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【チェックリスト付き】理学療法 症例報告の書き方──PhyCARE 35項目を現場で使う

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目次

1. 「で、何を書けばいいの?」問題

「来年の学会、症例報告出してみない?」

先輩からそう言われて、「やります」と答えたものの、いざ書こうとするとペンが止まる。患者さんの経過はわかっている。評価もした。でも、何をどこまで書けばいいのか、さっぱりわからない。

とりあえず過去の抄録を参考にしてみるけど、書いている人によってフォーマットがバラバラ。「介入」の書き方ひとつとっても、「筋力トレーニングを実施」で終わっている人もいれば、細かく負荷設定まで書いている人もいる。どっちが正解なんだろう?

実はこれ、世界共通の悩みだったりします。

2021年にJOSPT(米国の理学療法専門誌)に載った研究では、理学療法のRCT論文140本・225の介入を分析し、TIDieRチェックリストを用いて介入報告の質を検証しています。結果、多くの論文で報告スコアが満点に届かず、再現に必要な情報(たとえば用量(dose)や調整・漸増(tailoring/progression)の記載)が欠けていることが示されました。

そんな「何を書けばいいかわからない問題」に、ようやく答えが出ました。2026年1月、BMJ Openに発表されたPhyCARE(ファイケア)ガイドライン。理学療法の症例報告に特化したCAREの拡張版として、初めて国際的な合意を経て作られたチェックリストです。

2. CAREからPhyCARE へ ── 理学療法版ができるまで

そもそもCAREって?

症例報告のガイドラインとしては、2013年に作られたCARE(ケア)ガイドラインが有名です。「タイトルにはこれを入れる」「患者情報はここまで書く」「タイムラインを作る」といった13セクション(大項目)のチェックリストで、複数の医学雑誌・出版社で採用されています。

ただ、CAREはあくまで医学全般向け。内科でも外科でも使えるように作られているので、理学療法特有の「評価」や「運動療法の詳細」については、正直カバーしきれていませんでした。

外科では2016年にSCARE(スケア)という拡張版ができて、手術手技の書き方が整理されました。歯内療法(エンド)にはPRICE、鍼灸にはCARE extension guideline for acupuncture(2025年)と、各領域で「うちの分野に合わせたバージョン」が作られていったんです。

でも理学療法版は、ずっとなかった。

3年かけて作られたPhyCARE

PhyCARE の開発が始まったのは2022年。インドのNaqvi氏らを中心に、世界19カ国から専門家を集めてデルファイ法(専門家の意見を何度も集約して合意を形成する方法)で項目を決めていきました。

面白いのは、CAREの項目をそのまま採用しなかった点です。

例えば、CAREには「診断上の課題(diagnostic challenges)」という項目があるんですが、理学療法の専門家に聞いたら合意率が46%しかなかった。「うちらの文脈には合わないよね」ということで、別の書き方に変更されています。

「予後(prognosis)」の項目も合意率62%で閾値を下回り、削除。代わりに「診断所見を示す画像には、重要な特徴にマークやラベルをつけて提示する」という、より実践的な項目に置き換えられました。

こうしたやり取りを2ラウンド重ねて、最終的に35項目のチェックリストが完成。参加した専門家の合意率は84〜100%と、かなり高い水準でまとまりました。

3. 他のガイドラインと何が違う?

「35項目って多くない?」と思うかもしれません。CAREは13セクション、SCARE 2023は36項目(検討された43項目のうち合意を得たもの)なので、まあ妥当な範囲です。ただ、数が多いというより、「何が追加されたか」のほうが大事。

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PhyCARE理学療法向け

35項目

2026年発表
ICF連動、運動処方の詳細記載、介護者視点を含む

使いどころ:PTの症例報告全般

Naqvi et al., BMJ Open 2026

CARE医学全般

13セクション

2013年策定
症例報告の基本フォーマット。複数の雑誌・出版社で採用

使いどころ:医師との共著、一般医学誌への投稿

Gagnier et al., J Clin Epidemiol 2014

TIDieR-Rehab介入記述用

22項目

2024年発表
RCTなどで「介入の中身」を書くときのチェックリスト

使いどころ:症例報告の「介入」セクションを書くときの参考に

Signal et al., BMJ Open 2024

ポイントは、PhyCARE が「症例報告全体」をカバーしている点。TIDieR-Rehabは介入の書き方だけなので、症例報告を書くならPhyCARE をベースにしつつ、介入セクションでTIDieR-Rehabも参考にする、という使い方になります。

●この先の内容
次のセクションでは、PhyCARE を現場で使うための5つの実践ポイントと、新人向けチェックリストを解説しています。記事の最後には、35項目チェックリスト・FITT-VP記入シート・ICF整理シートなどを含むExcelテンプレート(7シート入り)を無料でダウンロードできます。

4. 現場で使える5つのポイント

35項目全部を解説すると眠くなるので、「ここは使える」というポイントを5つ絞って紹介します。

① 評価はICFで整理する

PhyCARE では、アウトカムをICF(国際生活機能分類)に沿って書くことが求められています。

要するに、「ROM改善しました」「筋力上がりました」だけで終わらせない、ということ。身体機能レベルの変化に加えて、「階段昇降ができるようになった(活動)」「仕事に復帰できた(参加)」まで書きましょう、という話です。

臨床では当たり前にやっていることですが、症例報告になると身体機能の数値ばかり並べがち。ICFの3層構造を意識するだけで、報告の質がぐっと上がります。

② 介入はFITT-VPで書く

運動処方の書き方として、FITT-VP原則(頻度・強度・時間・種類・量・漸増)が推奨されています。

悪い例:「下肢筋力トレーニングを実施した」

良い例:「スクワット、レッグプレスを中心とした下肢筋力トレーニングを週3回実施。負荷は1RMの60%から開始し、10回×3セット、セット間休息60秒。2週ごとに負荷を5%ずつ増加した」

