AIとGISによる骨粗鬆症治療薬の新規薬理効果解析法を確立~より客観的な、薬理効果解析法・形態計測法として今後の活用に期待~

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ポイント

・骨粗鬆症治療薬―PTH 製剤:テリパラチドによる皮質骨微細構造への薬理効果の詳細を解明。

・AI(人工知能)と GIS(地図情報システム)を融合した新規骨組織の形態解析法を確立。

・観察者バイアスを極力排除した客観的な形態計測法や、薬理学的効果評価法への応用に期待。

概要

北海道大学大学院歯学研究院の飯村忠浩教授と、同大学院歯学院博士課程4年の星(沼端)麻里絵氏らの研究グループは、AI(人工知能)による形態認識及び解析システムと、GIS(地理情報システム)を利用した解析対象物のマッピング法を確立し、骨粗鬆症治療薬PTH(副甲状腺ホルモン)製剤による、皮質骨への薬理学的作用を解明しました。

骨粗鬆症は、進行すると腰椎や大腿骨頚部などの体を支える重要な部位にも骨折を引き起こすため、要介護人口増加の主要な要因です。したがって、骨粗鬆症治療薬の効果を詳細に解明する研究は非常に重要な課題です。これまで骨粗鬆症治療薬の効果は主に骨の内部の海綿骨の評価を中心に行われていました。しかし、骨折の多くは、骨の外壁である皮質骨が薄く弱くなった部位で起こるとされており、海綿骨だけではなく皮質骨の微細構造の評価方法が必要とされていました。

今回、研究グループは、骨粗鬆症治療薬が皮質骨の微細構造に与える影響を解明するため、骨粗鬆症治療薬である PTH 製剤:テリパラチド*1を投与したイヌの肋骨を解析しました。皮質骨内の神経血管束の通り道である“ハバース管”の組織学的特徴を AI ディープラーニングで機械学習させた後、半自動的に認識させ、形態計測を行いました。また AI で認識させたハバース管に、地理情報システム(Geographic Information System:GIS)を適用することで、皮質骨内における、その密度・面積についてのマッピング表示を行いました。その結果、テリパラチドの高頻度・高用量投与では、吸収期の拡大したハバース管が多数癒合して吸収孔を形成し、皮質骨の多孔化を生じることが明らかになりました。 本研究及び解析手法のさらなる発展により、観察者バイアスを極力排除した客観的な形態計測法や、薬理学的効果評価法の進化が期待されます。

なお本研究成果は、2023年10月12日(木)公開のBone Reports誌にオンライン掲載されました。

AI による半自動認識の手順。STEP1 の前に複数枚の教師データを作成し、AIディープラーニングさせて得られたAIトレーニングデータを元画像に適応した後、二値化(定量化)する。

【背景】

骨粗鬆症は、進行すると腰椎や大腿骨頚部などの体を支える重要な部位に骨折を引き起こすことがあるため、要介護人口増加の主要な原因となっています。したがって、骨粗鬆症治療薬の効果を詳細に解明する研究は非常に重要な課題です。

これまで骨粗鬆症治療薬の効果は主に骨の内部の海綿骨の評価を中心に行われていました。しかし骨折の多くは、骨の外壁である皮質骨が薄く弱くなった部位で起こるとされ、海綿骨だけでなく皮質骨の微細構造の評価方法が必要でした。皮質骨の微細構造の評価方法が十分に確立されて来なかった理由として、一般的な小型実験動物であるマウスやラットの皮質骨の微細構造や、骨が作り替えられるサイクルがヒトとは大きく異なり、解析対象として扱いづらかったことが原因として考えられます。

そこで本研究では、皮質骨の微細構造や、その作り替えられるサイクルがヒトによく類似した実験動物としてイヌを用い、骨粗鬆症治療薬である PTH 製剤:テリパラチドを投与した際に皮質骨に生じる微細構造の変化について詳細に検討しました。さらに、本研究では、皮質骨の微細構造の解析にはAI(人工知能)ディープラーニングと地理情報システム(GIS)を統合した新たな形態計測法と、薬理効果解析法の確立にも取り組みました。

【研究手法及び研究成果】

8~9 カ月齢のオスのビーグル犬に、骨粗鬆症治療薬:PTH 製剤テリパラチドを連日低用量、連日高用量、週 1 回低用量、週 1 回高用量の4グループに分けて投与し、対照群には生理食塩水を連日投与しました。それぞれ9 カ月間にわたり投与を継続して、投与終了後に肋骨を採取し、広視野高分解能顕微鏡を用いた網羅的イメージングにより、皮質骨の微細構造を観察しました。

