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橈骨遠位端骨折術後患者が運動イメージトレーニングを行うと手の使用困難感が回復しやすいことを発見

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研究の概要

橈骨遠位端骨折(手をついた時に起こることの多い手首の骨折)は、若年者ではスポーツ、高齢者では転倒により起こる骨折で、特に活動的な人に多く発生します。橈骨遠位端骨折術後には、手術の痛みや腫脹があり、日常生活上で手を使用するときに困難感が生じるため、そのような患者が家事や仕事などで手を早く使えるようになることがリハビリテーション治療の目標であり、どのようなリハ治療が効果的なのか、日夜研究が続けられています。今回、埼玉県立大学作業療法学科の濱口豊太教授と大学院研究員の薄木健吾博士(同大学院保健医療福祉学研究科修了)は、北里大学メディカルセンターと協力し、橈骨遠位端骨折術後に通常のリハビリテーションと合わせて一人称3D の運動観察療法を行うことで、運動観察療法を行わない群よりも早期に日常生活動作での手の使用感が回復することを明らかにしました。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景)

橈骨遠位端骨折術後患者は、健常者と比較して、手の関節可動域を自己推測で実際の可動域よりも低く見積もることがわかっていました(Usuki K, et al. 2021)。また、橈骨遠位骨折術後の脳研究では、健常者でも手関節を 2 週間固定し使わないでいると、手の部分の大脳皮質の厚みが薄くなることがわかっています。つまり、橈骨遠位端骨折患者は日常生活で使える機能があっても自らセーブしてしまうこと、また使わないことで命令を出す大脳皮質が衰えて、さらに使えなくなると推定されています。この手を使わないでいることによる脳の衰えが、手の使用困難感の原因の 1 つと考えられます。そこで、骨折治療のために手の動きが少なくなっているときには、自分の手が運動していることをイメージすることで、脳を使い、脳の衰えを少なくできないか、と薄木博士らは考えました。

運動観察は、動いている動作を観察することです。運動観察中は、脳内では実際に動いているのと同じような脳の働きが起こっていることがわかっています。また、自分の手を見ているような一人称の運動観察は三人称の運動観察と比較して神経の働きが大きいこと、また3D 動画は2D 動画よりも神経の働きが大きいことがわかっています。橈骨遠位端骨折術後患者が思うように手が使えない早期から一人称3D 運動観察を行えば、関節可動域や推測関節可動域が改善して、早く日常生活で手を使えるようになるのではないかという臨床疑問がありました。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

この研究では、埼玉県立大学で開発されたヘッドマウントディスプレーを使用した運動観察装置(GHOST:特許番号 6425335)が利用されました。橈骨遠位端骨折術後患者 35 名(運動観察群 18 名、コントロール群 17 名)を対象として、術直後、1 ヶ月、2ヶ月、および3ヶ月の関節可動域、患者本人がイメージで推測した関節可動域、日常生活動作での手の使用困難感を比較しました。日常生活動作での手の使用困難感(四分位 25%,75%)は、運動観察群では、術直後73(56,79)、1 ヶ月 38(27,45)、2ヶ月 20(11,28)、3ヶ月 14(6,23)。運動観察をしなかった群では術直後 70(61,78)、1ヶ月 50(37,68)、2ヶ月 37(28,54)、3ヶ月 18(8,37)でした。

この結果により、術後2ヶ月の時点で、手の使用の困難感が運動観察群で統計学的に有意に改善していることがわかりました。一方、関節可動域や患者がイメージで推測した関節可動域については両群で差はありませんでした。

この研究の波及効果や社会的影響

本研究の結果から、日常生活動作を早く改善させることを目的とした、橈骨遠位端骨折術後のリハビリテーションプログラムのひとつとして、通常のリハビリテーションに加えて、一人称3D 運動観察が有効であると推察されました。スマートフォンなどでこのような運動観察ができるようになれば、自宅での自主トレーニングにも役に立つかもしれません。

今後の課題

本研究では、日常生活動作での手の使用困難感は改善されましたが、関節可動域、自己推測関節可動域については改善をしておらず、手の使用困難感が改善した要素についてはまだわかっていません。また、患者の受けた手術方法がコントロールされていないこと、症例数が少ないこと、およびランダム化されていないという課題が残っています。今も継続してより質の高い検証が進められています。

論文情報

雑誌名:PLOS ONE

論文名:Action observation intervention using three-dimensional movies improves the usability ofhands with distal radius fractures in daily life-A nonrandomized controlled trial in women

掲 載:2024 年 10 月 19 日

リンク:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0294301

研究代表者:薄木健吾(埼玉県立大学、北里大学メディカルセンター)

共同研究者:濱口豊太(埼玉県立大学)

詳細︎▶︎https://www.spu.ac.jp/Portals/0/kikaku/osirase/241029_kenkyu-seika.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

橈骨遠位端骨折術後患者が運動イメージトレーニングを行うと手の使用困難感が回復しやすいことを発見

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