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眼球運動および両手協調運動を組み合わせたトレーニングはアスリートのバランスを即時的に安定させる -ウォーミングアップやコンデショニング調整としての活用に期待-

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宇都宮大学共同教育学部の松浦佑希准教授,筑波大学(研究当時、現常葉大学)の坂入洋右教授らの研究グループは,眼球運動および両手協調運動を組み合わせたトレーニングによって,アスリートのバランスを即時的に安定させることを見出しました.

アスリートを対象としたバランストレーニングは,機能的パフォーマンスの向上のみならず,怪我のリスクを軽減させる観点からもその重要性が示されていますが,ウォーミングアップとしての即時的なバランス改善に関するトレーニングの検討は,十分になされていません.今回の研究により,眼球運動および両手協調運動を組み合わせた 5 分程度のトレーニングによって,アスリートのバランス時の偶発的な大きな揺れを減少させ,姿勢の安定性を即時的に高めることを確認しました.アスリートのウォーミングアップやパフォーマンス発揮前のコンデショニング調整などにおける活用が期待されます.

研究の背景

アスリートを対象としたバランストレーニングは,スポーツ関連の怪我のリスクを軽減させることや,機能的パフォーマンスの向上に役立つことが示されています.従来バランストレーニングとして実施されている内容としては,安定/非安定面上での,開眼もしくは閉眼状態での両足/片足の立位,バランストレーニングと筋力トレーニングを組み合わせたトレーニングなどが挙げられます.これらは長期的なトレーニングによって効果が得られる一方で,これらをウォーミングアップとして行った場合,ウォーミングアップ運動直後にバランスを改善する効果はなく,短期的にはアスリートのバランスの安定に悪影響を及ぼすことが報告されています.ウォーミングアップは,筋繊維の伝導体性感覚系,体性感覚系の効率などを高めるなど,最適なパフォーマンスを達成するために必須のものであり,そのような場面で即時的にバランスを改善するウォーミングアップ運動も必要であると言えます.そこで,姿勢やバランスの維持に直接的に関わる前庭系に直接的にアプローチをすることによってバランス能力を改善させる,眼球運動に着目しました.眼球運動によってバランスを改善させる効果については,脳卒中などのリハビリテーションの分野を中心に報告されています.また,姿勢やバランスの維持には,前庭系だけでなく,小脳も深くかかわっていることから,小脳による制御および活性化と深く関わる両手協調運動に着目し,前庭系に対して有益である眼球運動と小脳を活性化させる両手協調運動を組み合わせて実施することにより,バランスに対してより有益な効果が得られると仮説を立て,検証することとしました.

研究の内容と成果

健康な大学生アスリート 30 名を対象とし,次に示す 3 条件のトレーニングを実施しました.1. 眼球運動,2. 両手協調運動,3. 眼球運動と両手協調運動を組み合わせた運動(1+2).眼球運動については,追跡運動(2 つ)と適応運動(4 つ)からなる 6 つのエクササイズでプログラムを構成し,両手協調運動については,同位相の両手協調運動(3 つ)と逆位相の両手協調運動 (3 つ)を用いました.組み合わせ運動については,追跡運動(1 つ)と適応運動 (2 つ),同位相の両手協調運動 (2 つ)と逆位相の両手協調運動 (1 つ)からなる 6 つのエクササイズからなるプログラムで構成しました.運動の例を図 1 に示しました.いずれのプログラムも約 5 分間で実施されました(各プログラムで実施した具体的なエクササイズの内容は,掲載論文をご参照ください).

その結果,3. 眼球運動と両手協調運動を組み合わせた運動は,バランス時の偶発的な大きな揺れを減少させ,姿勢の安定性を即時的に高めることが確認されました(図 2).1. 眼球運動および 2. 両手協調運動を独立して実施した場合も,バランス時の偶発的な大きな揺れについては,即時的に減少させることが確認されました.これらのことから,本研究では,眼球運動および両手協調運動はバランス時の偶発的な揺れを即時的に減少させること,それら組み合わせた運動ではさらに姿勢の安定性を高める効果があり,アスリートの即時的なバランス調整方法として有効である可能性を示しました.

図 1. 眼球運動および両手協調運動の運動例

 

図 2. トレーニング前後の重心動揺指標の変化量の比較.

A: 単位時間軌跡長の変化量.B: 重心動揺面積の変化量

今後の展開

本研究では,眼球運動および両手協調運動を組み合わせた運動が,アスリートのバランス時の偶発的な揺れを即時的に減少させ,姿勢の安定性を高める効果があることを確認し,アスリートの即時的なバランス調整方法として有効である可能性を示しました.今後,本研究で実施された運動を長期的にウォーミングアップとして実施し,各アスリートの実際のパフォーマンス発揮場面への効果を検討する意義があると考えます.また,従来実施されているバランストレーニングに本研究で実施した運動を加えることで,よりバランスの改善効果が得られる新たなトレーニングとしての活用可能性も考えられます.

掲載論文

題名

Do combined oculomotor and bimanual coordination exercises instantly stabilize balance in athletes?

著者名

Yuki Matsuura1,Yosuke Sakairi2,Haruki Sato1,Koki Takiura3

  1. Cooperative Faculty of Education, Utsunomiya University, Utsunomiya, Japan
  2. Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, Japan
  3. Institute for Social Innovation and Cooperation, Utsunomiya University, Utsunomiya, Japan

掲載誌

Open Access Journal of Sports Medicine

掲載日

2024 年 7 月 17 日

DOI

https://doi.org/10.2147/OAJSM.S472125

研究資金

本研究は,JSPS 科研費,JP21K11543, JP23H03294 の助成を受けて実施されました.

詳細︎▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20240726100000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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