皮質骨の中では神経血管束の通り道であるハバース管を中心に骨のリモデリング*2が行われるため、ハバース管の組織学的特徴を AI ディープラーニングで機械学習させました。ハバース管の解析を行ったところ、連日高用量投与群ではハバース管の平均面積・総面積が最も増加していることが分かりました(図1)。次に、隣接するオステオン*3に浸食するまで拡大したハバース管を吸収孔と定義し、解析を行いました。その結果、連日高用量投与群では週1 回高用量投与群と比較して、その数と面積が有意に増大していることが分かりました(図2)。

吸収孔の数の増加は、複数のハバース管の癒合が原因である可能性を考えました。それを確かめるために、皮質骨全体のハバース管を AI で認識した画像に GIS を適用し、ハバース管の密度とハバース管面積比のマッピング表示を行いました。マッピング表示により、ハバース管密度が減少した領域とハバース管が拡大した領域が一致する傾向にあるということが客観的に示されました(図3)。

【今後への期待】

本研究は、AI ディープラーニングと地理情報システムを統合して応用し、皮質骨への新規薬理効果解析法を確立しました。さらに、骨粗鬆症治療薬テリパラチドの、皮質骨への薬理作用を解明しました。本研究及び解析手法のさらなる発展により、観察者バイアスを極力排除した客観的な形態計測法や、薬理学的効果評価法の進化が期待されます。

【謝辞】

本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2119(北海道大学 DX 博士人材フェローシップ)の支援を受けたものです。記して、深く感謝申し上げます。また、本研究は、旭化成ファーマ株式会社との共同研究契約に基づき実施されました。

論文情報

論文名

Evaluation of cortical bone remodeling in canines treated with daily and weeklyadministrations of teriparatide by establishing AI-driven morphometric analyses and GISbased spatial mapping.(AI 駆動型形態計測法と GIS に基づいた空間マッピング法の確立による、テリパラチドを連日または週 1 回投与したイヌ皮質骨リモデリングの評価)

著者名

星(沼端)麻里絵 1、高倉 綾 2、中西(木村)徳子 1、渡辺陽久 1、 高田健太郎 4、西浦まい 1、佐藤嘉晃 3、高尾(川端)亮子 2、飯村忠浩 3(1北海道大学大学院歯学院、2旭化成ファーマ株式会社、3北海道大学大学院歯学研究院、4北海道大学大学院理学院)

雑誌名

Bone Reports(骨の生物学・医学に関する研究の専門誌)

DOI

10.1016/j.bonr.2023.101720

URL:https://doi.org/10.1016/j.bonr.2023.101720

公表日

2023 年 10 月 12 日(木)(オンライン掲載)

【参考図】

図 1. ハバース管の解析結果。左は解析対象構造とパラメーターを示した模式図。右のグラフで示されたように、連日高用量投与群(Daily High : DH)では、ハバース管の平均面積・総面積が最も増加している。

 

図 2. 吸収孔の解析結果。連日高用量投与群(DH)では週 1 回高用量投与群(Weekly High:WH)と比較して、その数と面積が有意に増大している。

図 3. ハバース管の密度とハバース管面積比のマッピング表示。ハバース管密度が減少した領域とハバース管が拡大した領域が一致する傾向にあることが示された。CNT:対照群、DL:連日低用量群、DH:連日高用量群、WL:週 1 回低用量群、WH:週 1 回高用量群

【用語解説】

*1 PTH 製剤(テリパラチド) … ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性断片を化学合成により製造された骨粗鬆症治療薬。間欠的な投与により骨芽細胞を活性化させ、骨形成促進作用を示す。

*2 骨のリモデリング … 骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収を繰り返し、絶えず新しい骨がつくられていくこと。バランスが崩れると、骨粗鬆症など病気の原因となる。

*3 オステオン … 骨単位ともいう。皮質骨を構成する骨の単位で、血管神経束を通す管であるハバース管を中心とした、同心円状の層板構造のこと。

詳細▶︎https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/11/aigis.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

AIとGISによる骨粗鬆症治療薬の新規薬理効果解析法を確立~より客観的な、薬理効果解析法・形態計測法として今後の活用に期待~

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