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ハムストリングスのコンディションを客観的に評価できる指標を、日本人スポーツ選手向けに作成しました ~競技復帰や再発予防への活用に向けて~

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本研究成果のポイント

・ノルウェーで作成された、ハムストリングスのコンディションを客観化できる、選手立脚型指標(Hamstring Outcome Score: HaOS)の国内での普及を目的として、日本語版を製作しました。また、その妥当性および信頼性を検証しました。

・その結果、日本語版HaOSは高い妥当性、信頼性を示し、また過去に肉ばなれの経験がある例とない例で得点が異なる傾向となることを示せました。

・本研究の結果は、今後のハムストリング肉ばなれ後の競技復帰までのフォローアップや再発予防のためのスクリーニングにつながることが期待できます。

概要

・国外で使用されているHaOSの国内での有用性を検討するために、専門家による翻訳作業、および国内での妥当性、信頼性を検証しました。

・その結果、日本語版HaOSは良好な妥当性、信頼性を示しました。さらに肉ばなれ既往歴の有無で比較したところ、得点の傾向が異なることが分かりました。

・本研究成果は、2024年10月14日に「Scientific Reports」に掲載されました。

論文に関する詳細情報

論文名:The validity and reliability of a Japanese version of the web-based hamstring outcome score.

著者:堤 省吾1、前田慶明1*、Anders Hauge Engebretsen2、釜付祐輔3、永野康治4、黒田彩世1、石田礼乃1、田村佑樹1、田城 翼1*、金田和輝1、有馬知志1、吉見光浩1、小宮 諒1、浦辺幸夫1

1. 広島大学大学院医系科学研究科総合健康科学

2. オスロ大学病院

3. オスロスポーツ外傷研究センター

4. 日本女子体育大学

* 責任著者

掲載雑誌:Scientific Reports(Q1)

DOI:10.1038/s41598-024-71846-w

背景

ハムストリングス肉ばなれは再発率が高いスポーツ傷害の代表例として知られ、多くの先行研究が発表されています。先行研究から、ハムストリングス肉ばなれを発症する選手はハムストリングスの筋力低下を呈していることや、初回の重症度が高いことは再発のリスクと指摘されている一方で、過去数十年でハムストリングス肉ばなれ発生率は減少していないことが問題視されています。これらはハムストリングス肉ばなれ発生に関与する因子が多岐に渡ることを示唆するものと考えられます。

スポーツ傷害の世界では、けがをした箇所のコンディションや選手の心理的不安などを客観的に得点化した「選手立脚型指標」を用いて再受傷予防につなげる取り組みがなされており、有益性も多く報告されています。しかしハムストリングス肉ばなれの予防に関する研究においては、筋力や関節可動域、また画像情報から得られた組織損傷に組織損傷に焦点を当てたものが大半を占めており、選手立脚型指標に関する調査は多くありません。そこで本研究では、過去に国外で有効性が報告されている、ハムストリングスに特化した選手立脚型指標である、Hamstring Outcome Score:(HaOS)が国内でも活用できるのかを検証しました。

研究成果の内容

HaOSは19個の質問からなる選手立脚型指標であり、総得点(0~100点)以外にも「Symptoms(例:スポーツ活動中の症状)」「Soreness(例:張りの程度)」「Pain(例:痛みの程度)」「Activity(例:活動の制限)」「Quality of life(例:不安や自信)」の5項目ごとにもハムストリングスのコンディションを点数化できます(図1)。本研究の流れとしては、事前にHaOS原作者であるDr. Anders(オスロ大学病院、医師)より日本語訳の許可をいただいた後、先行研究の方法に基づいて、段階的に作業を進めました。最終的にDr. Andersに正式に承認していただきました。その後、国内での信頼性を検証するために、日本語を母国語とする学生アスリート233人を対象に、日本語版HaOSに2度回答してもらい、同一人物の間で大きな誤差が生じていないかを確認しました。次にハムストリングス肉ばなれの既往の有無で、日本語版HaOSの傾向に違いがみられるのかを検証しました。

結果として、日本語版HaOSには高い信頼性があること、またハムストリングス肉ばなれの既往がある群の方が、ない群と比較してHaOSが低値を示すことが分かりました。さらに既往の回数を1回、2回以上(再発)に細分化し、既往無し群との3群で比較したところ、「Symptoms」「Soreness」「Quality of life」で有意差がみられ、特に「Quality of life」では、1度でも既往がある場合、回数に関わらず低値となっている結果が得られました(図2)。

以上のことから、日本語版HaOSは、これまで曖昧な表現のまま解釈されていた筋の張り感、さらに肉ばなれを起こしてしまうのではないかといった不安感までも客観化できる指標であることを示唆する結果となりました。日本語版HaOSを作成したことで、ハムストリングスのコンディションを点数化でき、本邦でも選手の微妙なコンディションの変化を誰もが簡便に把握できるようになりました。

 

今後の展開

今回は横断研究であったために、肉ばなれ既往の有無による日本語版HaOSの比較しかできていません。しかし、HaOSは本邦において肉ばなれ受傷した選手の競技復帰基準や、選手の傷害予防にも応用できる可能性があります(図3)。これらを実現するためには、それぞれの基準値を明確にする必要(例:HaOSが何点以上であれば再発リスクが低い状態で競技復帰が可能/肉ばなれが発生しにくい)があります。

今後は、基準値を作成するために調査を進めて参ります。将来的には、日本語版HaOSを競技復帰基準としての一指標、そしてスポーツ現場での定期的なモニタリングによる傷害予防へと普及させていきたいと考えています。

図1 Hamstring outcome scoreの概要

図2 ハムストリングス肉ばなれの既往の有無による日本語版HaOSの比較

図3 HaOSを用いた将来展望と有用性について

掲載誌:Scitentific Reports 

詳細︎▶︎https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/88248

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

ハムストリングスのコンディションを客観的に評価できる指標を、日本人スポーツ選手向けに作成しました ~競技復帰や再発予防への活用に向けて~

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