これから先進国で働くことを考えている療法士・学生へ #3|岡田瞳先生

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仕事面で日本との違いを感じること
 


1) 開業権の有無

 理学療法士の主な職場としては、日本と同様に病院やクリニックなどの医療機関、介護老人保険施設やデイケアセンターなどの医療福祉中間施設、特別養護老人ホームなどの福祉施設、大学や専門学校など、理学療法士を養成するための教育施設などが挙げられます。

 

 しかし、ドイツの理学療法士は開業権を有しているという大きな違いもあります。自分の強みや得意分野を活かして理想的な医療を提供したい、理想的な働き方がしたいと思う人々は独立開業を目指します。

 

そのため、町の至るところで理学療法のクリニックを見かけますが、ドイツも国家予算の関係上、保険診療の縮小を行う傾向にありますし、競争の激しい環境で運営していくことは簡単なことではないという現実もあります。

 

多くのクリニックが、自費診療やエステ、リラクゼーションといったサービスを上手く取り入れながら患者や顧客の獲得に励んでいます。ただし、ドイツの理学療法士も「診断」することはできません。

 

他国には、身体に不調を感じた患者が医師ではなく理学療法を「ファーストチョイス」し、理学療法士が診断することが可能になっている国もありますが、ドイツの場合は開業権を有していても、あくまで医師の診断およびリハビリの指示が必須となっています。

 

 その他、スポーツ現場で活躍する理学療法士もたくさんいます。スポーツチームや選手と契約し、治療やリハビリだけではなく応急処置からコンディショニング全般にいたるまで、その仕事内容は多岐にわたります。

 

日本では「アスレティックトレーナー」という資格が存在し、バックグラウンドは様々でも一般的に「トレーナー」と呼ばれる人々がその業務にあたりますが、ドイツに「トレーナー」という役職は存在しません(正確には、ドイツ語で『Trainer』とは指導者という意味を持ち、スポーツ界では監督やコーチのことを指します)。

 

そのため、スポーツ傷害やコンディショニングを積極的に学んだ理学療法士がそういった現場で必要とされているのです。

 

2) 社会的認知度

 「理学療法士」と耳にしたときに、日本ではどのくらいの人々が具体的なイメージを持てるでしょうか。実際にリハビリを受けたことがある人を除いたら、明確に説明できる人はそれほど多くはいないでしょう。

 

私も帰国してから、名刺交換や職業欄を記載する場面で、仕事内容について質問されたり、「『医』学療法士ですか?」と聞き返されたりすることが多くありました。

 

 ドイツでは、「Physio(フィジオ)=理学療法士」と聞いて通じない人はまずいません。外傷でも障害でも、病院やクリニックを受診してリハビリの必要性があると判断されれば、医師より処方箋が発行されます。

 

処方箋には、診断名のほか、リハビリの目的や頻度、回数、内容(例:マニュアルセラピー20分、リンパドレナージ30分、物理療法20分)などが記載されています。

 

患者はその処方箋を手に、近隣や医師から薦められた理学療法クリニックに、あるいは口コミなどを参考に自分自身の判断でクリニックに向かいます。

 

特に整形外科の場合は、受診=リハビリ開始という流れが一般的ですし、薬局のように至る所で理学療法クリニックを見かけるので、人々にとって大変身近な存在であることが分かるかと思います。

 

私は現地では「外国人」でしたから、クレジットカードを作成したり賃貸契約を結んだりするときにはより審査が厳しくなりましたが、理学療法士という職業が信頼を得やすく、各種手続きをスムーズにしてくれたという経験もありました。

 

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