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最終回:ユニバーシアード男子サッカー日本代表 3大会ぶりの金メダルの裏で【国際医療福祉大学|宮森 隆行先生】

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スポーツの競技特性を知っているか

― 順天堂大学で学んだスポーツの知識は、今でもいかされていますか?

 

宮森先生 すごく役に立っています。所属していたスポーツ科学科では、大半の学生が保健体育科教職課程の科目履修をしているので、総合教育科目以外の多くのものはスポーツに関連した専門科目になります。

 

運動生理学、スポーツバイオメカニクス、スポーツ心理学、スポーツ栄養学などの専門領域の他に、体育実技で必須となる競技の教授法を学びます。サッカーはもちろん、陸上種目、ラグビー、ゴルフ、体操などの競技特性や指導方法などを学習できます。

 

競技スポーツの理学療法士になると対象者(選手)のリハビリテーションのゴール設定は、ADLレベルではなく、スポーツ復帰になりますよね?

 

担当する対象者の競技特性(例えばサッカーであれば、試合中の走行距離や移動スピード、キックやステップ、ターンの仕方)などについて知識がないと障害予防やリハビリテーションに応用することができません。

 

しかしながら、現在の4年間の理学療法養成課程では、これらスポーツの競技特性を学修することは困難であります。そのため、競技特性の基礎理解は順天堂大学で学んだ経験が生かされていると思います。

 

ATの狭き門

― 日本体育協会公認アスレティックトレーナー(以下AT)はいつ頃取得されたのですか?

 

宮森先生 2008年頃だったと思います。AT資格取得にあたっては様々な方法があります。まず、AT養成カリキュラムを提供している専門学校、大学、大学院にて単位取得を取得することでAT受験資格を得ることができます。

 

また、それとは別に日本体育協会(以下、日体協)が開催している養成講習会を2年間受講(複数回の集中講座含む)すると、受験資格が得られます。

 

これは、各都道府県体育協会から1名程度が推薦され、また、中央競技団体(サッカー協会、バレー協会、ラグビー協会など)からの推薦も含めて毎年100名ほどの推薦枠がります。

 

その推薦を承認されることで日体協AT養成講習会を受講することが可能であり、私もこの方法でATカリキュラムを受講し、資格を取得しました。2年間の研修を受けるのですが、基礎知識は教材を使って自主学習し、演習や実技などは、1週間程度の集中講座に参加する履修形態になっています。

 

カリキュラムを受講することで資格取得のための受験資格を得ることができますが、検定は筆記試験と実技試験があります。筆記試験の難易度は非常に高く、多くの受験者はここで基準を満たすことができず、次の実技試験に進むことはできません。

 

しかし、この学科試験に関しては、理学療法士の国家試験傾向(専門・共通)に多少なりとも似ている部分があるため筆記試験におけるPTの合格率は高いと思います。

 

― 養成講習会を受けるのも狭き門なのですか?

 

宮森先生 そうですね。私の頃は、各都道府県体育協会からの推薦以外に日体協からの推薦枠がありました。その枠に推薦してくれたのが、4年生の実習でお世話になった総合川崎臨港病院の村井貞夫先生でした。

 

ユニバーシアードやオリンピック、ワールドカップなどの国際大会に帯同するために必要な資格は、PTではなくAT(日本サッカー協会の場合)になります。当時の私は、各地域の大学サッカー選抜の帯同などをしていましたが、将来的な自分のキャリアを考えていた時に、是が非でも取得したい資格であったため年齢的にも経験的にも絶好のタイミングで推薦頂きました。

 

もちろん、村井先生をはじめ色々な方々のサポートにより成立した推薦枠であったため、しっかりと準備しながら学習し、学科、実技試験ともに一発合格しましたよ。笑

 

PT兼コンディショニングコーチ兼、通訳

― ユニバーシアードとはどんな大会ですか?

 

宮森先生 ユニバーシアードは、国際大学スポーツ連盟(FISU)が主催し2年に1度開催される国際大学総合スポーツ大会です。選手は世界中の国々から集まるため『大学生のためのオリンピック』と言われています。

 

大会自体も国際オリンピック委員会(IOC)管轄下で開催されるため、日本代表も日本オリンピック委員会(JOC)管轄下にて活動をします。選手村もあり、設置されるポリクリニック(診療所)は、各国の選手が自由に利用することが可能ですが、私は男子サッカー日本代表チームメディカルスタッフとしてチーム専属のPTとして帯同しました。

 

選手村へ入村できる人数は、選手(20名)、スタッフ(団長1名、監督1名、コーチ3名、医師1名、PT1名、分析1名)含め計28名でありました。私は、選手部屋の一区画を借りてメディカルルームを設置して、帯同医師と連携のもとで選手の身体のケアやコンディショニング管理しておりました。

 

― なぜ、ユニバーシアード代表チームに関わるようになったのですか?

