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親しみのある道を歩く:場所への愛着が人々の歩行習慣を促す仕組みについての考察

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ポイント

●人々がもつ場所への愛着が、余暇の歩行のみならず移動に伴う歩行行為にポジティブな影響を与えることを見出しました。

●特に、「場所アイデンティティ」および「場所依存」の両面が、歩行行為に関与していることを示唆しました。

●さらに、場所への愛着と歩行習慣との関連性は、近隣の歩きやすさ(ウォーカビリティ)に関する認知によって媒介されることを明らかにしました。

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)創造社会デザイン研究領域のクサリ モハマドジャバッド(KOOHSARI MohammadJavad)准教授らの研究グループは、場所への愛着(住宅環境との感情的および機能的な関係)が、人々の歩行行為にポジティブな影響を与えることを見出しました。また、場所への愛着と歩行習慣の関連性は、自宅周辺の歩きやすさ(ウォーカビリティ)に関する認知によって媒介されることを明らかにしました。

【研究の背景と内容】

 歩行習慣を含めた人間の身体活動には、様々な健康上の利点があります。これまでの多くの研究により、自宅周辺の物理的な環境や歩きやすさ(ウォーカビリティ)の捉え方(=認知)が、余暇や移動に伴う歩行習慣に影響を与えることが指摘されてきました。

 場所に対する人間の機能的、あるいは感情や情緒との関係は「場所への愛着」と呼ばれます。場所への愛着は、時間経過とともに、近隣住民との相互作用から生じます。住まいの質、目的地へのアクセスのしやすさ、近隣の安全性など、様々な環境要因により人々は場所への愛着を形成するようになり、長期的には、この場所への愛着が人々の日常生活にポジティブな影響を与える可能性があることが示唆されています。

 今回、JAISTのクサリ准教授は、JAISTの永井由佳里教授、早稲田大学の岡浩一朗教授、東北大学の中谷友樹教授、文化学園大学の安永明智教授、カルガリー大学(カナダ)のGavin R. McCormack准教授と共同で、居住地域に関連した場所への愛着が、余暇や移動に伴う歩行習慣に代表される人々の身体活動にどのような影響を及ぼすかについて検証しました。

 本研究の目的を達するために、研究チームはカナダのカルガリー在住の1,800名の成人を対象に調査を行いました。本調査では、余暇や移動のための歩行、さらに高強度の身体活動を指標として用い、また、場所への愛着に関しては、「場所アイデンティティ」および「場所依存」[後述]の概念を測定しました。さらに、近隣の歩きやすさに関する認知についても評価し、場所への愛着と歩行習慣との関連が、近隣の歩きやすさの捉え方によってどのように形成されるのかを確認しました。

 結果として、対象者の歩行習慣は、場所への愛着と正の相関があることを発見しました。さらに、これらの歩行習慣と場所への愛着の関連は、近隣の歩きやすさを認知している人ほど強いことが分かりました。本調査結果は、場所への愛着が身体活動の促進に関連することを示唆しており、このことから、今後の身体活動促進のための介入や建造環境と身体活動との関連について調査する場合において、場所への愛着を考慮する必要性を示しました。

 本研究で研究チームは、場所への愛着の二つの側面として、「場所アイデンティティ」と「場所依存」について評価しています。「場所アイデンティティ」とは、人々の日常生活における場所の重要性を反映し、一方「場所依存」とは、人々が楽しむ日常生活を営むためにその場所に依存する程度を表します。本研究の結果は、この両方の概念がともに、余暇のためにウォーキングをしたり、移動のために歩いたりする行為に関わっていることを示唆しています。

 さらに、本研究の注目すべき発見は、近隣の歩きやすさを自覚することが、場所への愛着と身体活動との関連を媒介するということです。調査によると、物理的な建造環境と、それらの環境への認知は、常に一致するとは限りませんでした。近隣への愛着がこの不一致の原因に関与していると仮定すると、環境への認知を変えることで、人々の身体活動を効果的に高めることが期待できます。

 本研究成果は、2023年4月8日に、Urban Studies(都市論)の分野で世界トップランクの学術雑誌「Landscape and Urban Planning」(エルゼビア社発行)に掲載されました。

 なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(B)(20H04113)および基盤研究(A)(20H00040)、並びにCanadian Institutes of Health Research Foundations Scheme Grant(FDN-154331)の助成を受けて実施しました。

 

イメージ図. 場所への愛着は人々の身体活動に影響を与える

[flickrより引用]

【今後の展開】

 今回の調査結果は、人々が近隣環境とのより強い感情的な絆(=愛着)を形成することを促す戦略が、歩きやすさの自覚と身体活動を改善する可能性があることを示唆しています。建造環境の整備が難しい場合は、人々が交流し、近所の環境に親しむ地域イベント等を提供することで、近隣への愛着を改善することができます。たとえば、自然環境でのウォーキングや公園でのアクティビティ、その他、友情や信頼を築き、安心感を高め、共同体意識を生み出す地域社会への関与の促進が重要です。

【論文情報】

雑誌名Landscape and Urban Planning

題目Place attachment and walking behaviour: Mediation by perceived neighbourhood walkability

著者Mohammad Javad Koohsari*, Akitomo Yasunaga, Koichiro Oka, Tomoki Nakaya, Yukari Nagai, Gavin R. McCormack

掲載日2023年4月8日

DOI10.1016/j.landurbplan.2023.104767

詳細▶︎https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/04/18-1.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

親しみのある道を歩く:場所への愛着が人々の歩行習慣を促す仕組みについての考察

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