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制度改革の具体案が続々浮上──第4回有料老人ホーム検討会で見えた「規制と市場のバランス」

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20日、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第4回)」が開催され、これまで3回にわたって蓄積された課題認識をもとに、具体的な制度改革案が多数提示されました。特に注目されるのは、第2回で明らかになった所得階層による分断、第3回で確認された制度の限界を受けて、今回は実効性のある解決策が具体的に議論されたことです。

ビジネスモデル別事前規制という新たなアプローチ

今回の検討会で最も注目を集めたのは、高野龍昭構成員(東洋大学教授)が提案した「ビジネスモデル別事前チェック制度」です。高野氏は、囲い込み・使い切り型ケアプランの根本要因を事業者のビジネスモデルにあると分析し、住宅型有料老人ホームを3つのモデルに分類しました。

  1. ①住まい部分の利益を適正に見込み、併設事業所による介護・医療サービス部分の利益も適正に見込んでいるモデル
  2. ②住まい部分の利益を適正あるいは最大に見込み、併設事業所による介護・医療サービス部分の利益も最大に見込んでいるモデル
  3. ③住まい部分の利益を最小(もしくは赤字)に見込み、併設事業所による介護・医療サービス部分の利益を最大に見込んでいるモデル

高野氏は「②あるいは③のようなビジネスモデルが囲い込み・使い切り型ケアプランを生み出す最大の要因」と指摘し、都道府県等への届出時に事前チェック・規制を行う仕組みの検討を提案しました。これは、第3回で福山市から報告された「月額50〜80万円という高額な顧客単価」や「区分支給限度額の8割以上を使い切る高効率モデル」への直接的な対応策といえます。

登録制導入への具体的提案

倉田賀世構成員(熊本大学)からは、要介護者の受け入れが多い住宅型有料老人ホームに対する登録制導入が提案されました。「入居者のうち要介護3以上の割合が恒常的に高い」「ホーム内での看取り実績が一定以上ある」といった客観的指標を基に対象施設を判断し、職員配置基準や施設管理者の資格基準を設けるという具体的な制度設計案です。

これは第3回で横浜市や大阪府から指摘された「届出制では事前に開設を阻止する法的手段がない」という現場の限界を踏まえた提案として注目されます。

情報公開による透明性確保へ

複数の構成員から、事業者の収支構造や紹介手数料の透明化が提案されました。これは第2回で確認された「囲い込み」問題や、第3回で議論された紹介業者の不透明性への対応策です。紹介事業についても新たな課題が浮き彫りになりました。資料2では、宅建業と入居者紹介事業の構造的違いが示されており、宅建業では仲介業者への法規制が存在する一方、入居者紹介事業については規制が限定的であることが明らかにされています。

(資料2「有料老人ホームの現状と課題について(追加資料)」2ページ)

中澤理事長(全国有料老人ホーム協会)は「紹介事業者の在り方について、行政によるリーダーシップが必要」と述べ、業界としても積極的に協力する姿勢を示しました。

有料老人ホーム定義見直しの新たな視点

宮本俊介構成員(高齢者住宅協会)からは、自立型高齢者住宅の有料老人ホーム定義からの除外提案がありました。「自立した高齢者が食事の場所も内容も自由に選べる住宅は、現行の有料老人ホームの定義から外すことが適切」とし、併設食堂の利用を「コミュニティ形成の場」として捉える新たな視点を提示しました。

実際のデータとして、宮本氏の施設では約725件の退居理由のうち半数が介護施設への移住であり、適切な住み替えサポートを行っている実態が示されました。

(資料4「有料老人ホームの定義に関する追加意見」3ページ)

制度改革の現実的課題

一方で、久留米参考人(民間介護事業推進会)からは「民間事業者の創意工夫を損なわない配慮」の必要性が指摘され、規制強化と市場の活力維持のバランスという根本的課題が浮き彫りになりました。

井上由起子構成員(日本社会事業大学)は「一定の支払い能力がある方々の住まいと生活保護を中心とした人たちの住まいという2つの別の世界を一つのテーブルで議論している限界」を指摘し、制度設計の複雑さを示しました。

外部サービス利用型特定施設への期待と課題

松尾参考人(全国介護付有料老人ホーム協会)からは、外部サービス利用型特定施設への移行促進について言及がありました。しかし「現在全国に6施設しかない」現状を踏まえ、報酬上のデメリットや利用者の自己負担増加といった課題も指摘されました。

この点について、資料2では外部サービス利用型の報酬体系が詳細に示されており、一般型特定施設と比較して基本報酬が低く設定されていることが確認できます(資料2・3ページ)。

また、外部サービス利用型では取得できる加算が一般型と比較して限られていることも課題として浮かび上がっています(資料2・4ページ)。

人材確保の現実と将来展望

江澤和彦構成員は「介護職員が215万人から212万人に減少に転じている」現状を指摘し、制度改革の前提となる労働市場の厳しい現実を示しました。また「地域によっては特定施設がまだまだ必要な地域もある」として、地域格差への対応の必要性も強調しました。

座長の示した新たな視点

駒村康平座長(慶應義塾大学)は、アメリカの研究を引用して「ファイナンシャルヘルスリテラシー」という新概念を紹介しました。「65歳を起点として認知症ではない方でも毎年1%ずつファイナンシャルヘルスリテラシーが低下していく」という研究結果を踏まえ、そうした利用者に対する情報提供のあり方の重要性を指摘しました。

秋の取りまとめに向けて

座長は今後「これまでの議論の整理については本日いただいたご意見を私と事務局で相談の上追加等を行い、後日これまでのご意見等を整理したものとして公表する」と述べ、「秋ごろの取りまとめを目指して引き続き議論をしていただきたい」との方針を示しました。

第2回で明らかになった構造的問題、第3回で確認された制度の限界を受けて、第4回では具体的な解決策が多数提示されました。これらの議論がどのように統合され、実効性のある制度改革案として結実するかが、秋の取りまとめの焦点となります。高齢者の尊厳を守りながら、事業者の創意工夫も尊重するという困難なバランスの中で、新たな制度設計への道筋が見えてきた検討会となりました。

▶︎https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59007.html

制度改革の具体案が続々浮上──第4回有料老人ホーム検討会で見えた「規制と市場のバランス」

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