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医学部の研究グループが、ボツリヌス療法の治療効果をマウスで延長することに成功しました!

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島根大学医学部解剖学講座(神経科学)藤谷昌司教授、大谷嘉典助教、Ngo Xuan Huy歯科医師(歯科口腔外科学講座)、石原弘基医師(大田市立病院、元リハビリテーション医学講座)らの研究グループが、ボツリヌス療法の治療効果をマウスで延長することに成功しました。

ボツリヌス療法は、さまざまな神経筋疾患の治療やリハビリテーション、さらには美容の分野でも用いられています。一方で、神経筋接合部が再生するため、A型ボツリヌス毒素(BTX)の効果が減弱し、何度も注射が必要になります。しかし、IGF1R(インスリン様成長因子1受容体)を特異的な抗体で抑制すると、神経筋接合部の再生が阻害され、麻痺効果が継続します。

 

タイトル:

Blocking insulin-like growth factor 1 receptor signaling pathway inhibits neuromuscular junction regeneration after botulinum toxin-A treatment

著者名:

Hiroki Ishihara, Yoshinori Otani, Kazuki Tanaka, Hisao Miyajima, Huy Xuan Ngo, Masashi Fujitani

雑誌名:

Cell Death & Disease 誌 (Springer Nature社)

オンライン掲載:

2023年9月 16日

https://www.nature.com/articles/s41419-023-06128-w

 

【本研究成果の意義】

IGF1Rの抑制によるBTXによる筋の麻痺効果の持続時間延長は、BTXの注射回数や全体の投与量を減少させることで、臨床的に非常に有益であると考えられます。リハビリテーション医学領域のみならず、美容の領域などでも応用可能な技術ではないかと考えています。

 

研究内容

 A 型ボツリヌス毒素(BTX)【1】の筋肉への投与(ボツリヌス療法)は、過度な筋肉の収縮の症状を持つ患者(痙性斜頚【2】、痙縮【3】、小児脳性麻痺【4】、片側顔面痙攣【5】、眼瞼痙攣【6】、過活動膀胱【7】など)に対する確立された治療方法です。しかし、BTX は短期間しか効果が持続しない上、逆に BTX の高用量投与は BTX に対する中和抗体が生成されることがあり、BTX の効果が減弱してしまう可能性があります。そのため、注射をうける回数を減らしたり、投与量を減らすために、その効果を長持ちさせることが臨床的には望ましいとされています。

 我々は、インスリン様成長因子 1 受容体 (IGF1R)【8】に着目して研究を行いました。IGF1R は、脳や神経の正常の状態や、それらの病気をさまざまに調節する重要なタンパク質です。これまで、神経筋接合部【9】の再生に関与する可能性が報告されていましたが、具体的な再生メカニズムは明らかではありませんでした。そこで、この研究では IGF1R のシグナル伝達の抑制が、BTX による筋麻痺にどのように影響するかを明らかにすることを目的としました。

 結果として、IGF1R に対する抗体の投与は BTX による麻痺の回復を阻害し、神経筋接合部の特にシナプス後部【10】に影響を与えました。そして、そのメカニズムとして、BTX 治療後は、mTOR/S6 キナーゼ【11】シグナル伝達経路を介する翻訳シグナル【12】を通じて神経筋接合部の再生が起こりますが、その再生メカニズムを IGF1R 受容体に対する抗体が阻害することが分かりました。

 

本件に関する写真 

図 1. BTX および抗 IGF1R 抗体をマウスの腓腹筋に注射すると麻痺が継続する

 

図 2. BTX および抗 IGF1R 抗体をマウス腓腹筋に注射後の筋肉の回復の程度の違い

 

用語説明

【1】 A 型ボツリヌス毒素

 A 型ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌が生成する神経毒素の一つで、筋肉の収縮を妨げる作用があります。神経筋接合部の軸索末端からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害し、弛緩性麻痺を引き起こします。

【2】痙性斜頚

 痙性斜頚は、首の筋肉が痙攣的に収縮することで頭部が不自然に傾く状態になってしまう神経筋疾患です。

【3】痙縮

 脳や脊髄の障害が原因となり、筋肉が持続的に収縮して固定される状態を指し、これにより関節の曲がった姿勢が維持されることが多く、日常生活動作が低下し、リハビリテーションの効果が減弱することで、介護者にとっても負担が増します。

【4】小児脳性麻痺

 小児脳性麻痺は、出生前、出生時、または出生後の初期に脳が受ける損傷に起因する、持続的な筋骨格の運動障害をおこす病気です。この状態は筋肉の硬直や不随意運動として現れ、生涯にわたり治療やリハビリテーションが必要となることが多いです。

【5】片側顔面痙攣

 片側顔面痙攣は、顔の一方の筋肉が不随意に繰り返し収縮する障害です。多くは顔の微小血管が顔面神経を圧迫することが原因とされ、その結果として筋肉の痙攣が生じます。治療としては薬物療法や手術、ボトックス注射などが考えられます。

【6】眼瞼痙攣

 眼瞼痙攣は、まぶたの筋肉が不随意に繰り返し収縮する症状を言います。主にストレスや疲れ、目の疾患などが原因とされることが多いです。多くの場合は一時的で自然に治まるが、持続的なものについては、ボツリヌス療法が必要になる場合があります。

【7】過活動膀胱

 過活動膀胱は、頻繁に尿意を感じるたり、我慢できずに急に尿が出てしまう(尿失禁)といった症状を特徴とする膀胱の機能障害です。

【8】インスリン様成長因子 1 受容体 (IGF1R)

 インスリン様成長因子 1 受容体 (IGF1R) は、インスリン様成長因子(IGF)-1,2 というリガンドに結合することで活性化し、細胞の増殖や生存を制御します。この IGF1R に対する抗体は、甲状腺眼症の治療薬として Teprotumumab が欧米では使われています。

【9】神経筋接合部

 神経筋接合部は、運動神経細胞の軸索の終末と筋肉との接点です。運動神経細胞からの電気的信号が、アセチルコリンという神経伝達物質を介して筋肉へ伝達されます。シナプスの一種と考えられます。この信号伝達により筋肉の収縮が引き起こされます。

【10】シナプス

 シナプスは、神経細胞間もしくは、神経細胞と筋細胞などとの情報伝達の接点です。神経伝達物質を介して信号が伝わります。従って、シナプスの前部から伝達されたシグナルがシナプスの後部に伝達されることになります。

【11】mTOR/S6 キナーゼ

 mTOR/S6 キナーゼは、細胞の成長と代謝を調節するシグナル経路で、mTOR は、栄養素やエネルギー状態を感知し、応答を制御します。そして、S6 キナーゼは、mTOR の下流に位置し、タンパク質の合成を促進します。

【12】翻訳シグナル

 翻訳シグナルは、細胞内の RNA からタンパク質への変換のプロセスを制御しています。mRNA上のコドンは、tRNA によってアミノ酸へ変換され、リボソームが、mRNA を読みながらタンパク質を合成します。その経路を S6 キナーゼは、促進します。 

詳細▶︎https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2023092600031/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

医学部の研究グループが、ボツリヌス療法の治療効果をマウスで延長することに成功しました!

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