健康寿命に貢献できる理学療法士
― 先生は最近リハビリの先生が教える「健康寿命が10年延びるからだのつくり方」という書籍を出版されましたよね。健康寿命は国としてもテーマに取り上げられていますが、元気なときには予防を考えない人も多いんじゃないかと思うんですが、先生のお考えはいかがですか?
園部先生 医療費と介護費が莫大に増えています。おそらく近い将来、日本の国家予算を超えてしまうという試算があるくらいですから。私の知り合いの先生が言っていたんだけれど、2030年までに医療費と介護費だけで国家税収を超える可能性が高くなってきているらしいです。
だからこれから先は、医療は大きな転換を迫られると思います。その一方で、国は健康寿命に力を入れてくると思います。病気になった体をよくするのもすごく大事だけれど、医療費のことを考えると、自費でも自分の健康は自分で管理するという方向に行かざるを得ないと思います。
医療費が莫大にかかる以上、自己負担率を上げざるを得ないでしょう。それも含めて必ず健康寿命に世の中の焦点が向かうと思っています。ここで、なぜ私が健康寿命の本を出したのかというと、いくつも理由があるのですが、健康寿命に貢献できるということは、まず医療費が減ります。
男性の健康寿命は70歳くらいと言われているんですが、70歳から死ぬまでに生涯の半分の医療費を使うとも言われているんです。だから、3歳でも5歳でも健康寿命を延ばすと、莫大な医療費が減るでしょう。
なおかつ、30歳まで訪問リハの仕事もしていたことで分かったことがあります。それは、「健康じゃなくなると、その家族が大変になる」という事実です。そんな様々な家庭模様を姿をたくさん見てきたんですよ。だから、健康寿命に貢献することは、国の財源に貢献することにも、患者にも、患者の家族にも貢献できることになります。
そしてこれからの予防医学を担っていくのは、理学療法士だと私は考えています。これだけ増えた理学療法士が、医療だけじゃなくて予防に貢献できれば社会にも貢献できます。だから、これからは理学療法は必ず健康寿命にシフトしていくと思っています。そして健康寿命に貢献することで、社会に大きく貢献できる職種になるとも思っています。
― 先生がいままでやってきたこととちょっと違う分野だと思うのですが。
園部先生 もうひとつ大きな理由は、実は加齢に伴って衰えた機能を改善していくことと、我々理学療法士が対象とするすべての患者に行うことが、ほとんど一致すると分かったんです。あの健康寿命の本で一番強調しているのは何かというと、人間が年をとって生じる3つの大きな変化なんです。
それは「体幹が曲がる」「膝が曲がる」「股関節が曲がる」ということなんです。
加齢によって体幹は、前額面も、矢状面も、必ず少しずつ曲がっていきます。
そして膝では、若い女の子の膝はほとんど過伸展します。でも60歳くらいから膝が過伸展している人は、ほとんどいなくなります。70代になると膝が伸びなくなっていって長座位で膝窩が床面につかなくなります。
そして股関節では、伸展方向への動きが使えなくなります。
要は倒立振り子が出来なくなるんです。この「体幹が曲がる」「膝が曲がる」「股関節が曲がる」の3つの改善を網羅できるというのは、人が動く上で、すごく大事な技術なんです。そして、この3つの改善ができる療法士が食べていけないということは絶対にありません。
これができると、すべての患者を満足させられると思います。脳卒中を診るのだって、プロ野球選手を診るのだって、私が最終的に行っているのは、結局はみんなそれなんです。
あとは局所の各論的な病態は取り上げていかないといけないけれど、この3つの改善はあまりにも重要なんです。それくらいあの本に書いてあることはすごく大事だし、宣伝するわけじゃないけれど、あの書籍には、これからの理学療法士に必要なことがすべて詰まっていると私は勝手に思っています。
― これからも理学療法士の時代は終わらないと。
園部先生 終わらないですよ。健康寿命に貢献できたら、社会貢献は絶大です。人間はみんな健康で、長生きしていきたいと思っています。それに健康寿命と平均寿命の間には10年以上の差があるでしょう。人生の晩年は、何らかの助けを受けないと自立できない生活が10年待っているわけです。これを変えてあげることってすごいことだと思いませんか。
― 先生は今後チャレンジしていきたいと考えていることはありますか?
