の提唱する「すべての人に健康と福祉を」や「誰も取り残されない社会」の実現には、健康格差の縮小が重要です。病院や研究機関だけで解決できる課題ではないため、社会全体で対策を進める必要があります。

【用語解説】

・オッズ比 OR:

病気とその原因の関連の強さの指標です。OR が 1 より高いと関連がある、OR=1 では関連がない、1 より低いと逆の関連がある(原因と思っているものがあると病気にならない)ことを示します。

・調整オッズ比 adjusted OR:

病気と原因の関係は 1:1 ではなく、年齢、性別、運動習慣などの要因も関係します。それらの要因を数式に当てはめて、病気と原因の純粋な関連性を示したものが調整オッズ比です。

【論文詳細】

論文名:Prevalence of coronary heart disease and its risk factors by working environment among Japanese male workers.

著 者:Yamada M, Sekine M, Tatsuse T.

掲載誌:Ind Health. 2022 Oct 19.

doi: 10.2486/indhealth.2022-0149.

詳細▶︎https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20221110_2.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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