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後天性(頭部外傷)脳損傷とソーシャルメディア活用

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‘Can be challenging but usually worth it!’: International survey of rehabilitation professionals’ experiences of social media use after acquired brain injury
International Journal of Language & Communication Disorders, 2025
Melissa (Liss) Brunner, Leanne Togher
Faculty of Medicine and Health, The University of Sydney, Australia

 

はじめに

後天性脳損傷(Acquired Brain Injury:ABI)を負った患者は、認知コミュニケーション能力の低下により、ソーシャルメディアの活用に苦労することが多い。近年の研究では、リハビリテーションにおけるソーシャルメディアの活用が注目されており、患者の社会的つながりや心理的健康に貢献する可能性が示唆されている。本記事では、国際調査に基づき、ABI患者のリハビリを支援する専門家の視点から、ソーシャルメディアの活用とその課題について解説する。

ソーシャルメディアの利点と課題

ABIを負った患者は、怪我によって社会的孤立や精神的な不安を抱えることが多い。ソーシャルメディアは、このような状況にある患者にとって、社会的つながりを取り戻す手段となる。特に、非同期的なコミュニケーションが可能なプラットフォームは、即時の応答が必要ないため、認知コミュニケーション障害を持つ患者にとって利用しやすい。

しかし、ソーシャルメディアの活用には課題も多い。例えば、患者が適切な情報を共有できない、ネットいじめや詐欺に遭うリスクが高い、または認知機能の低下によってオンラインでの交流が困難になることが挙げられる。調査では、リハビリ専門家の多くが、患者の安全を確保するためのガイドラインやトレーニングの不足を懸念していることが明らかになった。

調査の結果

2020年7月から2022年7月にかけて、オンライン調査を実施し、83人のリハビリ専門家のうち、68人のデータを解析対象とした。回答者の86%は25〜55歳で、主にオーストラリア(53%)、イギリス(24%)、アメリカ(16%)で活動していた。多くは言語聴覚士:ST(68%)、作業療法士:OT(9%)、神経心理学者(7%)で、平均14.3年の経験を持っていた。

ソーシャルメディアの利用状況

回答者の80%以上がFacebookを使用しており、その他のよく使用されるプラットフォームは以下の通りであった。

Instagram(76%)

WhatsApp(76%)

YouTube(76%)

Twitter(X)(60%)

LinkedIn(45%)

Pinterest(40%)

Google Scholar(40%)

一方で、ABI患者のソーシャルメディア利用を積極的にサポートしている専門家は少なく、その多くが制限的または受動的な対応を取っていた。この背景には、以下のような課題が挙げられる。

技術的な障壁:患者自身がデバイスを持っていない、あるいは使いこなせない

認知的な課題:情報の処理やフィードバックの理解が難しい

リスク管理の難しさ:オンライン詐欺、ネットいじめ、不適切な情報共有のリスク

専門家の知識不足:ソーシャルメディアの活用方法に関する専門的なトレーニングが不足

ソーシャルメディアを活用するための支援策

OTのサポート

OTは、ABI後のソーシャルメディア利用を支援するために、以下のようなサポートが行える と述べられています。

1.アクセス支援

 ⚪︎デバイスの適応や環境調整(例:視空間認知や手と目の協調に配慮したデバイス設定)

 ⚪︎アプリのカスタマイズや使いやすいインターフェースの選定(例:視覚的負担を軽減する設定)

 ⚪︎物理的な操作サポート(例:リハビリ中の手の動きや細かい操作の訓練)

2.サイバーセーフティの指導

 ⚪︎プライバシー設定や安全なオンライン行動の指導

 ⚪︎詐欺や個人情報流出のリスクを理解するトレーニング

3.ソーシャルメディアの実践的トレーニング

 ⚪︎ソーシャルメディアを利用するための段階的なトレーニング(例:サポート付きの練習アカウントを作成し、試験的に利用する)

 ⚪︎家族や支援者との協力を通じた、安全な使用のサポート

 ⚪︎リハビリチームと連携し、目標に沿ったソーシャルメディア利用を促進

4.心理的サポートと動機付け

 ⚪︎患者がソーシャルメディアを再開する際の不安を軽減する支援

 ⚪︎「意味のある活動」としてソーシャルメディア利用を位置づけ、適切な目標設定を行う

STのサポート

STは、コミュニケーション能力を向上させるために、以下のようなソーシャルメディア活用支援を行える と述べられています。

1.オンラインでのコミュニケーション訓練

 ⚪︎テキスト、絵文字、写真などを用いたコミュニケーション練習(言語的負担を軽減)

 ⚪︎ソーシャルメディアを活用した「会話の開始」や「応答のタイミング」の練習

 ⚪︎語彙の選択や文章作成のサポート

2.ソーシャルスキルの向上

 ⚪︎適切な投稿内容やコメントの書き方を指導(例:「どのように適切なコメントをするか」「誤解を招かない表現とは?」)

 ⚪︎感情表現の練習(例:テキストだけで伝わる表現の練習)

 ⚪︎非言語的コミュニケーションの理解促進(例:絵文字の適切な使用方法)

3.安全なオンラインコミュニケーションのサポート

 ⚪︎オンラインでのトラブル対応の練習(例:ネガティブなコメントへの対処法)

 ⚪︎誤解を避けるための「ポスト前の確認ルール」の導入

 ⚪︎患者の投稿を安全に管理する方法の指導(例:家族や介護者と共有)

4.グループセッションの活用

 ⚪︎ソーシャルメディアを活用したグループリハビリ(例:「SNS上で会話する訓練」)

 ⚪︎ピアサポートを通じた実践的な学習の場を提供

5.オンラインコミュニティとの連携

 ⚪︎失語症やABI患者向けのサポートグループへの参加を支援

 ⚪︎オンラインでの「役割」を持ち、継続的な社会参加を促す

まとめ

ABI患者のリハビリテーションにおけるソーシャルメディアの活用は、社会的つながりの回復や心理的サポートの面で大きな可能性を秘めている。一方で、リスク管理や専門家の知識不足といった課題も多く、より具体的な支援策の導入が求められる。今後、エビデンスに基づくガイドラインの整備や、専門家向けトレーニングの拡充が進めば、ABI患者がより安全にソーシャルメディアを活用できるようになるだろう。この研究が示すように、ソーシャルメディアをリハビリの一環として積極的に取り入れることは、難しいながらも価値のある取り組みである。医療専門家、患者、家族が協力し、最適な方法を模索することが求められている。

後天性(頭部外傷)脳損傷とソーシャルメディア活用

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