 

宮森先生 順天堂大学助手時代の2006-2009年までの約3年間、関東大学サッカー選抜チームのトレーナーをしておりましたが、留学をキッカケに大学サッカーからは離れておりました。

 

しかし、2015年10月に関東大学サッカー選抜チームを結成してベトナムの国際トーナメントに出場する機会があり、私が帰国後に国際医療福祉大学に勤務していたこともあり、当時の技術スタッフや監督より声がかかりPTとして帯同しました。

 

大会自体は残念ながら4位でしたが、20名の選手を束ねるスタッフ5名の功績は評価されました。特に、監督1名、コーチ2名、医師1名、PT1名であったため、それぞれが連携して専門分野以外の仕事も熟していたことも大きな要因です。

 

私も選手の身体のケアやコンディショニング管理のみならず、現地コーディネーターへの対応や、公式ミーティングやテレビインタビューなどの通訳も兼任しました。もう、医療専門職ではなく究極のジェネラリスト(何でも屋)になっていたかも知れません。笑

 

その大会に次期ユニバーシアード監督に内定していた宮崎監督(青山学院大学教授・S級ライセンス取得)が視察に来られていて、ピッチ内外における選手やスタッフの活動ぶりを評価していたのだと思います。

 

実際のユニバーシアード代表におけるメディカルスタッフは全日本大学サッカー連盟(JUFA)の医事委員会で推薦され監督の承認により決定します。私の場合もJUFA医事委員会の推薦によりPT兼ATとして選出されました。

 

その時に、ベトナム遠征での仕事を評価して頂いた宮崎監督より「今度は一緒にやろう」と承認を頂きユニバーシアード男子サッカー日本代表のPTになることができました。

 

Photo:ファンクショナルトレーニング

 

邪魔な理学療法士

― 代表チームでは、どういったところが大変なのでしょうか?

 

宮森先生 チームは生き物なので、「これしかできません」というメディカルスタッフは邪魔になります。医師も例外ではなく、「私はドクターなので診断しかできない」という人は邪魔です。

 

理学療法士も「評価と治療しかできない」となれば、邪魔なのです。医師や理学療法士は普段は主に保険診療内という枠組みでの活動が中心となると思います。ただ、スポーツ現場は違います。

 

保険診療外の現場で医療専門職として何を感じて、何に気づいて、選手やチームが成長するために、どのような行動を起こすのか、ということが非常に重要になります。

 

そのため理学療法の専門分野以外のことにも目を向ける必要があります。私の場合は、スタッフ数も限られていたため、理学療法士として医師の診断の下での評価や治療のみならず、選手の体調やコンディショニング管理、試合前後のトレーニングなども監督やコーチ陣と連携を取りながら担当していました。

 

Photo:医師と連携した治療(選手村にて)

 

例えば、前日に試合があり、試合に出ていない選手は、ボールを扱った中強度のトレーニングをやりますが、70分以上、試合に出ていた選手は疲労回復のためのリカバリートレーニングを実施します。

 

障害予防のためのストレッチ方法もウォーミングアップ時は動的ストレッチを用いて、クーリングダウンや疲労回復時には静的ストレッチを用いて心身のバランスを整えるといった作業も大切です。

 

Photo:部屋の一角を利用したコンディショニングルーム

 

また、栄養補給のタイミングも指示しました。ユニバーシアード大会は中1日で6試合実施します。そのため、試合後には体内グリコーゲンが枯渇状態です。

 

試合後、2時間後に選手村にて食事をとればある程度の栄養補給はできますが、特に糖質の吸収力が低くなります。そのため、筋グリコーゲン、肝グリコーゲンの回復を即すために試合終了後1時間以内に良質な糖分摂取を心掛けて次の試合へ準備しました。

 

選手もその辺はしっかりと自覚しており、試合後に、こちらが準備したバナナなどの果物やおにぎり、シリアルバーやオレンジジュースなどを積極的に摂取できました。

 

選手が成長し、チーム力が向上するために医療専門職として何ができるか、常に細かく考えることがメディカルスタッフとして大切であり、コーチングスタッフと調和を取りながら準備、実行していくことが重要です。

 

幸い、ユニバーシアード代表のコーチングスタッフは大学関係者の方々ばかりですので、勝利至上主義ではなく、選手としても人としても成長してもらいたいという思いの強い方々ばかりでしたので、こちら側の提案のほとんどを受け入れて頂いたことも良かったと思います。

Photo:傷害予防テーピング

 

勝負の神様は細部に宿る

― その他にも専門以外で取り組んだことはなんでしょか?

