パーソナルトレーニングの事故196件、国が業界に基準策定要請

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パーソナルトレーニングで骨折などのケガを負う事故が、国の調査で196件確認された。原因の中心にあるのは、既往歴の把握、個別の運動プログラム設計、実施中の中止判断という、運動指導の安全を支える一連のプロセスが十分に機能していないことだ。これは理学療法士が臨床で踏む手順と多くが重なる。報告書がトレーナーに求めた知識も、リハビリ専門職が養成課程で学ぶ内容と重なり合う。

「指示通りやってケガ」が9割超

消費者安全調査委員会(消費者事故調)は5月27日、「パーソナルトレーニングにおける事故」の調査報告書を公表しました。事故情報データバンクに登録された事故のうち、パーソナルトレーニングにおける事故とされたものは、2019年から2025年までで196件にのぼります。

このうち、転倒や器具の落下など偶発的に物がぶつかった可能性のある事故は14件(7%)にとどまります。残る182件(93%)には、指示された運動種目を実施してケガをした、負荷が重かった、トレーニングの内容や指導が不適切だった、といった内容が含まれていました。運動そのものに関わる事故が9割を超えます。

傷病の程度は軽くありません。196件のうち81件(41%)が治療に1か月以上を要し、背骨(脊椎)や腰椎を骨折した事案もありました。ケガの部位は腰・股関節が59件で最も多く、膝・足が44件と続きます。

出典:消費者安全調査委員会「パーソナルトレーニングにおける事故」(2026年5月27日)

出典:消費者安全調査委員会「パーソナルトレーニングにおける事故」(2026年5月27日)

報告書が挙げた具体例は、現場の危うさを映します。腰痛のある利用者に、初めて行うバーベルスクワットで最初から重りを追加。利用者が「持てないと思います」と伝えても、トレーナーは「補助をするから大丈夫」と続行させ、1回で耐えきれず腰を痛めて入院に至りました。「限界です」と申告したのに運動が続けられ、ケガにつながった事案も確認されています。

事故の核心は「評価と中止判断」の不在

報告書は事故の発生を、3つのプロセスで整理しました。①利用者の身体状況の共有、②運動プログラムの策定、③運動の実施。このいずれかで安全確保の行動が欠けたとき、身体状況に合わない運動が実施され、事故が起きるという構図です。

出典:消費者安全調査委員会「パーソナルトレーニングにおける事故」(2026年5月27日)

象徴的なのが情報共有の欠落です。人間ドックで骨密度の低下を指摘され、改善薬を処方されていた事実がトレーナーと共有されないまま運動を実施し、骨折に至った事案がありました。既往歴と現在の身体状況を評価し、リスクを見積もったうえで運動の種目・負荷・回数を個別に組み立て、実施中の反応を見て修正・中止する。報告書が安全確保の要件として描くこの流れは、理学療法の評価・治療・再評価のサイクルと通じます。

背景には資格の問題があります。トレーナーには法的な資格保有の義務がなく、民間資格は多数あるものの内容と水準は多様です。トレーナーへのアンケートでは、業務フローやマニュアルがない、安全管理について学びがない、という回答も寄せられました。

再発防止策が映すリハ職の専門性

報告書は再発防止策として、トレーナーに共通して求められる知識・技術・経験を体系化した基準を、業界団体が策定するよう求めました。そこに並ぶ項目を見ると、リハビリ専門職には見慣れたものが多く含まれます。

挙げられたのは、解剖学・生理学・バイオメカニクス、加齢や性差による身体機能の変化に関する基礎知識、運動中の異常把握や救急対応・リスクマネジメント、医師等の専門職との連携に必要な知識などです。理学療法士・作業療法士が養成課程で学ぶ中核と重なります。報告書は再発防止策のなかで、既往歴などの問診は必ず口頭で確認し、記入漏れなどを前提に対応する必要があるとする脚注を置き、そこに「理学療法士の運動処方マニュアル」と厚生労働省の身体運動に関するガイドを引いています。

利用者層の広がりも見逃せません。パーソナルトレーニングはアスリート中心のサービスから一般消費者向けへと拡大し、利用者は10歳代から80歳以上まで多様化しました。トレーナーへの調査からは、ほとんどのトレーナーが高齢者または基礎疾患を持つ顧客にサービスを提供している実態がうかがえます。運動器や内部障害のリスクを評価できる人材の価値が、医療の外側でも高まっている状況といえます。

リハ職に開かれる関与の余地

もう一つの原因として報告書が指摘したのが、利用者側の心理です。トレーナーを専門家と認識し、自分の身体感覚よりトレーナーの判断に従いやすい。運動中は指示の理解に意識が向き、違和感に気づきにくい。こうした「サービスの構造による心理的な影響」が、申告や中止をためらわせるとされます。利用者に「気になることは伝えてよい」「中止を求めるのは正しい行為だ」と理解してもらう支援は、患者教育としてリハ職が日常的に扱う領域でもあります。

事故調は、経済産業相、文部科学相、厚生労働相、消費者庁長官に意見を出しました。業界団体への基準策定の働きかけや、消費者への情報提供が柱です。基準づくりへの知見提供、地域の運動指導現場との連携、利用者への啓発と、リハ職が関与できる接点は少なくありません。

ただし、報告書は医師の指示の下で理学療法士等が行うリハビリを、医行為として調査対象から明確に外しています。リハ職がこの課題に関われるのは、医行為に該当しない範囲での予防・健康増進の領域です。安全な運動指導という社会的な課題に、リハビリ専門職がどう手を伸ばすか。報告書が突きつけたのは、その問いでもあります。

参考資料:消費者事故等調査報告書「パーソナルトレーニングにおける事故」(消費者安全調査委員会、2026年5月27日)

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