病院経営の危機的状況
2024年度の診療報酬改定が全国の病院経営に深刻な影響を及ぼしています。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会、全国自治体病院協議会の6病院団体が合同で「【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院経営状況(確定版)」を公表しました。調査では、医業赤字の病院が69.0%(前年より4.2ポイント増加)、経常赤字の病院が61.2%(前年より10.4ポイント増加)と、赤字病院の割合が大幅に増加していることが判明しました。
病院経営の厳しさがかつてないレベルに達していることを浮き彫りにしています。物価や人件費の高騰、診療報酬の引き上げ不足など、さまざまな要因が経営を圧迫し、多くの病院が存続の危機に直面しています。
診療報酬改定後の経営状況
診療報酬の改定後、病院の経営指標は軒並み悪化しています。
2024年度の主要経営指標(100床あたり平均)
◯医業収益:前年より+1.9%増加(1,119,530千円)
◯医業費用:前年より+2.6%増加(1,186,451千円)
◯医業利益率:-6.0%(前年 -5.2%)
◯経常利益率:-3.3%(前年 -1.0%)
特に、黒字病院と赤字病院の経営状況の差が顕著になっており、病床利用率の差が病院の収益性を左右する要因になっています。
◯黒字病院の病床利用率:85.5%(前年+1.1ポイント)
◯赤字病院の病床利用率:77.5%(前年+0.9ポイント)
病院経営が厳しくなる理由
1) 物価と賃金の高騰
◯診療材料費:前年比 +4.4%
◯給与費(人件費):前年比 +4.3%
◯委託費:前年比 +4.3%
◯水道光熱費:前年比 +8.2%
診療報酬の増加率(+1.9%)に対し、病院の運営コストの増加率がこれを大きく上回っているため、多くの病院が経営難に陥っています。
2) コロナ関連補助金の削減
◯2023年度まで提供されていたコロナ緊急包括支援事業補助金は、99.6%減しました。
◯水道光熱費補助金も75%以上減少しました。
これにより、これまで補助金で支えられていた病院が一気に赤字に転落しています。
3) 黒字病院と赤字病院の違い
◯黒字病院の医業収益増加率は2.3%、赤字病院は1.7%にとどまっています。
◯外来診療収益は、黒字病院では+0.2%増加、赤字病院では-0.9%減少しています。
◯病床利用率の差(黒字病院85.5%、赤字病院77.5%)が経営に直結しています。
病院団体の提言と求められる対策
6つの病院団体は「病院経営は危機的状況」であり、「このままでは地域医療が崩壊する」と警鐘を鳴らしています。主な対策は以下のとおりです。
1.診療報酬の引き上げ:物価や賃金の上昇に対応した補正が必要です。
2.緊急財政支援の実施:経営難に陥る病院を救うための追加財政措置を求めています。
3.社会保障予算の見直し:「社会保障費の伸びを高齢化の伸びに抑制する」方針の撤廃を求めています。
病院の種類や規模別の影響
調査によると、病院の種類や規模によって、経営の厳しさに差があることが分かっています。
◯一般病院:医業利益率 -6.4%、経常利益率 -3.7%(最も厳しい経営状況)
◯療養・ケアミックス病院:医業利益率 -1.8%、経常利益率 +0.2%(比較的安定)
◯精神病院:医業利益率 -3.8%、経常利益率 -1.0%(比較的軽微)
病床規模別の経営状況(2024年):
◯100~199床規模病院:医業利益率 -4.1%(前年 -3.3%)
◯300~399床規模病院:医業利益率 -8.3%(前年 -7.8%)
◯500床以上の大規模病院:経常利益率 -2.8%(前年 -0.6%)
今後の見通しと求められる対応
診療報酬改定が行われたことで、病院経営の悪化は避けられない状況となっています。物価上昇や人件費の増加により、多くの病院が赤字に転落し、地域医療の崩壊が現実のものとなりつつあります。この状況を打開するためには、
◯診療報酬の適正な見直し
◯病院経営への財政的支援の強化
◯病院の効率化と運営改革 が急務となります。
政府の動向に注目しつつ、医療現場の声を届けていくことが重要です。