社会保障審議会・介護保険部会(第134回)が3月9日に開催され、2027年度から始まる第10期介護保険事業計画の基本指針に関する議論が本格的にスタートしました。席上、日本慢性期医療協会の橋本康子会長が「リハビリテーションは医療の分野だけではなく、介護分野にも重要なツール」と発言し、基本指針への具体的な文言の明記を求めました。地域リハビリテーションの実効性を問う声も上がり、リハ専門職の役割が制度設計の根幹に関わるテーマとして浮上しています。
橋本委員「寝たきり防止・自立支援・ADL低下防止を基本指針に」
この日の議論で、リハビリテーションに最も踏み込んだ発言をしたのは、日本慢性期医療協会会長の橋本康子氏です。
橋本氏は、今回示された基本指針の構成案について「介護予防や重度化防止という言葉は書かれているが、寝たきり防止、自立支援、ADL低下防止といった、より具体的な表現が出てきていない」と指摘。そのうえで、「リハビリテーションというと医療の分野というイメージがあるが、今やリハビリテーションは医療の分野だけではなく、介護分野にも重要なツールとなっている」と述べ、人材不足の解消や生産性向上の観点からも、リハビリテーションを活用した寝たきり防止・自立支援の文言を基本指針に具体的に盛り込むべきだと求めました。

実際に事務局が示した改正案(資料1-1・8ページ)をみると、第一の基本的事項の冒頭には「自立支援、介護予防・重度化防止の推進」という項目が置かれています。橋本氏の指摘は、この文言だけでは「寝たきり防止」や「ADL低下防止」といった具体的な到達目標が読み取れず、リハビリテーションの役割が不可視化されるという問題意識に基づくものです。基本指針は全国の市町村・都道府県が介護保険事業計画を策定する際の上位方針にあたるため、ここに「リハビリテーション」が明記されるか否かは、各自治体の計画におけるリハ関連サービスの位置づけや整備目標に直接影響を及ぼします。

江澤委員が突いた「地域リハ」の実効性──「全国的に取り組みが変わった感じはしない」
日本医師会常任理事の江澤和彦氏は、基本指針の実効性そのものに疑問を呈しました。
江澤氏は「前回(第9期)の基本指針には地域リハビリテーションに関するものが盛り込まれたが、私の印象では全国的に取り組みが変わったような感じはしていない」と率直に指摘。基本指針に書き込むだけでは現場は動かないとの認識を示し、「全国課長会議の説明のみでは真意は伝わらない。双方向で深掘りできるような議論の場も必要ではないか」と、指針の浸透策まで踏み込んだ提言を行いました。
この発言は、リハ専門職にとって見過ごせない論点を含んでいます。第9期で盛り込まれた「地域リハビリテーション」が自治体レベルで十分に実装されていないとすれば、第10期で何をどう書き込むかだけでなく、それをどう届けるかという「伝達の設計」まで問われることになります。
老健施設のリハ機能にも焦点──新たな地域医療構想との接続
全国老人保健施設協会常務理事の瀬口里美氏は、医療と介護の連携という文脈から、老健施設のリハビリテーション機能について言及しました。
瀬口氏は、現在進行中の新たな地域医療構想の取りまとめにおいて、高齢者救急への対応や早期退院の推進の観点から医療と介護の連携が重要とされている点に触れたうえで、「老健施設の通所・訪問リハビリテーション及び医療的ニーズに対応した短期入所療養介護、認知症への対応などの機能は、地域医療構想との整合性の観点から重要だ」と述べました。

介護保険事業計画と地域医療構想の連動が求められるなか、老健施設が担う通所リハ・訪問リハの位置づけは、PT・OT・STの配置や業務範囲にも関わる重要な論点です。
新部会長に野口晴子氏──「エビデンスに基づく政策形成」を重視
なお、今回の部会では冒頭に新部会長の選出が行われ、早稲田大学政治経済学術院教授の野口晴子氏が就任しました。野口氏は医療経済学を専門とし、「エビデンスに基づく政策形成」を研究テーマとしてきた人物です。就任挨拶では「制度の持続可能性と国民の安心の両立」を掲げました。部会長代理には、東京大学大学院法学政治学研究科教授の笠木映里氏が指名されています。
まとめ・今後の展望
第134回介護保険部会では、第10期介護保険事業計画の基本指針に盛り込むべき事項の方向性が示され、各委員から意見が出されました。リハビリテーションに関しては、基本指針への具体的な文言の明記を求める声、前期で盛り込まれた「地域リハビリテーション」の実効性を問う声、老健施設のリハ機能と地域医療構想の連動を求める声が上がっています。
今後、事務局は委員の意見を踏まえて基本指針の見直し案を策定し、夏頃をめどに市町村が計画作成のための調査・分析に入る見通しです。基本指針の告示は令和8年末を予定しており、年末の介護報酬改定率を踏まえて保険料が確定する流れとなります。次回の部会日程は追って案内されるとのことです。







