Contemporary clinical perspectives on chronic low back pain: The biology, mechanics, etc. underpinning clinical and radiological evaluation
JOR Spine, 2025
Stone Sima,Ashish Diwan
Spine Labs, St George and Sutherland Clinical School, University of New South Wales, Kogarah, New South Wales, Australia
PMID:39867670 PMCID: PMC11757297 DOI: 10.1002/jsp2.70021
はじめに
慢性腰痛(Chronic Low Back Pain: LBP)は、世界的に最も一般的な健康問題の一つであり、多くの人々が生涯のうちに経験する疾患です。特に高齢化が進む日本においては、腰痛に悩む患者の増加が顕著であり、その診断と治療法の向上が急務となっています。本記事では、最新の研究をもとに、慢性腰痛の病態生理、診断手法、そして今後の治療戦略について解説します。
慢性腰痛の診断における課題
慢性腰痛の原因は多岐にわたり、変性椎間板疾患(IVD変性)、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症などが挙げられます。しかし、これらの疾患は画像診断のみで確定できるものではなく、臨床症状との整合性が重要です。患者ごとに異なる症状の表れ方を適切に評価するためには、詳細な病歴聴取と身体診察、加えて最新の画像診断技術の活用が求められます。
特に近年、痛みの種類を神経障害性疼痛(Neuropathic Pain: NeP)と侵害受容性疼痛(Nociceptive Pain: NoP)に分類し、それぞれに適した治療法を選択することが重要視されています。NePは神経損傷や炎症によって生じ、従来の鎮痛薬では十分な効果が得られにくいとされています。一方、NoPは組織損傷や機械的負荷による痛みであり、運動療法や理学療法による介入が有効とされることがあります。
画像診断の最新技術
従来、腰痛の画像診断にはX線やMRIが用いられてきましたが、それぞれに限界があります。例えば、MRIでは椎間板の構造異常を捉えられますが、炎症や痛みの直接的な原因を特定するのは難しいとされています。そこで、近年の研究では定量的MRI(T2*リラクソメトリー、T1-rho測定)が注目されています。これらの技術により、椎間板の水分含有量や代謝状態を詳細に評価できるようになり、従来のMRIよりも精度の高い診断が可能となることが期待されています。
慢性腰痛の治療戦略
1. 個別化医療の重要性
最新の研究では、個別化治療(Precision Medicine)の重要性であるとされています。患者の痛みの種類や原因に応じて、適切な治療を選択することが求められます。
◯侵害受容性疼痛(NoP): 物理療法、運動療法、抗炎症薬(NSAIDs)などが有効とされることがありますが、治療法の選択は患者の状態や病態に応じて個別に判断されるべきです。
◯神経障害性疼痛(NeP): 神経障害性疼痛に特化した薬剤(プレガバリン、デュロキセチンなど)、神経ブロック療法、バイオマーカーを活用した治療が有効とされることがあります。
2. 画像診断と臨床評価の統合
診断精度を向上させるためには、画像診断と臨床評価の統合が不可欠です。近年、PainDETECT質問票を用いた痛みの分類が行われ、これをMRI評価と組み合わせることで、診断の精度が向上すると考えられています。
3. バイオマーカーの活用
一部の研究では、慢性腰痛患者において炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、PGE2など)のレベルが上昇していることが報告されていますが、これがすべての患者に当てはまるわけではありません。今後、これらのバイオマーカーを指標とした診断および治療法の確立が期待されています。
4. 低侵襲治療と外科的治療のバランス
重度の椎間板変性や神経圧迫がある場合、手術が必要となることもあります。しかし、手術の適応を正しく見極め、できる限り低侵襲な治療(椎間板内注射療法、神経ブロックなど)を優先することが推奨されています。
5. 腸内細菌と椎間板変性の関連性
最近の研究では、腸内細菌と椎間板変性の関連性が指摘されており、「腸-椎間板軸(Gut-Disk Axis)」という概念が提唱されています。ただし、この概念はまだ研究段階であり、今後の検証が必要です。これが証明されれば、今後、腸内フローラを調整する治療(プロバイオティクス、プレバイオティクス)が慢性腰痛の新たな治療法となる可能性があります。
今後の研究課題
1.定量的MRIの臨床応用 – 新たな画像技術がどこまで診断精度を向上させるか
2.腸内細菌と慢性腰痛の関係 – マイクロバイオーム療法が腰痛治療に活用できるか
3.バイオマーカーを用いた診断法の確立 – 客観的指標としての炎症マーカーの活用
慢性腰痛の診断と治療は、依然として大きな課題を抱えていますが、最新の研究がもたらす知見は、より的確な診断と治療への道を切り開く可能性を秘めています。臨床医や研究者が協力し、エビデンスに基づいたアプローチを追求することで、より多くの患者が適切な治療を受けられるようになることが期待されます。