園部先生 あります。でもいまは言わない(笑) いくつかあるけれど、自分が成し遂げるべきことがあると思っているんです。出版社も、研究会も、全て自分の臨床の延長線にあるんです。だから、自分の臨床をもっともっと極めるほど、この先に良い展開が待っていると思うんですよね。
これが自分の人生にとっても大事だし、もうすぐ50歳だから、70歳まで臨床ができると考えたら残り20年くらいの臨床かな。限られてはいるけど、この20年できるだけ追及して、その追及したものが、この先に思っているビジョンに向かっていくと信じているんです。
― やっぱり真ん中に臨床があると。
園部先生 常に真ん中に臨床があるし、それに臨床を追求していくと仲間もできてきます。そして与え合う関係になれるんです。赤羽根良和先生や八木茂典先生、成田崇矢先生、中村尚人先生、そういう有名な理学療法士がいるけど、彼らは私にたくさんのものを与えてくれるし、私も与えることが出来る。仲間が増えると、また1ランク成長できるし、高め合う関係がたくさん作っていけると思うんです。
家族というキーワード
― 先生の経歴を見ていると「家族」というキーワードが多くみられました。療法士は、休日は勉強会に行ったりと家族と過ごす時間が短くなってしまって、そこで悩んでいる療法士も多いと思うんです。そこに対して先生のアドバイスなどがあればお聞かせください。
園部先生 ちょうど今週のブログに書こうと思っていたんだけれど、私が自分の生き方を見つけた瞬間があって、一時期マラソンをしていたことがあるんです。
母親も一緒に大会に出たんだけど、そのとき一人の患者と会ったんです。その患者は、隣にいた母親に「わたしずっと走れなくて悩んでいたんですけど、園部先生と出会って、こうやって大会に出るようになって本当に感謝しているんです」と言ってくれたんです。
そのときの母親がすごく嬉しそうな顔をしていたんです。自分がたくさんの人に貢献して喜んでもらえることって、すごく親に喜んでもらえるんだって、そのときに気がついたんです。
このことって、裏を返せば我が子にとっても同じだと思うんです。それから、「親が喜んでくれる生き方であり、子供に誇れる生き方であり、自分の家族に望む生き方である」ということが、自分の生き方のキーワードになっていったんです。
私なんかは、家族と過ごせる時間が普通の理学療法士より少ないと思うんだけど、やっぱり自分の家族を大事にしたいと思っているし、家族に誇れる仕事にしたいと思っているんです。
ありがたいことに妻は、私のことをすごく大切にしてくれるんです。それはこの「私の生き方」(こと)を分かってくれているからじゃないかと勝手に思っているんですけどね。
若い人に向けるメッセージとしては、家族を大切にすることと、またそれ以上に家族に誇れる生き方をするというこの2つです。
― 先生にとってのプロフェッショナルとはなんですか
園部先生 プロっていうのは何かっていうと、“一般の人では達成できないことをやってのける人”だと思っています。だから若い療法士には、自分の臨床を振り返って、「本当に素人では絶対にできないことをしているのか」、それを考えて欲しいんです。「硬いから曲げ伸ばしをする」「寝返りができないから寝返りの練習をする」「立てないから立つ練習をする」、そんな程度の事だったら、やり方とコツを教えてあげれば家族でもできてしまいます。そんなのプロの仕事ではない。
つまり、最終的なプロの形は、素人が成し得ないことをすることであり、やっぱり依頼があるということじゃないかなって思います。すごいプロフェッショナルには、必ず依頼があるということ。それはドクターでも、弁護士でも、料理人でも、例外はないと思います。普通の人では成し得ないことを成し遂げて、究極的には依頼がある、そこに尽きると思います。
園部俊晴先生の無料講座「力学的推論を理解するためのステップ講座(全49回)」は下記のURLから登録可能です。是非ご覧下さい。
▶︎ http://pt-sonobe.com/mail-lecture
【目次】
第一回:師入谷誠との出会い
第二回:倒立振り子理論
第三回:運動と医学の出版社を設立
第四回:コンディション・ラボを開業
第五回:家族
園部先生のオススメ書籍
園部先生コメント>>一般書では、松下幸之助の道をひらくっていう本がすごく好きです。あとは斉藤一人、勝間和代、マイケル・ボルダック、デール・カーネギー、ナポレオンヒル、スティーブRコヴィーとか好きです。1番多い年は200冊ぐらい本を読んだんですよ。下記は私のお勧めの書籍集です。ぜひご覧ください。http://pt-sonobe.com/books
園部 俊晴先生プロフィール
・コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院)所長
・運動と医学の出版社 代表取締役社長
・臨床家のための運動器研究会代表
・身体運動学的アプローチ研究会会長代行
経歴
平成3年4月 関東労災病院リハビリテーション科勤務
平成18年6月 秩父宮スポーツ医科学賞奨励賞
平成22年10月 臨床家のための運動器研究会 代表理事
平成28年1月 身体運動学的アプローチ研究会(入谷式を発展させるための会) 会長代行
平成29年3月 26年間勤務した関東労災病院を退職
平成29年4月 コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院)を開業する。 同時に㈱運動と医学の出版社 代表取締役 社長に就任。足・膝・股関節など、整形外科領域の下肢障害の治療を専門としている。故、入谷誠の一番弟子。一般からスポーツ選手まで幅広く支持され、、多くの一流アスリートや著名人などの治療も多く手掛ける。身体の運動連鎖や歩行に関する研究および文献多数。著書多数。新聞、雑誌、テレビなどのメディアにも多く取り上げられる。また、運動連鎖を応用した治療概念は、専門家からの評価も高く全国各地で講演活動を行う。