第七回:異業種、異世代、異性とのコミュニケーションが脳を育てる【森岡 周先生 | 理学療法士|畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授】

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― 若い方が、先生のおっしゃるような視点を獲得するために日頃から行うべきことを教えてください。

 

森岡先生 一つは、様々な視点で物事を考えることです。

 

例えば、上司や同僚、あるいは対象者からはどのように自分が見られているのかといった相手の立場になって考えることは言うまでもありませんが、自分自身を含めてその両者の関係性を俯瞰して見て考え、シミュレーションすることが大切です。

 

俯瞰した結果、関係性がうまくいっていれば、必ずしも無理に協調する必要はありません。なんだかんだうまく関係性が構築できていればそれで良いのです。

 

つまり、自分自身だけでなく、関係性をも客観的な視点で見るということです。加えて、起こした発言や行動を客観的に捉え、どうすればよかったのかを考える思考のトレーニングを行うことが大切だと思っています。

 

また、どんなに忙しくても、自分自身の身体感覚や感情に目を向ける時間をつくることも、今度は客観的でなく、主観的な意識を育てるためには大切と思っています。

 

私が現在でもロックバンド活動や地元のよさこい祭りに関わる理由はここにあります。正直な話、時間がない中で参加することは非常に大変です。

 

やめることは簡単ですが、生きるためには必要性の低い活動に、時間を割く意味は、本当の自分のこころに接近するために必要だと思っています。

 

例えば、大きな災害があり、生きることだけで必死なときでも、音楽など文化を忘れることはありません。生物学的に生きるためだけであれば必要ないにもかかわらず。

 

この部分が、人間の不思議な部分です。生理的な欲求ではないにもかかわらず、これを今なお進化の過程で継続している点、これがおそらく、“人間らしさ”なんだと思います。スポーツにも同様なことが言えます。

 

また、異なる業界、世代、異性とのコミュニケーションが脳を育てます。同じ業界の同じ意見をもつもの同士だけの交流では、見るあるいは向かう方向が一緒になってしまいます。

 

視点が凝り固まることで、解決のための道は何通りもあるにも関わらず、一つの立場でしか物事を捉えられなくなります。これは柔軟かつしなやかな脳をもっているはずの人間らしさの象徴である、多様性の視点を失う手続きのように思えます。

 

年を増すごとに人との交流が増えれば、柔軟な脳機能をキープできると思いますが、限られたコミュニティでしか生きようとしないと、あるものに執着し、脳機能のダイナミクスを失ってしまいます。

 

多様なコミュニケーションプロセスは、脳ひいてはこころを健康に保つ秘訣だと思っています。

 

私自身、いろんなところで様々な人と交流することが、実は自分の脳の機能を健全に保つための大切かつかけがえのないプロセスだと思っています。

 

だから、できる限り講演にも懇親会にも出かけるようにしています。

 

超高齢社会について思うこと

森岡先生 現代社会における高齢者への対応も同様だと思っています。

 

高齢という生物学的なエイジングが問題ではなく、独居で誰ともコミュニケーションを交わさないといった社会的な問題が脳の健康のためにはよくないと思っています。

 

一方で、後期高齢者になってもパソコンや今のメディアを使っている場を見ると「今を生きているな」と強く感じます。

 

ですから、高齢者に合わせる社会にするのではなく、高齢者を現代に合わせる視点が必要だと考えています。そして、常日頃、私は絵に描いた餅のような、形骸化したバリアフリーの考え方には異を唱えています。

 

心や身体にとって、バリアがあるからこそ、人は挑戦しますし、それでも難しければ、他人に協力を仰ぎ、そして最終的には、持ちつ持たれつの意識のもと、他人に依存できます。この人に対して互いに、すなわち双方向に依存し合う関係性こそ、成熟した社会、人間関係だと思っています。

 

知識よりも知恵を

森岡先生 講演活動の中での私の関心は、何を伝えるかよりも、どのように伝わり、そこにいた人がどう発達したのか、ということに関心を寄せています。

 

最近では、研修会後の懇親会に参加する若い方が減ってきていると感じています。

 

実はこのフランクな場での交流が、双方向性の意見交換のためには大切です。脳の中での情報も一方向でなく双方向に流れるわけですし。

 

それを社会に見立てると、やはり受け身による一方向でなく、双方向に情報を流す必要があります。なぜなら、この社会は人間の脳がつくった脳化社会ですから。

 

人は、自分のテリトリー以外の場所に強制的に移されると嫌悪感を抱く場合があります。

 

その嫌悪感を優先し、自分のテリトリーから脱出することをしなければ、多様性を受け入れるといったせっかくの場を潰すことになります。

 

今からでも遅くはありません。飲めなくてもその場にいるだけでもいい。若い方には、強い心的ストレスのない範囲で、と付記しますが、色々な場でたくさんの人と交流し、知恵を蓄積させてほしいと思っています。

 

これは宴会好きな土佐人からの切なお願いです(笑)。

 

 

― やはり、人間性が大切ということですね。

 

森岡先生 個性というのは、後天的にでも変えられるものだと思っています。

 

私自身、子どもの頃は社交的ではない人間でしたが、人前に出て行くことで変わることができました。しかし、そもそもの人格は幼い頃にある程度決まります。

 

学生指導においても、自己のテリトリーに学生を引っ張り込むのではなく、むしろ子どもの世界に大人が入り込み、彼らからはこの世界がどのように見えているのかという視点のスイッチを行わないと、その相手を理解することは難しいと思っています。

 

彼らの世界に入り込み、情報を共有すると、次第に表情や反応が目に見えて変化してくるケースがあります。

 

まずは、相手の世界に入り込み賞賛し、そしてじわじわと自分の世界にも興味をもってもらい、足を踏み込んでもらう。

 

この相互作用の手続きによって、人は成長し、本当の意味で変わることができるのだと思います。

 

「今の若者は…」といった話も同様です。先ほど、若者の飲み会離れの話をしましたが、この問題は実は上司や主催者の責任でもあります。

 

上司が後輩のもとまで降りることができるか否か、この部分が実はとても大切だと思っています。

 

 

【目次】

第一回:不真面目な高校生活から一転、今の礎を築く養成校時代

第二回:自らアポを取り、パリ留学へ

第三回:熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究へ

第四回:畿央大学前学長の生き様に憧れ、大学教員の道へ

第五回:共に楽しむことこそ、教育の原点

第六回:心身の揺らぎを忘れたとき、人間はロボット・AIにとって変わられる。

第七回:異業種、異世代、異性とのコミュニケーションが脳を育てる

最終回:生きる

 

森岡 周 先生 プロフィール

1992年 高知医療学院理学療法学科卒業

1992年 近森リハビリテーション病院 理学療法士

1997年 佛教大学社会学部卒業

1997年 Centre Hospitalier Sainte Anne (Paris, France) 留学

2001年 高知大学大学院教育学研究科 修了 修士(教育学)

2004年 高知医科大学大学院医学系研究科神経科学専攻 修了(特例早期修了) 博士(医学)

2007年 畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授

2013年 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長

2014年 首都大学東京人間健康科学研究科 客員教授

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター HP: http://www.kio.ac.jp/nrc/

森岡 周先生SNS

Facebook:https://www.facebook.com/shu.morioka

Twitter https://twitter.com/ShuMorioka

 

<2017年3月現在の論文・著書>

英文原著73編(査読付)、和文原著100編(査読付)、総説72編(査読無)

著書(単著・編著)15冊、(分担)20冊

http://researchmap.jp/read0201563

 

(撮影地、撮影協力:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター内)

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