理学療法士として患者を支え、教員として次世代を育て、トレーナーとして選手を支え、そして監督としてチームを率いる──これほど多面的な役割を一人で担う人物がいることに驚く人も多いでしょう。今回のインタビューでは、松本先生がどのようにしてこれらすべての役割を両立させているのか、その背景や哲学、そして未来へのビジョンに迫ります。この記事を通じて、多岐にわたるキャリアの裏側と、理学療法士としての新たな可能性を発見しましょう。
[略歴]
2015年 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科 卒業
2015年〜2017年 順天堂大学医学部附属練馬病院
2017年〜2019年 医療法人社団顕伊会さい整形外科
2019年〜2021年 株式会社東京リハビリテーションサービス(現株式会社リニエR)
2021年〜現在 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科
[サッカー関連職歴]
2012年〜2015年 栃木県トレセンU12女子コーチ
2015年〜2021年 東京都トレセンU12女子コーチ
2021年〜現在 ヴェルフェ矢板トップチーム(関東社会人1部)トレーナー、
ヴェルフェ矢板レディース(U15/U18)監督
2015年 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科 卒業
2015年〜2017年 順天堂大学医学部附属練馬病院
2017年〜2019年 医療法人社団顕伊会さい整形外科
2019年〜2021年 株式会社東京リハビリテーションサービス(現株式会社リニエR)
2021年〜現在 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科
[サッカー関連職歴]
2012年〜2015年 栃木県トレセンU12女子コーチ
2015年〜2021年 東京都トレセンU12女子コーチ
2021年〜現在 ヴェルフェ矢板トップチーム(関東社会人1部)トレーナー、
ヴェルフェ矢板レディース(U15/U18)監督
斉藤さん
松本先生、こんにちは。よろしくお願いします。
松本さん
お願いいたします。
斉藤さん
今日は松本先生の活動について、普通の理学療法士とは少し違った経歴を歩まれている点や、その活動内容についてお伺いしたいと思います。
斉藤さん
さまざまなことをされていると思いますので、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
松本さん
現在、私は国際医療福祉大学の理学療法学科で教員を務めています。また、ライフワークとしてサッカーを続けており、地域の女子サッカーチームで監督をしています。
松本さん
これまでにも地域の選抜活動やトレセンに関わってきました。そして、大学院生として博士課程の3年目でもあり、研究活動にも取り組んでいます。
松本さん
また、社会人チームのトレーナー活動も行い、学生たちと一緒に活動を統括しています。
斉藤さん
学生、教員、サッカー監督、そしてトレーナーと、多岐にわたる活動をされていますね。
松本さん
そうですね。
斉藤さん
サッカーの監督というと、理学療法士としては少し珍しいキャリアだと思います。現在どのようなカテゴリーのチームで監督をされているのですか?
松本さん
中学生年代のU-15と、高校生年代のU-18の混合チームである女子クラブチームの監督をしています。選手は25人ほど在籍しており、日々トレーニングを指導しています。
斉藤さん
監督になるには、ただ希望するだけでは難しいですよね?
松本さん
そうですね。サッカー協会が認める指導者資格を取得する必要があります。私はA級ジェネラルという資格を持っており、JFLまでのカテゴリーで監督を務めることができます。最上位の資格であるS級ライセンスでは、Jリーグや日本代表の監督が可能になります。
引用:(公財)広島県サッカー協会
斉藤さん
その資格を取得するには大変な努力が必要だったのではないでしょうか?
松本さん
はい、資格取得には講習会が必要で、2021年に取得しました。一週間の講習を年に3回受講し、その間は勤務を調整する必要がありました。講習中には、大学生男子を対象とした指導実践なども行いました。
斉藤さん
理学療法士としての活動だけでも大変そうですが、サッカーにここまで深く関わろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
松本さん
サッカーが大好きだったことが大きいです。サッカーを楽しむ子どもたちを育てたいという思いがありました。自分の知識不足で選手たちが不幸にならないよう、スキルアップを目指してライセンスを取得しました。好きなことを広めるという点では、ラーメン屋を勧める感覚に近いかもしれません。
斉藤さん
その考え方は、理学療法士としてのアップデートにも通じるものがありますね。
松本さん
そうですね。サッカー指導者講習では「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」という言葉がよく使われます。この姿勢は理学療法士としても重要だと感じています。
斉藤さん
サッカー指導と理学療法士の仕事には共通点が多いように思います。例えばどのような部分でリンクしていると感じますか?
松本さん
仮説検証や観察する力は共通しています。患者さんの動きを観察し、原因を探り、アプローチして結果を検証する。このプロセスは、サッカー指導においても同じです。守備のテーマを設定し、改善のために指導し、結果を検証するという流れです。
斉藤さん
確かにその通りですね。また、研究活動にも取り組まれているとのことですが、どのようなテーマで研究されているのですか?
