そもそも「活動・参加」とは何なのか【認知症のある方を担当したら】

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「できないことをいくら詳しくわかってもできるようにはならない」

 

認知症のある方の一見不合理な言動にも能力が投影されているということをいろいろな場面で何度も繰り返しお伝えしてきました。

 

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今回はその点について少し補足をしたいと思います。

 

認知症と他のリハビリテーション対象疾患との違い

認知症と他のリハビリテーション対象疾患とでは大きく異なる点があります。

それはできないことをトレーニングして現状を修正・改善するのではないということです。

残念ながら、認知症という状態像のある方の場合には、できないことをいくらトレーニングしてもできるようにはならないのです。

 

それは何故か、ここで記憶について少しご説明したいと思います。

 

私たちは日頃から「記憶」という言葉をよく使っていますが、記憶というのは「記銘」「保持・把持」「想起」という3つの過程の総称なんです。

「記銘」というのは、体験した事柄を脳の中に入れこむ。

「保持・把持」とは、入れこんだ体験を脳の中に蓄えておく。

「想起」とは、蓄えておいた体験を必要に応じて思い出す。

この3つの過程を総称して「記憶」と呼んでいます。

 

ところが老化による生理的な物忘れと病気による認知症とでは「記憶」の3過程で障害される過程が違っていると言われています。

 

生理的な物忘れでは、体験した事柄を脳の中に入れて蓄えておくところまではできるけれど、そこから次の思い出す過程が障害されると言われています。

ですから別名「体験の一部・詳細を忘れる」「思い出せない」と言われています。(図A)

 

 

ところが、病気としての認知症の場合には、体験した事柄を脳の中に入れて蓄えておく過程が障害されてしまう。

つまり身体は体験していても脳の中には記憶として残っていないということになります。

ですから別名「体験全体を忘れる」「覚えられない」とも言われています。(図B)

 

 

どんなに繰返し繰り返しトレーニングしても「記憶」として脳の中に蓄積されない。できないことをいくら反復練習してもできるようにはならないということになります。

 

特に注意が必要なのは、Activityの選択・提供

評価の前段階として、各種検査によって症状や障害を明確にすることは必要ではありますが、できないことをどれだけ詳しく把握できても、それだけではできるようにはならないのです。

 

一見当たり前のことのようですが、このことを明確に理解できていないと認知症のある方に難易度の高い課題を提供してしまい、認知症のある方はワケがわからないままにセラピストに言われるがままに手足を動かしていて、終わってからグッタリ疲れてしまった。。。というようなことが起こってしまいかねません。

 

もっと言うと、たとえ標準的なリハビリテーションであったとしても目の前にいる認知症のある方には難し過ぎる課題を提供してしまい、どうしてできないんだろう?とセラピストが悩んでいたり、認知症のある方が困惑してしまったりということすら起こりかねません。

 

私たちセラピストの脳が認知症のある方の手足を使って動かしているような状況は、果たしてリハビリテーションと言えるでしょうか?

 

特に注意が必要なのは、Activityの選択・提供だと考えています。

ICFの「活動・参加」は、単に表面的に何かしているように見えることを指しているわけではないでしょう。

その方にとっての固有の「活動・参加」を意味していると考えています。

 

そもそも「活動・参加」とは何なのか

リハビリテーションを開始するにあたり、ご希望を伺ったところ、認知症のある方がやりたいと言ったActivityができなくなってしまっていたという場面に遭遇したことのあるセラピストは少なくないと思います。

 

「今尋ねた」希望を答える時の認知症のある方の根拠は「過去の体験」なのです。「過去にできていた趣味活動」が病状進行に伴い「今できなくなってしまった趣味活動」であるということは往々にして起こりえます。

 

そんな時にどうしたらよいのでしょうか?

「やりたい」と言った活動を事細かなセラピストの指示に従って何かを仕上げることが適切なActivityの選択・実施であり、ICFの「活動・参加」なのでしょうか?

 

そもそも「活動・参加」とは何なのでしょうか?

 

認知症のある方は既に生活場面だけで、一日暮らすというだけで、たくさんの困難に遭遇してその都度その都度、喪失体験や失敗体験を積み重ねています。

 

そのような方に対して、かつて大好きだった活動、充実感を味わうことができていた活動ができなくなってしまったという現実に直面させてしまう、人の助けを得ても難しく感じる体験をさせてしまうことは、たとえ結果的にであったとしても二重の意味での喪失体験を提供してしまうことになりかねません。

 

ここで問われていることは、「認知症のある方でもできるActivityって何かない?」と探すことではなくて、本当は、提供する私たちセラピストがActivityとは何か?ICFの「活動・参加」とは何か?どのように考えているのか?ということが問われているのです。

 

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佐藤良枝先生プロフィール

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1986年 作業療法士免許取得
肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職

2006年 バリデーションワーカー資格取得


2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載

認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数


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