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高齢者における肩腱板断裂手術後の再断裂:術前の栄養状態が鍵 ~手術前の栄養状態が低いと、再断裂リスクがおよそ5.6倍~

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群馬大学大学院医学系研究科整形外科学(筑田博隆教授)の設楽仁准教授の研究グループは、これまで蓄積されたカルテデータを活用し、高齢者に多い肩腱板断裂(*1)の手術後の成績に術前の栄養状態が関与していることを初めて明らかにしました。

研究グループは、65 歳以上の肩腱板断裂患者を対象に、肩腱板断裂手術(*2)後の再断裂率と術前の栄養状態との関連を調査しました。143 名を対象に、栄養リスク指数(*3、GNRI)を用いて術前の栄養状態を評価した結果、GNRI が 109 以上(栄養状態が非常に良好)と比較して、103未満(栄養状態が低い)の患者では、再断裂のリスクが 5.6 倍高くなることが確認されました。この研究は、術前の栄養状態が肩腱板断裂手術の成功に大きな影響を与える可能性を示唆しており、今後の臨床における栄養管理の重要性を強調しています。

本研究成果は、2024 年 8 月 31 日公開の国際医学雑誌『Journal of Bone and Joint Surgery 誌』にオンライン掲載されました。

1.本件のポイント

肩腱板断裂は、高齢化に伴い増加
60 歳代の 25%、70 歳代の 45%、80 歳代の 50%に肩腱板断裂が見られます。

肩腱板断裂があっても、約 2/3 の人は痛みの症状がない
痛みや動きの制限、筋力低下がある場合には、腱板断裂手術が必要です。

若年者では手術による治癒率が高いが、高齢者では再断裂のリスクが高い
高齢、罹患期間の長さ、断裂サイズの大きさ、糖尿病の合併などが再断裂の危険因子として明らかになっていますが、手術前に介入可能な因子はありませんでした。

一般的に、術前の栄養状態が悪いと、外科手術や脊椎手術の術後回復が悪化
しかし、肩腱板断裂手術においても同様かどうかは不明でした。

術前の栄養状態が再断裂の危険因子であるならば、栄養指導や食事療法で改善が可能
そこで、術前の栄養状態と術後の再断裂リスクの関連を調査しました。

2.本件の概要

成果

肩腱板断裂は高齢者に多く見られる疾患であり、手術を行っても高齢になるほど治癒が難しいという課題がありました。従来の研究では、術後の再断裂リスク要因として、手術前の断裂サイズの大きさや筋肉の状態の悪化が指摘されていましたが、これらは術前に改善することが難しいものでした。

本研究では、術前に改善可能な栄養状態に注目し、高齢者における肩腱板断裂手術後の再断裂リスクと術前の栄養状態との関連を明らかにしました。

高齢者栄養リスク指標(GNRI)を用いて術前の栄養状態を評価し、2 年後の MRI で治癒群と再断裂群に分類した結果、GNRI が 103 未満の患者では再断裂リスクが最大 5.6 倍高くなることが確認されました。これにより、術前の栄養状態が術後の予後に重要であることが示され、今後の治療において栄養管理が再断裂予防に寄与する可能性が示唆されます。

新規性

本研究は、術前の栄養状態が肩腱板断裂手術後の再断裂リスクに具体的に影響を与えることを初めて明らかにしました。一般的な外科手術では GNRI 98 以上が正常とされますが、肩腱板断裂手術後の治癒には、より良好な栄養状態(GNRI 103 以上)が必要である可能性を示唆しています。この結果は、術前の栄養管理が再断裂予防の新たなターゲットとなる可能性を示しています。

3.今後の展望

今後の展望として、今回の研究で示された「術前の栄養状態が肩腱板断裂手術後の再断裂リスクに影響を与える」という発見を基に、さらなる研究が必要です。

まず、大規模な前向き研究を通じて、異なる年齢層や他の栄養評価指標を用いてこの関連性を詳しく検証することが求められます。また、実際に術前の栄養状態を改善することで、再断裂リスクをどの程度減らせるのかを明らかにするための臨床試験も重要です。たとえば、栄養補助食品や食事指導が手術の成功率にどのように影響するのかを検討することが考えられます。最終的には、これらの知見を基に、術前栄養管理を標準的な治療の一環として取り入れることで、高齢者の肩腱板断裂手術後の予後を大きく改善し、患者の生活の質向上につなげることが期待されます。

4.研究の成果発表等

掲載雑誌

Journal of Bone & Joint Surgery(impact factor: 5.3)

整形外科の代表的国際医学雑誌 であり、整形外科 のトップジャーナルである。

タイトル

Preoperative Nutrition Impacts Retear Rate After Arthroscopic Rotator Cuff Repair

著 者

設楽仁 (SHITARA, Hitoshi)

研究責任者

筑田博隆 (CHIKUDA, Hirotaka)

所 属

群馬大学大学院医学系研究科整形外科学

用語解説

*1 肩腱板断裂

腱板とは、肩甲骨と腕の骨(上腕骨)を安定させる 4 つの筋肉が上腕骨に付着する部分の総称です。これらの筋肉には、肩甲下筋(前方)、棘上筋(上方)、棘下筋および小円筋(後方)が含まれます。通常の腱はひものような形状ですが、腱板は平らな板状の構造をしているため「腱板」と呼ばれます。この腱板が切れてしまった状態が肩腱板断裂です。症状として、肩の痛みや筋力低下などが見られます。肩腱板断裂の患者は、肩を動かさなくても痛みが生じることがあり、その場合は内服薬や関節注射などで痛みを軽減します。一方で、動作時の痛みには薬が効きにくく、リハビリが必要です。しかし、保存的治療(薬物療法やリハビリ)でも症状が改善しない場合は、手術が必要となることがあります。

一度断裂した腱板は時間の経過とともに断裂が広がり、自然に治ることが期待できないため、症状や活動レベルに応じて手術が検討されます。

*2 肩腱板断裂手術

切れた腱を修復する手術であり、関節鏡と呼ばれる小さなカメラを使って体への負担を少なくして行います。手術の目的は、肩の機能回復と痛みの軽減です。手術では、糸が付いたネジを上腕骨に挿入し、断裂した腱に糸を通して元の位置に戻し、ネジで固定を行います。

 

*3 GNRI(高齢者栄養リスク指数)

血液検査で得られるアルブミン値と、身長・体重をもとに計算される栄養状態を示す数値です。この指数は、特に高齢者の健康状態や手術後の回復を予測するために使われます。以下は一般的な基準です:

82 未満: 重度栄養リスク

82 以上 92 未満: 中等度栄養リスク

92 以上 98 未満: 軽度栄養リスク

98 以上: 正常

詳細︎▶︎https://www.gunma-u.ac.jp/information/185730

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

高齢者における肩腱板断裂手術後の再断裂:術前の栄養状態が鍵 ~手術前の栄養状態が低いと、再断裂リスクがおよそ5.6倍~

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