 

宮森先生 学生が成長するため、チームが成熟するためには何でもやります。笑。これは私だけではなく、選手、スタッフ全員の共通認識でもありました。

 

サッカーで勝つため、チーム力が向上するためには色々な要素が存在します。もちろん、専門的な知識や技術、チーム戦術の理解度などチーム力向上に直結する要素もあります。

 

ただ、やはりスタッフが選手にまず感じて欲しかったのは代表チームとしての誇りと責任感です。実は、大会直前の合宿ではほとんどボールを扱いませんでした。主にやったのが、チームビルディングのための野外活動と被災地福島県への訪問でした。

 

野外活動においては、スポーツ心理学と密接に関係する報告もあり、数多くのプロスポーツチームがシーズン前のトレーニングキャンプでも取り入れているプログラムでもあります。ユニバーシアードのメンバーも各大学から選抜された選手であるためサッカー以外の人間関係は希薄な場面もありました。

 

しかし、この野外活動では丸太から飛び降りた選手を皆で支えたり、大きな壁を皆で協力しながら全員で登ったり、色々な取り組みの中からチームワークが育くむことができました。

 

また、被災地の南相馬市の訪問では、被災して離れ離れになった子供たちが結成したマーチングバンドSeeds+のメンバーと交流をはかりユニバーシアード大会での金メダル獲得を約束しました。

 

さらに、大会期間中においては、国際ボランティアの方々や現地台湾の方々が毎回応援に駆けつけてくれたことへの感謝の意を込めて、選手村近くの公園の掃除を選手が率先して行い、現地メディアに大きく取り上げられました。

 

様々な活動を通して選手自身が大きく成長してくれたことが今回の代表結成の大きな成果の一つでもありました。そして、これら選手の意識改革は、傷害予防やコンディショニング調整にも大きく反映していたと思います。

 

今大会期間中の、怪我による離脱者はゼロでした。

 

これは、私たちメディアカルスタッフの調整のみならず、選手が日々自分と向き合って物事を考え行動していたことで、セルフコンディショニングの思考が植え付けられた結果だと思っています。

 

― 最後に先生にとってプロフェッショナルとは?

 

宮森先生 『 格好つけずに、謙虚さと感謝の気持ちを大切にし、背負っているもの、人のため、社会のために努力し続け、結果を追求できること 』だと思います。私も少しずつ近づいて行きたいと思います。

 

(Photo:ユニバーシアード男子サッカー日本代表 3大会ぶりの金メダル)

 

【目次】

第一回:PCL損傷を負いJリーグチームとの契約が白紙に

第二回:オーストラリアとニュージーランドの大学院に留学

第三回:安易に勧められない海外留学

第四回:ユニバーシアードサッカー 3大会ぶりの金メダルの裏で

 

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宮森 隆行先生のプロフィール

 

・学位・学歴

順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科(1997) 大学卒業

国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科(2002) 大学卒業

国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科(2009) 大学院修士(保健医療学)

The University of Otago(2014) 大学院修士(Physiotherapy in OMT )

順天堂大学大学院医学研究科博士後期課程在学中

 

・職歴

順天堂大学医学部附属静岡病院リハビリテーション室(2002)

順天堂大学スポーツ健康科学部 助手(2006)

かんリウマチ整形外科クリニック 理学療法士(2012)

国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科 講師(2014)

国際医療福祉大学成田保健医療学部理学療法学科  講師(2016)

 

・学会

日本理学療法士学会

理学療法科学学会

日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会

日本整形外科スポーツ医学会

日本フットボール学会  など

 

・資格

中学・高等学校保健体育科教諭一種免許(1997)

理学療法士(2002)

JFA公認C級コーチ(2006)

日本体育協会公認アスレティックトレーナー(2008)

IFOMPT認定整形徒手療法士(オタゴ大学2014)

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