鹿児島県内各地域の浴室内突然死が発生しやすい環境温度を特定 ~浴室内突然死を予防するための入浴時警戒情報発令!~

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この度、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科法医学分野の林 敬人教授らの研究グループは、鹿児島県警察本部刑事部捜査第一課の協力のもと、鹿児島県内各地域の浴室内突然死が発生しやすい環境温度(最高気温、最低気温、平均気温、日内気温差)を特定することに成功し、その結果に基づいて浴室内突然死を予防するための入浴時警戒情報を発令することになりました。 本研究成果は、国際学術雑誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」に 2023 年 2 月 8 日にオンライン公開されました。

趣旨等

 ・鹿児島県内で過去 14 年間に発生した浴室内突然死の検視全例を解析しました。

 ・浴室内突然死は、鹿児島県内で年間約 190 例発生し、交通事故死の約 2.5 倍と多いことがわかりました。

 ・浴室内突然死は、冬季の高齢者に集中して発生することが判明しました。

・浴室内突然死の発生は、発生日の環境気温(最高気温、最低気温、平均気温、日内気温差)と密接に関わっていることが明らかとなり、統計学的解析から浴室内突然死が有意に発生しやすい各環境気温を特定することに成功しました。

 ・浴室内突然死が有意に発生しやすい各環境気温に基づいて、危険な日には入浴を控えるように入浴時警戒情報を発令する予定です。これは、全国初の試みですが、鹿児島県で効果が得られれば、全国各地にも展開できる可能性があります。

 ・入浴時警戒情報は浴室内突然死の発生を予防する有効な方法と考えますので、県民に広く周知することを期待します。

内容

1.研究の背景

浴室内突然死、いわゆる入浴死とは、入浴中やその前後に起こる予期せぬ突然死のことです。日本では、おそらく独特の入浴様式のために入浴死の発生が諸外国に比べて圧倒的に多く、特に 65 歳以上の高齢者の発生率が高いため、今後のさらなる高齢化に伴って増加することが予想されており、深刻な社会問題となっています。入浴死の病態としては、脱衣所、浴室、浴槽内の各温度差や、それに伴う血圧変動(いわゆる、ヒートショック)が原因で、浴槽内において不整脈、心発作、脳虚血が起こることで、そのまま死亡したり、意識を消失し、溺死したりすることが想定されていますが、法医解剖まで実施される例が少なく、正確な病態は充分に解明されていません。そこで、本研究では入浴死の発生と環境気温に注目して、入浴死が有意に発生しやすい日を特定し、そのような日に入浴を控えるように警戒情報を発令することで入浴死の発生を予防することを目的としました。

 

2.研究の概要・結果

鹿児島県警察本部刑事部捜査第一課の協力のもと、2006~2019 年に鹿児島県内で発生した入浴死検視例全例について疫学的調査を実施しました。同期間に入浴死は 2689 例(男性1375 例、女性 1314 例)で、毎年 190 例前後発生しており、交通事故死数(960 例)の約 2.5倍でした。年齢別には 90%が 65 歳以上の高齢者で、自宅の浴槽内での発生が殆どでした。発生時刻は、16~20時と通常の入浴時間は約半数を占めていました。入浴前に飲酒していた例は 4.3%(115 例)と少なく、高齢者の日常生活の中で突然起こっていることがわかりました。そして、これまで報告されているように冬季に多く、12~2 月に約半数が集中してみられました。

そこで、入浴死が発生した日の各環境気温(最高気温、最低気温、平均気温、日内気温差)との関係を解析すると、入浴死の発生と最高気温、最低気温、平均気温との間には有意な負の相関がみられ、日内気温差との間には有意な正の相関がみられることがわかりました(図1)。つまり、最高気温、最低気温、平均気温が低ければ低いほど入浴死の発生が多くなり、日内気温差が大きければ大きいほど、入浴死の発生が多くなることが明らかとなりました。

図 1.入浴死発生頻度と各環境気温との相関関係

 

次に、実際に入浴死の発生率が有意に高くなる各環境気温を算出するための統計学的解析を行いました。鹿児島県は離島を含めると非常に南北に長い(約 600km)ため、同じ日でも各環境気温に違いがあることが予想されましたので、鹿児島県内を各警察署が管轄する地域 19 ヶ所(図 2)に分けて、各地域における入浴死の発生率が有意に高くなる環境気温(冬季に限る)を特定しました。すると、以下の表 1 に示すように、最高気温は9.0~19.0(中央値13.5)℃、最低気温は 0.0~13.0(中央値 3.0)℃、平均気温は 4.5~15.5(中央値 9.0)℃、日内気温差は 5.5~10.5(中央値 8.8)℃と、各地域における入浴死の発生しやすい温度(以下、危険な温度)を特定することに成功しました。

 

図2.鹿児島県内を各警察署の管轄に応じて A~S の 19 ヶ所に区域化。

 

 

表1.各地域における入浴死の発生率が有意に高くなる各環境温度。A~S は図 2 の A~S に相当。

 

以上の結果に基づいて、われわれは入浴死が発生しやすい日に入浴を控えるように入浴時警戒情報を発令するシステムの開発を進めることにしました。具体的には、各地域の翌日の予想最高気温、予想最低気温、予想日内気温差の情報を入手し、①最高気温が危険な温度を下回る、②最低気温が危険な温度を下回る、③日内気温差が危険な温度を上回る、の 3 指標のうち、3 つとも満たす場合を「警戒」、2 つ満たす場合を「注意」、1 つ以下の場合を「油断禁物」というように地図上に表示する(図 3)ものです。この入浴時警戒情報を、本年の冬季(11月予定)から当分野ホームページ(https://www3.kufm.kagoshima-u.ac.jp/legalmed/)上に毎日更新して発表いたします。

 

図 3.入浴時警戒アラートのイメージ図(仮)

 

3.今後の展開

これまでマスメディアでは、入浴死の予防対策として、①部屋、脱衣所、浴室の部屋間の温度をなくす、②浴槽内の湯温は 41℃以下に設定、③食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴を避ける、④同居者がいる場合には入浴前に一声掛けるといったことがいわれてきましたが、本研究のように、毎日の環境気温によって入浴自体を控えるようにアラートを発令するものは全国初の試みです。今後、入浴時警戒情報の発令によって、入浴死の発生件数が減少するか否かを検討していくことで入浴時警戒情報の効果を検証します。

鹿児島県内で良い結果が得られた場合には、他県でも同様の解析を行うことで、各県各地域においても独自の入浴時警戒情報を発令することが可能であり、全国的に入浴死を減らすことができると思っています。鹿児島県から全国に広めていくことができれば幸いです。

 

4.研究成果の公表

これらの研究成果は、2023 年 2 月 8 日に国際学術雑誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」にオンライン公開されました。

 

論文タイトル:

Development of prevention strategies against bath-related deaths based onepidemiological surveys of inquest records in Kagoshima Prefecture

著者:

勝山 碧、肥後恵理、宮本真智子、中前琢磨、鬼塚大幸、福元明子、八代正彦、林 敬人(責任著者)

doi:

10.1038/s41598-023-29400-7

詳細▶︎https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2023/11/post-2107.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

鹿児島県内各地域の浴室内突然死が発生しやすい環境温度を特定 ~浴室内突然死を予防するための入浴時警戒情報発令!~

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