令和7年3月12日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第605回)が開催され、「訪問看護ステーションの指導監査」について報告が行われました。訪問看護ステーションの数は近年増加傾向にあり、請求事業所数は約1万7千ヵ所に達しています。一方で、訪問看護療養費の急増や不適切な請求事案が問題視されており、指導監査の見直しが検討されています。
訪問看護療養費の増加と請求状況
訪問看護事業所は増加し続けていますが、特に営利法人の新規参入が顕著です。平成20年から令和5年までの15年間で、訪問看護療養費の算定件数は約6.5倍、年間医療費は約9.4倍に増加しました。
年間医療費の規模が大きい訪問看護ステーションほど増加率も高く、年間医療費1,500万円未満の事業所は122%の増加率であるのに対し、2.5億円以上の事業所は1,280%の増加となっています。さらに、レセプト1件あたりの平均医療費を見ても、50万円以上の高額請求を行うステーションの増加率は717%に達しています。
訪問看護療養費(医療保険)における1人あたり1カ月の請求額は3万円台が最も多く、平均は98,125円でした。しかし、請求額が60万円以上に達するケースも全体の約1%強存在しており、高額請求に対する監査の必要性が指摘されています。
訪問看護ステーションへの指導監査の課題
現在の訪問看護ステーションへの指導は、開設時の一律指導や、審査支払機関や利用者からの情報提供を端緒としたケースに限られています。地方厚生局による個別指導の実施件数も年間20件程度と限定的で、全国の訪問看護ステーションに対して十分な監査が行われているとは言い難い状況です。
そこで、総会では以下の点が指導監査の見直しとして検討されました。
1.広域運営の訪問看護ステーションへの対応
◯複数の都道府県にまたがる訪問看護ステーションに対して、厚生労働省と地方厚生局が連携し、より効果的な指導体制を構築することが必要とされました。
2.高額請求事業所への教育的指導の導入
◯訪問看護療養費の請求が高額なステーションに対して、教育的な視点を重視した指導機会を設けることが検討されています。
3.集団指導のオンライン化(eラーニング導入)
◯訪問看護ステーションの利便性向上のため、集団指導をオンライン形式で提供する案が示されました。
委員の意見と今後の課題
総会では、複数の委員から訪問看護ステーションへの指導監査に関する意見が出されました。
指導見直しに対する肯定的な意見
長島委員(日本医師会常任理事 )は「今回示された指導の見直しの方向性に異論はありません」と述べ、指導強化の必要性を認めました。
松本委員(健康保険組合連合会理事)も「訪問看護療養費の急増は、訪問看護のニーズ増加と相関する部分がありますが、高額請求の増加がどのような要因によるものかを明確にすべきです」と指摘し、診療報酬改定の議論が必要であるとの考えを示しました。
また、佐保委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「訪問看護は在宅医療を支える重要な役割を果たしているため、適切な指導・監査の実施が求められます」と述べ、現場の看護師だけでなく、管理職や経営者への指導も重要だと話しました。
高額請求=不適切とは限らないとの指摘
一方で、飯塚委員(東京大学大学院経済学研究科教授 )は「高額な訪問看護が必ずしも不適切とは限りません」とし、高額請求の要因分析が必要であることを強調しました。「高額請求を行う訪問看護ステーションがどのようなサービスを提供しているのか、現場の状況を把握することが重要です」と述べました。
また、木澤専門員(日本看護協会常任理事)は「一部の訪問看護ステーションによる不適切な請求に疑義が生じていることは遺憾です」としながらも、「医科・歯科と同様の指導・監査体制を導入することが重要であり、適切な個別指導の機会を確保することで質の高い訪問看護提供体制を目指すべきです」との考えを示しました。
今後の展望
訪問看護療養費の適正化と指導監査の強化に向け、今回の総会で示された見直し案が今後どのように具体化されるかが注目されます。高額請求に対する適切な分析と、それに基づく指導のあり方が今後の大きな課題となるでしょう。訪問看護は、超高齢社会を支える重要な在宅医療の一翼を担っています。適切な監査体制を構築し、不適切な請求を防ぐと同時に、質の高い訪問看護サービスを維持・発展させる仕組みが求められています。