――支払側・診療側で改定率巡り意見相違、公益委員案を全会一致で採択
2025年12月12日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会が開催され、令和8年度(2026年度)診療報酬改定に向けた「意見書」がとりまとめられ、厚生労働大臣へ提出されることが決定しました。
今回の総会では、物価高騰や賃金上昇が続く経済情勢の中、医療機関の経営をどのように支えるかが最大の争点となりました。しかし、改定率(診療報酬の引き上げ幅)を巡っては、診療側(医療提供者)と支払側(健康保険組合など)の主張が真っ向から対立し、両者の意見を併記する形での決着となりました。
支払側・診療側の主張に大きな隔たり
意見書では、「全ての国民が質の高い医療を受け続けるために必要な取組についての協議を真摯に進めていく」という基本認識については両者の意見が一致したものの、令和8年度改定にどう臨むべきかについては大きな隔たりが見られました。
支払側の主張
支払側委員を代表して松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「被保険者と事業主の保険料負担は既に限界に達している」と指摘しました。第25回医療経済実態調査の結果を踏まえ、病院の経営安定化や医療従事者の賃上げの必要性は理解するとしながらも、「病院と診療所・薬局の経営状況には格差があるほか、病院の中でも機能別や同じ機能の中でも施設間での格差があることを強く認識すべき」と述べました。
また、「基本診療料の単純な一律引上げは、患者負担と保険料負担の上昇に直結するだけでなく、医療機関・薬局の経営格差や真の地域貢献度が反映されないため妥当ではない」とし、診療所・薬局から病院へ財源を再配分するなど、「硬直化している医科・歯科・調剤の財源配分を柔軟に見直すこと」を求めました。
診療側の主張
診療側を代表して江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「医科・歯科医療機関及び薬局等は閉院や倒産が過去最多のペースとなっているなど、かつてない異常事態」と訴えました。
「診療報酬は、医学の進歩・高度化への対応や医療従事者の確保等に不可欠な役割を担っており、地域の医療提供体制をこれ以上崩壊させないためにも、その基盤となる経営の健全化が早急に実現されなければならない」と強調。令和8年度改定では「財源を純粋に上乗せするいわゆる『真水』による思い切った対応が必要」とし、「病院・診療所・薬局などを分断するような改定率議論ではなく、医療提供体制全体を俯瞰して改定率を決定する必要がある」と主張しました。
意見書の主なポイント
採択された意見書では、以下の点が厚生労働大臣に求められています。
- 物価や賃金動向に対応した改定が必要であり、医療機能の特性を踏まえて的確に対応すること
- 施策の成果や影響等を、データやエビデンスに基づいて正確・迅速に把握・検証し、更なる施策の見直しに役立てていくこと
- 国民一人一人が医療提供施設の機能に応じ、適切に医療を選択し受けることができるような環境を実現すること
薬価・材料価格の乖離率も報告
意見書では、薬価調査の速報値による薬価の平均乖離率が約4.8%、材料価格調査の速報値による特定保険医療材料価格の平均乖離率が約1.3%であったことも報告されました。
医療DXへの対応も論点に
小坂光男委員(日本歯科医師会副会長)は、医療DXに関連して「導入時だけでなく、維持にかかる費用などを含む全体的な視点で十分な対応が必要」と発言。クラウド時代における利用料負担への支援の必要性を訴えました。
今後のスケジュール
意見書は福永審議官を通じて厚生労働大臣に提出されます。今後、政府の予算編成において診療報酬改定率が決定される見込みです。






