原著論文: Prathiyankara Shailendra, Terry Boyle. (2022). Resistance Training and Mortality Risk: A Systematic Review and Meta-Analysis. American Journal of Preventive Medicine.
近年、レジスタンストレーニングの健康増進効果が注目されています。理学療法の臨床現場では、筋力強化を目的とした運動処方が日常的に行われていますが、その長期的な健康アウトカムについてのエビデンスは限られていました。本記事では、メタ分析結果を基に、レジスタンストレーニングが死亡リスクに与える影響と、理学療法士の臨床実践への応用について解説します。
レジスタンストレーニングが死亡リスクを低下させるメカニズム
レジスタンストレーニングは、筋力や筋持久力の向上だけでなく、血圧の低下、インスリン感受性の向上、脂肪組成の改善といった健康効果をもたらします。これらの効果が、心血管疾患(CVD)やがんのリスク低減に寄与すると考えられています。
例えば、レジスタンストレーニングによって内臓脂肪が減少し、炎症マーカーの低下や糖代謝の改善が促進されることで、動脈硬化やがんの進行を抑制する可能性があります。
メタ分析から見えた重要な発見
レジスタンストレーニングが死亡リスクを有意に低減することが確認されました:
・全死因死亡率: 15%減少 (RR=0.85, 95% CI=0.77–0.93)
・心血管疾患(CVD)死亡率: 19%減少 (RR=0.81, 95% CI=0.66–1.00)
・がん死亡率: 14%減少 (RR=0.86, 95% CI=0.78–0.95)
特筆すべきは、レジスタンストレーニングと有酸素運動を組み合わせることで、死亡リスクの低減効果がさらに高まることです。この知見は、理学療法士による運動処方において、バランスの取れたプログラム設計の重要性を示しています。
最適なトレーニング量と頻度
本研究の用量反応分析によると、週に約60分のレジスタンストレーニングで死亡リスクの低減効果が最大となることが示されました(最大27%減少、RR=0.74, 95% CI=0.64–0.86)。
興味深いことに、60分を超えるトレーニングでは効果が徐々に減少しました。これは過度なトレーニングが心血管系への負担を増加させる可能性を示唆しています。理学療法士として、適切な運動量の設定が患者の安全性と効果の両面で重要であることを理解する必要があります。
運動の種類とその効果
運動の種類 | 全死因死亡率の低減 | CVD死亡率の低減 | がん死亡率の低減 |
---|---|---|---|
レジスタンストレーニングのみ | 18%減 (RR=0.82) | 18%減 (RR=0.82) | 16%減 (RR=0.84) |
有酸素運動のみ | 25%減 (RR=0.75) | 29%減 (RR=0.71) | 効果なし (RR=0.89) |
両方併用 | 40%減 (RR=0.60) | 46%減 (RR=0.54) | 28%減 (RR=0.72) |
レジスタンストレーニングと有酸素運動の例
レジスタンストレーニング(RT)
◯ウエイトトレーニング(ダンベル、バーベル、ケトルベルなど)◯マシントレーニング(レッグプレス、ラットプルダウン、チェストプレスなど)
◯自重トレーニング(スクワット、腕立て伏せ、懸垂、プランクなど)
◯レジスタンスバンドを使用したトレーニング
◯ヨガやピラティス(筋力強化要素を含むもの)
有酸素運動(MVPA)
◯中等度: 早歩き、軽いジョギング、サイクリング(ゆっくり)◯高強度: ランニング、HIIT、速いサイクリング
◯推奨時間: 週150~300分(中等度)または週75~150分(高強度)
理学療法士のための臨床応用
この研究結果は、理学療法士が患者に運動プログラムを提供する際に重要な示唆を与えています。特に、高齢者や慢性疾患を持つ患者に対するリハビリテーションにおいて、以下のポイントを考慮することが推奨されます。
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