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対話ロボットで高齢者の孤立を防ぐには

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高齢者の孤立を予防する手段として社会的仲介ロボット(Social Mediator Robot: SMR)が注目されています。これらのロボットは人々の間でメッセージングを仲介してコミュニケーションを円滑化します。高齢者を孤立させないためには高齢者が常日ごろ感じている問題を他人に話すこと(自己開示)が重要であり、そうした自己開示をサポートするSMRの研究開発が進められています。

 

本研究チームはこれまでもSMRの設計指針に関する研究を続けてきましたが、今回、SMRが高齢者の自己開示に関わるメッセージをどのように相手方へ伝えるのが好ましいかを調べました。まず、65歳以上の高齢者720人の参加者を対象にオンライン調査を実施しました。589人から有効回答を得て、参加者が好む伝え方を分析した結果、大別して「サポート要請型」「隠蔽型」「レコーディング型」の3種類の伝え方が参加者に好まれることが判明しました。同時に、これらの伝え方は、相手方が誰であるか、メッセージの内容、高齢者の性別や 性格特性、に応じて適宜選択されるべきであることが示されました。続いて、新たに65歳以上の参加者36人を対象に実験を行った結果、対話ロボットがこうした伝え方の選択機能を有する場合、自己開示に関わる参加者の不安が有意に減少することが分かりました。

 

本研究成果は、高齢者向けの対話ロボットやAIを開発する際に有用な設計指針を提供します。

 

研究代表者

筑波大学システム情報系

田中文英 准教授

 

研究の背景

高齢者を社会から孤立させないためには高齢者が常日ごろ感じている問題を他人に話すこと(自己開示)が重要であり、そうした自己開示をサポートする対話型ロボットの研究開発が進められています。中でも社会的仲介ロボット(Social Mediator Robot: SMR)注1)と呼ばれる対話型ロボットは、遠隔コミュニケーションなどの場面で、人と人の間でメッセージのやりとりを仲介しながらお互いのコミュニケーションを促進するもので、高齢者の自己開示も促進できることが知られています。これまでの研究によりSMRが有すべき性格特性などの設計指針が明らかになりつつありますが、SMRが具体的にどのように相手方へメッセージを伝えるべきかについては分かっていませんでした。

 

研究内容と成果

本研究では、SMRが高齢者からのメッセージをどのように相手方に伝えるのが好ましいか(図参照)について明らかにすることを目指しました。

まず、65歳以上720人(有効回答数589人)の参加者を対象にオンライン調査を行い、話題(健康・金銭・孤立・生きがい)や相手方(家族・友人)の種別に応じた高齢者に好まれる伝え方を調べました。調査結果を統計分析したところ、好まれる伝え方は大別して「サポート要請型」「隠蔽型」「レコーディング型」の3カテゴリーに分類されることが分かりました。サポート要請型はロボットが高齢者に代わって相手方に助けを求めるタイプの伝え方(5種類)、隠蔽型はロボットがより間接的な表現を用いる伝え方(5種類)、レコーディング型は高齢者の音声や映像を用いて伝える方法(2種類)です。そして、これらの伝え方は、話題・ 相手方の種別、および高齢者自身の性別・性格特性に応じて適宜選択されるべきであることが分かりました。

続いて、新たに65歳以上の参加者36人を対象に対面での実験を行いました。高齢者に好まれる伝え方の選択機能を対話ロボットが有する場合、参加者の不安が有意に減少することが分かりました。本研究成果は、高齢者向けの対話ロボットや人工知能(AI)を開発する際に有用な設計指針を提供します。

 

今後の展開

本研究グループは、人々の孤立や孤独と関わる問題に対処する一手法として、対話ロボットやAIなどエージェント技術の研究開発を続けていきます。今回の研究成果は対話に関わるものでしたが、非言語的な介入手段(例えば触知覚への働きかけ)や、孤立と孤独の両側面へのアプローチなどの研究も行っていきます。

 

参考図

図 本研究で想定する対話ロボットのメッセージ仲介事例

高齢者が自身の健康に関するトラブルを、離れて暮らす娘に伝えようとする場面の例。図中左側で対話ロボットが「娘さんにどのようにメッセージをお伝えしましょうか?深刻に(直接的に)お伝えするのと、間接的に(ぼやかして)お伝えするのと、あるいは***のようにしてお伝えするのと、どれがお好みでしょうか?」と聞いており、ここで高齢者に選択された伝え方で娘側の対話ロボットがメッセージを伝えている(図中右側)。

 

用語解説

注1)社会的仲介ロボット(Social Mediator Robot: SMR)

人と人の間でコミュニケーションを仲介し、両者の間のコミュニケーションを円滑化・促進するロボット。代表的なユースケースは遠隔コミュニケーションにおけるメッセージのやりとりの仲介である。研究の背景で紹介している高齢者の自己開示促進(文献1)以外にも、片方の人が待ち合わせに遅れてもう片方の人を怒らせた場合に、その怒りを抑制する効果(文献2)があることなどが知られている。

 

参考文献

文献1)

Personality Traits for a Social Mediator Robot Encouraging Elderly Self-Disclosure on Loss Experiences. Yohei Noguchi, Hiroko Kamide, and Fumihide Tanaka.ACM Transactions on Human-Robot Interaction, Vol.9(3), Article No.17, 2020.DOI: 10.1145/3377342

文献2)

Weight Shift Movements of a Social Mediator Robot Make It Being Recognized as Serious and Suppress Anger, Revenge and Avoidance Motivation of the User.Yohei Noguchi, Hiroko Kamide, and Fumihide Tanaka.Frontiers in Robotics and AI, Vol.9:790209, 2022.DOI: 10.3389/frobt.2022.790209

 

研究資金

本研究は、科研費15H01708, 19H01112, 22H04856、およびJSPS特別研究員奨励費20J10887による支援を受けて実施されました。

 

掲載論文

【題名】

  How  Should  a  Social  Mediator  Robot  Convey  Messages  About  the  Self-Disclosures  of  Elderly People to Recipients?

(社会的仲介ロボットは高齢者の自己開示に関わるメッセージをどのように受け手に伝えるべきか?)

【著者名】 

Yohei Noguchi, Hiroko Kamide, and Fumihide Tanaka

【掲載誌】

International Journal of Social Robotics

【掲載日】 

2023年5月24日

【DOI】

10.1007/s12369-023-01016-x 

 

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20230609140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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