松本さん
アマチュアサッカー選手の体組成に関する研究を行っています。特に体脂肪率や筋肉量を測定し、カテゴリーごとの違いや、プロとアマチュアの差を調査しています。
松本さん
現在、私が関わる関東一部リーグのチームと県リーグレベルの選手を比較した際に、筋肉量や体脂肪率に差が見られることが分かりました。
松本さん
また、プロ選手との比較も行い、体組成が選手の競技レベルを示す指標になり得ることを感じています。
斉藤さん
それは高校生や中学生といった成長期の選手にも応用できそうですね。
松本さん
そうですね。成長期の子どもたちでは、優れた体組成を持っていても、ジャンプや走る能力がサッカーパフォーマンスに直結しない場合があります。その乖離を埋めるための指導や、選抜選手とそうでない選手の違いを調べることで、最終的には女子サッカーに生かしたいと考えています。
斉藤さん
そうですよね。女子選手と男子選手では体の出来上がる時期が異なります。その違いを踏まえて、今後どのような点に注目していきたいとお考えですか?
松本さん
昨日も皇后杯の補助に入りましたが、皇后杯は天皇杯と同じく日本最高峰の大会で、1-2回戦ではなでしこ二部のチームや高校生の強豪チームが出場します。
松本さん
男性選手の場合、一定レベル以上になると体格が似通ってくる傾向がありますが、女子選手は体格にバラつきがあり、細身の選手や下半身に脂肪が多い選手など、さまざまです。
松本さん
この違いをデータとして解析し、アマチュアとトップレベルの女子選手の体格の違いを明確にしたいと考えています。男子ほど乖離は少ないかもしれませんが、女子選手特有の課題を明らかにすることで、より良い指導につなげたいと思います。
斉藤さん
実際に、病院でケガをした選手の話を聞くのと、現場で見るものは大きく違いますよね。その違いを踏まえた上で、松本先生の今後の展望について教えてください。
松本さん
今後について言えば、特に女子選手のデータが不足している現状を改善したいです。男子選手でも高いレベルの選手のデータを取るのは難しいですが、女子選手は中堅からハイレベルの選手のデータ収集がさらに困難です。
松本さん
そのため、まずはエンジョイレベルから少し上のカテゴリーでデータを集め、信頼性を高めていきたいと考えています。
松本さん
こうしたデータが蓄積されれば、日本女子サッカーのレベルアップにつながると信じています。また、研究面で女子選手の体格やパフォーマンスの特性を明らかにし、それを基にした指導やトレーニングを提案することで、女子サッカー全体を支えていきたいと考えています。
斉藤さん
そのような研究を通じて、筋量や体組成がパフォーマンス向上や怪我の予防に役立つと証明されれば素晴らしいですね。
松本さん
そうですね。特に日本の女子選手は海外の選手に比べてフィジカル面での差が課題です。フィジカルスタンダードの底上げが必要であり、データの蓄積が日本女子サッカーのレベルアップに繋がると考えています。
斉藤さん
今若い先生たちや学生がスポーツ分野に関わる際、何を心がけるべきかアドバイスをいただけますか?
松本さん
今の学生教育で感じるのは、「言葉」と「行動」を一致させることの大切さです。
松本さん
「スポーツに関わりたい」と口にする学生は多いですが、実際にフィールドへ行く行動が伴わないことが少なくありません。一方で、時間や労力を惜しまず現場に来る学生もいます。
松本さん
私の友人には、大学の入学式で「日本代表のトレーナーになる」と宣言し、その日から先生に相談して行動を起こした人がいます。そのような強い意志と行動力が成功に繋がると思います。
松本さん
また、自分の目標を周囲に伝えることで、助けてもらえることもあります。特にスポーツ分野では、実力と行動力に加え、チャンスを逃さない準備が必要です。未来に向けて準備を続け、常に動ける姿勢を持つことが重要だと思います。
斉藤さん
本当にその通りですね。準備をしておくことで、チャンスが来た時に行動できる力が大事ですね。
松本さん
そうです。そのために、明確な目標と、それを実現するための行動力を持つことが大切です。1球団に関わるプロ選手は数十人以上いますが、トレーナーはせいぜい数名です。ある意味でプロのトレーナーになることはプロ選手になるよりも難しいかもしれません。その分努力が報われた時の達成感も大きいです。
斉藤さん
最後に、スポーツ現場を目指す若い世代に向けた励ましのメッセージをお願いします。
松本さん
私はこれまで、素晴らしい指導者や理学療法士に出会ったからこそ今があります。憧れの存在を見つけることの大切さです。その人を目標にして、行動を積み重ねることで、将来の自分を形作ることができます。
松本さん
自分のビジョンがまだぼんやりしているなら、まずは自分の理想とする人を見つけて、その人に近づく努力をしてみてください。それがスポーツ現場での成功への第一歩になると思います。
斉藤さん
ありがとうございました。またお話を聞かせてください。
松本さん
ありがとうございました。
松本先生の多彩なキャリアは、理学療法士としての枠を超え、新たな可能性を切り開くものでした。患者への支援、教育、スポーツへの貢献という一見異なる分野が、実は一つの信念で繋がっていることを実感させられるインタビューでした。この記事を通じて、読者の皆様にも「好きなことを追求し続ける」ことの大切さが伝われば幸いです。松本先生の挑戦はまだ続きます。私たちもその姿を追いながら、それぞれの分野での挑戦を続けていきましょう。