後者のほうが、読んだ人が再現できますよね。面倒ですが、この詳細さが症例報告の価値を決めます。

③ 「なぜその介入?」を書く

PhyCARE で強調されているのが、介入選択の根拠(rationale)です。

「バランス練習を実施」ではなく、「転倒リスク評価でBBSが42点だったため、静的・動的バランス練習を中心に実施。短期目標として、先行研究で転倒リスク低減と関連が示唆されているBBS45点台を目指した」のように、なぜその介入を選んだのかを書く。

臨床推論のプロセスを見せることで、読み手が「なるほど、こう考えるのか」と学べる症例報告になります。

④ タイムラインを明確にする

発症から評価、介入、フォローアップまでの時間経過を明確に示すことが重視されています。図表化すると読み手にとってわかりやすくなります。

文章で「入院3日目に評価を行い、5日目から介入を開始し…」と書くより、ガントチャートやフローチャートで見せたほうがわかりやすい。PowerPointでざっくり作るだけでも十分です。

⑤ 介護者の声も入れる(必要なら)

これはオプション項目ですが、必要に応じて(例:小児、認知症、意思疎通が難しいケースなど)介護者の視点を含めることが推奨されています。

「本人は『歩けるようになって嬉しい』と話していた。妻からは『夜中のトイレ介助が減って、私も眠れるようになった』との言葉があった」

こういう一文があるだけで、介入の意味が立体的に見えてきます。

5. 新人向けチェックリスト

ここからは実践編。症例報告を書くときに確認してほしい項目を、段階別にまとめました。全部で35項目ありますが、まずはこの「ざっくり版」でOKです。

書き始める前に

□ 患者さん(またはご家族)から同意を得たか
□ 症例の「教育的価値」を言語化できるか(珍しいから、ではなく「何が学べるか」)
□ 評価データは時系列で整理できているか
□ 介入内容をFITT-VP形式でメモしたか

各セクションを書くとき

【タイトル・抄録】
□ 「症例報告」という言葉が入っているか
□ 一番伝えたいこと(診断?介入?アウトカム?)がタイトルに入っているか

【患者情報】
□ 年齢、性別、主訴は書いたか
□ 生活背景(職業、家族構成、住環境など)は必要に応じて書いたか
□ 併存疾患は書いたか

【評価】
□ 使った評価尺度の名前と結果は書いたか
□ なぜその評価を選んだか、一言でも触れたか
□ ICFの3層(身体機能・活動・参加)で整理できているか

【介入】
□ 何を、どのくらいの頻度で、どのくらいの強度で、どのくらいの期間やったか書いたか
□ なぜその介入を選んだか書いたか
□ 途中で変更した場合、その理由も書いたか

【結果】
□ 数値の変化だけでなく、生活上の変化も書いたか
□ 有害事象(なければ「なかった」と明記)は書いたか
□ フォローアップの期間と結果は書いたか

【考察】
□ うまくいった理由、または予想と違った理由を考察したか
□ 先行研究と比較したか
□ この症例の限界(一般化できない点など)は書いたか

提出前の最終確認

□ 患者が特定されない程度に匿名化したか
□ 共著者全員に確認を取ったか
□ 投稿先のフォーマット(文字数、構成など)に合わせたか

PhyCARE チェックリスト(Excel)をダウンロード

35項目チェックリスト、FITT-VP記入シート、ICF整理シート、完成度自己採点など7シート入り

6. 正直なところ、どこまで使える?

使える点

PhyCARE の一番のメリットは、「何を書けばいいか」が明確になること。新人教育でも、「とりあえずPhyCARE のチェックリスト見ながら書いてみて」と言えるようになります。

院内のケースカンファレンスでも、「ICFで整理できてる?」「介入のFITT-VP書いた?」という共通言語ができると、フィードバックがしやすくなるはずです。

限界もある

一方で、このガイドラインにも限界があります。

まず、開発に参加した専門家は筋骨格系が多め。小児や呼吸器、心臓リハの専門家は相対的に少なかったようです。自分の領域で「これは合わないな」という項目があれば、柔軟に読み替える必要があります。

また、患者さんや介護者が開発プロセスに参加していません。「患者の視点を書きましょう」という項目はあるものの、当事者の声を反映したガイドラインではない点は意識しておいたほうがいいでしょう。

それから、原著は英語で公表されており、原著・EQUATOR等の公式情報では日本語版は確認できません。投稿先が国内誌の場合は、日本の学会の投稿規定とすり合わせる必要があります。

まずは一本、書いてみる

ガイドラインは完璧なものではありませんが、「何も基準がない状態」よりはずっとマシです。

症例報告は、臨床経験を言語化して共有するための手段。「この患者さんのこと、誰かに伝えたい」と思ったとき、PhyCARE のチェックリストが書く道筋を示してくれます。

まずは一本、書いてみてください。書いてみると、次に担当する患者さんの診方も変わってくるはずです。

参考文献

1. Naqvi WM, et al. PhyCARE reporting guidelines for physiotherapy case reports: a consensus-based development. BMJ Open 2026;16:e110765.
2. Gagnier JJ, et al. The CARE guidelines: consensus-based clinical case reporting guideline development. J Clin Epidemiol 2014;67:46-51.
3. Signal N, et al. Developing the TIDieR-Rehab checklist. BMJ Open 2024;14:e084319.
4. Sohrabi C, et al. The SCARE 2023 guideline. Int J Surg 2023;109:1136-1140.
5. World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). 2001.

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