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集中治療室における早期リハビリテーション|集中治療後症候群(PICS)の理解と予防

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集中治療室における早期リハビリテーションの重要性

集中治療室(ICU:Intensive Care Unit)は、重篤な状態にある患者が命を救われる場であり、人工呼吸器、ECMO、腎代替療法などの先進的な医療技術が駆使されます。これらの患者は、手術後、多発外傷、熱傷などの急性疾患によりICUに入室し、厳重な管理の下で治療を受ける必要があります。しかし、長期臥床による影響は深刻であり、筋力低下、関節拘縮、運動耐容能の低下、呼吸機能障害、精神的なせん妄や抑うつなどが発生するリスクが高まります。

こうした背景から、近年では「早期リハビリテーション」の取り組みがICUにおいて注目されています。早期離床や運動は、重症患者の回復を促進し、入院期間の短縮や人工呼吸器フリー日数の増加といった有益な結果をもたらすことが報告されています1)

早期リハビリテーションの具体的な効果

ICUにおける早期リハビリテーションは、単に生命を救うだけでなく、患者のその後の生活の質(QOL)を大きく左右します。特に、重症敗血症を克服した患者では、ICUを退院後も長期的にQOLが低下した状態が続くことが指摘されています2)。こうした背景から、集中治療後症候群(PICS:Post-Intensive Care Syndrome)の概念が提唱されました。PICSは、ICU入室中または退室後に生じる身体的、精神的、認知機能の障害を指し、患者のみならず、その家族にも影響を与えることが報告されています。

ICUにおける早期リハビリテーションの効果は、せん妄の発現率を低下させ、鎮静の深度を抑制すること、そして患者の早期離床や運動を促すことで、長期的な健康関連QOLの改善に繋がります。また、2023年には、日本でも「重症患者リハビリテーション診療ガイドライン」が発表され、ICUにおける早期リハビリテーションの重要性が高まっています。

ICUにおけるリハビリテーションの実践

ICUでのリハビリテーションは、患者にとっての身体的な負担を軽減しながら、できる限り早期に活動を促すことが目指されます。具体的には、ICUでの患者管理を包括的に行うための指針として「ABCDEFGHバンドル」というフレームワークが提案されています。このバンドルは、疼痛の評価や管理、せん妄の予防、早期離床や運動エクササイズ、そして家族を含めたケアなど、さまざまな要素を束ねた包括的なアプローチです。

リハビリテーションの専門職としては、特に「E:早期離床と運動」に焦点を当て、適切な鎮痛薬や鎮静薬を選びながら、患者が自発呼吸を取り戻し、できるだけ早くベッドから離床するサポートを行います。痛みの管理を徹底し、患者が快適な状態でリハビリを受けられるようにすることが、リハビリの成功に繋がります。

ABCDEFGHバンドル

ICUにおける早期リハビリテーションを進めるための指針として「ABCDEFGHバンドル」というフレームワークが用いられます。これは、各要素をバランスよく取り入れ、包括的に患者をケアするアプローチです。以下にそれぞれの項目の具体的内容です。

A:疼痛(Pain)
患者の疼痛を評価し、予防・管理する。痛みがない状態を目指すことで、リハビリの効果を高めます。

B:覚醒(Breathing and Awakening)
鎮静薬を適切に使用しながら毎日覚醒させ、自発呼吸を評価する。鎮静薬の過剰使用を避けることで、呼吸器離脱を早めます。

C:鎮痛・鎮静(Choice of Analgesia and Sedation)
患者の状態に応じた適切な鎮痛薬や鎮静薬を選択し、痛みの管理と覚醒を促します。

D:せん妄(Delirium)
せん妄の発生を予防・評価し、治療を行う。せん妄はICU滞在中に発生しやすく、リハビリに影響を与えるため、注意が必要です。

E:早期離床(Early Mobility and Exercise)
早期に離床や運動を開始する。早期のリハビリテーションは、身体機能の維持や回復に重要な役割を果たします。

F:家族(Family Involvement)
家族を含めたケアを提供し、家族もサポート体制に組み込みます。家族の協力が、患者のメンタルヘルスや回復に影響を与えます。

G:良好な申し送り(Good Handoff)
ICUから他の病棟や在宅へ移行する際、患者の情報を適切に伝える。特にPICSのリスクを伝え、適切なフォローアップを促します。

H:PICSの情報提供(PICS Information)
患者とその家族にPICSについて説明し、書面での情報提供を行う。PICSは長期的な障害を伴う可能性があるため、正確な情報を共有します。

集中治療後症候群(PICS)とその予防

PICSは、ICUでの治療後に残る障害であり、身体的機能だけでなく、精神的・認知的な側面にも影響を与えます。例えば、ICU入室患者の約60%が何らかのPICSの症状を残存しているとのデータがあります3)。PICSは、患者本人だけでなく、その家族にも精神的負担をもたらすため、ICUを退室した後の長期的なケアが重要です。

PICSの予防には、早期リハビリテーションの導入が不可欠です。患者の早期離床と運動を推進するだけでなく、家族にもリハビリテーションの意義や効果を理解してもらい、メンタルヘルスのサポートを提供することが求められます。さらに、ICUから一般病棟や在宅に移行する際にも、適切な申し送りと情報提供が不可欠です。

まとめ

集中治療室における早期リハビリテーションは、単に患者を救命するだけでなく、ICUを退室した後の生活の質を大きく改善する可能性を秘めています。リハビリ職種としては、適切な鎮痛管理を行いつつ、患者が快適にリハビリを受けられる環境を整えることが求められます。PICSの予防を視野に入れた包括的なケアを提供し、患者とその家族が安心して回復への道を進むためのサポートをすることが重要です。

参考文献

1)Kayambu G et al. Physical therapy for the critically ill in the ICU: a systematic review and meta analysis. Crit Care Med.2013

2)Nesseler N et al. Long-term mortality and quality of life after septic shock: a follow-up observational study.Intensive Care Med, 2013

3)Kawakami et al, Prevalence of post-intensive care syndrome among Japanese intensive care unit patients: a prospective, multicenter, observational J-PICS study Crit Care, 2021

>>具体的な臨床での実際と取り組みと神経筋電気刺激療法

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