第二回:把握動作の脳機能。運動前野腹側野の代償【産業総合研究所 | 村田弓先生】

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村田先生 この研究では、神経細胞を壊す薬を使って、脳損傷を起こしているので、一度失われた神経細胞が元に戻ることはありません。

 

しかし、把握機能が回復するということは、脳の別の領域が何らかの働きをしているということが考えられます。

 

そこで次に、損傷された機能をどこの領域が代償しているのかを調べました。

 

つまみ動作中の脳血流量を測定し、脳の活動領域に損傷前後でどのような変化が起きているのか比較しました。

 

運動前野腹側部と把握動作の機能回復

村田先生 結果は損傷後のトレーニングで両半球の様々な箇所に脳血流量の上昇が認められましたが、中でも私が着目したのは、運動前野の腹側部という領域です。

 

ここは正常時でも把握動作に関わると言われていますが、損傷後に大幅な活動上昇が観察されました。

 

運動前野腹側部が機能回復に関わっていた場合、仮にここを抑制してしまえば、回復していた運動麻痺がまた起きるのではないかと予想しました。

 

そこで次に、ムシモールという神経活動を一時的に抑制する薬を運動前野腹側部に投与しました。

 

すると、把握運動は稚拙になり、協調的な動きが困難になっている様子が観察されました。

 

正常では第一次運動野から脊髄の運動ニューロンに手を動かすという情報が伝わりますが、損傷後は難しくなります。

 

運動前野副側部には、第一次運動野と比べると少ないのですが、脊髄への投射経路がある(脊髄の運動神経細胞に直接結合してはいない)ことが知られていますので、もしかすると、今回その投射経路を強化されたため、手を動かすことができるようになったのではないかと考えています。

 

余談ですが、人やサルは他の動物と違い、第一次運動野から脊髄の運動神経細胞に直接結合して、情報を送っており、それが手の器用さに関わっているのではないかと考えられています。

 

研究者から臨床家へ

― サルに課題を覚えさせるのはどうやって行っているのですか?

 

村田先生 研究の前段階で、まず人に慣れる練習を行います。動物の世話も研究者が行い、専門的にサポートしてくれる人たちもいます。

 

1〜2ヶ月経ち、人に慣れてくると、次に簡単な課題から難しい課題へ難易度を上げながら、成功したら報酬を与えるということを継続します。

 

今回の場合ですと、大きな穴に餌が入っており、つまむことに成功すると「食べられる」という報酬を与え、それを次第に小さな穴でもできるように難易度を調整していきました。

 

― 研究者として臨床家に思うことはありますか?

 

村田先生 リハビリの量と質をもっと一緒に考えていきたいと思っています。

 

一つ例に出すと、脳は回復するためには、ある程度リハビリの“量”が必要だと思っています。

 

脳をコンピュータ―の中で再現したリハビリのシミュレーション研究では、400回以下のトレーニングでは回復せず、400回以上だと回復すると報告されています(Han et. al., PLoS Comput Biol, 2008)。

 

この研究はシミュレーションの結果のため、この数に意味を見出すことは難しく、実際の治療で400回するのが良いというように考えることはできません。この結果からいえることは、回復を後押しするためにはある程度のリハビリの量が必要である可能性を示していることではないかと考えています。

 

質に関しては、難しいですが、現在、経験などによって差があるのはある程度仕方がないと思っています。私が想像するのは、例えば、ベテランセラピストの素晴らしい治療方法を科学的に知ることで、若手セラピストの技術獲得をサポートすることなどができるのではないかと思っています。

 

将来のリハビリでは、多くの患者さんに質のよいリハビリが広く提供できるようになれば良いなと思っています。

 

そのために、効果的なリハビリの方法を研究者と臨床家で一緒に突き止めていきたいと思っています。

 

*目次

第一回:脳損傷サルの把握機能の回復の違い

第二回:把握動作の脳機能。運動前野腹側野の代償

第三回:研究者としてのプロフェッショナル

 

村田弓先生プロフィール

2003年3月 茨城県立医療大学 保健医療学部 作業療法学科 修了
2008年3月 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 修了  博士(神経科学)取得
2008年4月 日本学術振興会特別研究員 (DC2,PD)
2012年4月~ 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間情報研究部門
      システム脳科学研究グループ 研究員

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