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医療・介護現場が直面する育児・介護休業法改正の課題——柔軟な働き方と人員基準の両立は可能か?

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2025年4月と10月に施行される育児・介護休業法の改正が、医療・介護業界に大きな影響を与えそうです。日本慢性期医療協会(日慢協)の橋本康子会長は、3月13日(木)の定例記者会見で法改正の背景や影響を分析し、現場が直面する課題や必要な対応策について提言しました。

今回の改正は、育児や介護をしながら働きやすい環境を整えることを目的としています。しかし、厳格な人員配置基準が求められる医療・介護業界では、制度の拡充だけでは解決できない問題も多く、現場の混乱を防ぐためにはさらなる支援策が必要だと指摘されました。

改正のポイント——より柔軟な働き方の実現へ

今回の改正では、仕事と家庭の両立を支援するための新制度が導入されます。橋本会長は、改正内容のポイントとして、以下の4つを挙げました。

1. 短時間勤務制度の対象拡大

これまで3歳までだった短時間勤務の対象年齢が、小学校就学前(6歳)までに引き上げられます。これにより、子育て中の職員が働きやすくなる一方で、常勤換算人数が減少し、人員基準を維持することが難しくなる懸念があります。

2. 残業免除の適用範囲の拡大

小学校就学前までだった所定外労働の制限(残業免除)が、小学校3年生までに延長されます。育児中の職員の負担軽減につながる一方で、シフト調整が困難になり、他の職員の業務負担が増える可能性があります。

3. 出生時育児休業(産後パパ育休)の給付拡充

両親が育児休業を取得した場合、28日間の休業中に給与のほぼ100%が給付される制度が新設されます。父親の育休取得が促進されることが期待されますが、同時期に夫婦(同じ職場の場合)で長期間休業する職員が増えることで、現場の負担がさらに増す恐れも指摘されています。

4. 育児時短就業給付金の創設

短時間勤務による給与減少を補填する給付金が新設されます。これにより、時短勤務を希望する職員が安心して働けるようになりますが、人手不足が深刻化する可能性もあります。

医療・介護現場が直面する現実的な課題

1. 人員基準の維持が困難に

病院や介護施設では、医師・看護師・薬剤師・検査技師など、厳格な人員配置基準が定められています。そのため、柔軟な働き方を推進しようとしても、人手が足りなくなるリスクを抱えています。

橋本会長は、「育児や介護を支援する制度が整うことは喜ばしいことですが、現場の人員基準が変わらないままでは、運営が成り立たなくなる可能性があります」と述べました。

特に、小規模な病院では一人の職員が休業すると現場が回らなくなるケースが多く、以下のような問題が指摘されています。

◯短時間勤務者が増えることで、常勤換算人数が減少し、人員基準を満たせなくなるリスクがある。
◯夜勤明けの職員が残業対応を強いられることで、労働環境が悪化する。
◯育休や時短勤務の職員が増えることで、シフト調整が難しくなり、業務の引き継ぎにも影響が出る

2. 助成金制度の対象外となる病院が多い

現在、育児・介護休業に関する助成金制度はありますが、その対象は常勤換算100人以下の病院のみとされています。しかし、日本全国の病院のうち、約64%はこの基準を超えており、助成金の対象外です。

橋本会長は、「育児や介護の支援制度を導入したくても、助成金の対象外になってしまう病院が多い」とし、制度の拡充を求めました。

助成金を受けられない病院では、代替要員を確保することが難しく、職員の負担増や離職率の上昇につながる可能性があります。

求められる解決策

1. 代替要員確保の支援

日慢協は、「国や都道府県が代替要員のプール制度を導入するべき」と提言しました。しかし、現状では病院や介護施設が個別に人材を確保しなければならず、現実的な解決策とは言えない状況です。

2. リモートケアの推進

DX化を進め、遠隔医療や電子カルテの活用によって業務の効率化を図ることも求められています。しかし、リモートケアを導入した場合でも、「休業中の医師に業務負担がかかる」などの問題もあり、慎重な運用が必要です。

3. 診療報酬の見直し

育休取得率や時短勤務適用率が一定基準を満たした病院に対し、診療報酬の加算を行うなど、現場の負担を軽減しながら制度普及を促す仕組みが必要です。

持続可能な職場環境のために

今回の育児・介護休業法改正は、育児・介護と仕事の両立を支援する重要な一歩です。しかし、医療・介護の現場では、単に「柔軟な働き方」を推進するだけでは解決できない問題も多くあります。人員基準を維持しながら職場環境を改善するためには、助成金制度の拡充や業務の効率化が不可欠です。

橋本会長は、「持続可能な職場を構築しなければ、職員の離職が進み、医療の質が低下する可能性がある」と警鐘を鳴らしました。今後、政府や自治体がどのような支援策を打ち出すのか、引き続き注目していく必要があります。

医療・介護現場が直面する育児・介護休業法改正の課題——柔軟な働き方と人員基準の両立は可能か?

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