キャリアコンサルタントが徹底サポート

吉川法生先生 -作業療法を通して社会と教育を考える作業療法士(OT)- 第2回

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     異業種に作業療法の強みを最大限に活かす

インタビュアー細川:

吉川先生にとって作業療法士で「キャリアアップ」とはどういうことを指しますか。

吉川先生:

キャリアアップを縦で考えるか横で考えるかで結果は変わると思います.

縦で考えれば専門性を深め,その専門性の中で指導的役割を果たすことがゴールになるのだと思います.OTも専門職ですから,このルートは大事な一つの側面です.

ただ物事を違う側面から見ることも大切です.OTという基礎を持った上で,横にどのようにそれを広げていけるのかという視点を私は持っています.

例えば,私は将来障害や病気に対応できるサポート技術を持つ旅行会社を作りたいと思っています.

そうすることで,今まであきらめていた家族旅行や海外旅行なども楽しんでもらえて,生きる気力を高めてもらいたいと思っています.

そのように,今までOTの仕事と思われていないことを横に広げていくということも,これからのキャリアアップにおいては考えられることだと思います.

今でも,時々異業種の人と話をする機会がありますが,お互いに役に立つヒントが溢れ出てきます.時々思うのですが,OTの技術を持った人が車椅子の開発や住宅,ロボット、コンピュータなどの研究開発部門にもっと入り込まないかなと思っています.

昔の先生は臨床に行くのが一番で、そうでなきゃいけないと指導していたようですが,その臨床を側面から支える技術を整えていくことも,臨床と同じくらい大切だと私は思います.

でも,今OTが一番しっかり話をしなきゃいけない人は,PTじゃないかな.リハビリテーションにおいては一番重要なパートナーだと私は思っているので,きちんと理解し合わないと,お互い仕事がしにくくなると思いますよ.

私が今の職場を選んだのも,仕事のパートナーにしっかりしたPTがいるからです.会社の代表も本部長もPTですが,その二人にOTをしっかり理解してもらうこと,その上でPTとOTがその事業の中で必要に応じて役割を決めていくこと,それによってより質の高いリハビリテーションを提供していくことができていきます.

最初からPTはこの役割,OTはこの役割と決めずに,各プロジェクトの内容に応じて分担させていきます.この中でOTの特徴を最大限活かせるようにすることが私の仕事です.

 インタビュアー細川:

なるほど。PTとの分業は必要な部分はすべきですよね。あと、OTの技術を異業種に活かすのは私もかなり共感します。では、若手療法士に対して、今後の作業療法(リハビリテーション)業界の展望を踏まえたアドバイス、例えば必要な視点や行うべきこと、行ってほしいことをお願いします。

 
 吉川先生:
 

視点についてはさっきも一部話しましたが,OTの基礎とは何であるか,というところの話を改めてしましょう.

 

日本の今までの作業療法士教育の基本になっているのは,医学的知識です.最初に解剖学や生理学をやり,その後専門科目に入っていきますが,私自身が違和感をもったように,最初に高度な医学知識を学んでから作業を学ぶと,どうしても作業が手段的なものと捉えられてしまいます.

そうではなく,最初の2年間くらいはまず徹底的に作業について掘り下げて,その後に解釈の一つ(とても重要なものではありますが)として医学的な知識をつけていくという,順番を変えた教育をしてみる必要があるかなと思っています.

ですので,臨床実習も医療場面以外に体験できるものを学内教育の中で準備して,作業が人の生活に果たす重要性を学ぶことーそれをOTの基礎と呼びたいと思っています.

ですので,就職もまず医療機関で何年か修行してから地域に出るというコースでなく,まず地域で人の生活を理解した上で希望するなら勉強して医療の現場に出るという発想があってもいいのではないかと思います.養成校の先生方,ご一考ください.

医療機関で最初に何年か経験すると,もうその発想から抜け出せなくなってしまうのですよ.でも,地域にしっかりした指導体制がまだまだ充実していないのも現状です.
今は学生協会ができたそうなので,とても安心していますが,以前は学生の横のつながりもあまりありませんでした.それで千葉県立保健医療大にいた時に,首都大と神奈川県立保健福祉大の教員がたまたま北大の同窓生だったので,学生をけしかけて3校でOT学生の運動会を行いました.最初は学生も疑心暗鬼でしたが,いざやってみると学生から積極的に他校の学生と交流を持つようになりました.
そこで,学習環境の違いや教員の個性などを乗り越えて共通に考えていく楽しさを見いだせたのだと思います.3年目になると参加者 が200名以上の伝統行事になっているようです.

   

今までの体制で教育されてくると,その宇宙の中でしか物事を見ませんから違う意見を言っても反対されるか無視されるかのどちらかです.私は自分の意見が人から反対されたり無視されたりすることを楽しんでいます.

ああ,この人の持っていない考えなんだなと自己評価します.説得しようとは思いませんし,他者を説得するには本人が気づくことしかありません.運動会も,養成校によっては反対する教員がいたと聞いています.

今でも,もういい年なのにあんなバカなことして,と思われることで違う宇宙があることに気づいてもらいたがっているのですが(笑).

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 同質な価値観から脱するべき

インタビュアー細川:

では最後に、これからセラピストを目指す高校生、並びにすでに学校で学んでいる学生に一言お願いします。

吉川先生:

はい。私はどちらかというと人を独立した個体として捉えるよりも,社会という環境の中での人の存在,ということに興味がありましたので大学院も教育学/心理学に進みました.

 

エンジンの出力をグロスでみるのかネットでみるのか,ということですね.

なので,リハビリテーションをただの技術として捉えておらず,半分は思想として考えています.

その思想的な背景を支えているのは人の生活における文化です.文化は国によっても違いますし,地域によっても当然違います.

隣の県なのに,葬儀の方法でも違うことがあります.自分にとっては常識でも,他人にとっては見たこともない現象かもしれません.

リハビリテーションにも似たような現象が起こります.今まで何も考えずにやっていたことが,障害が残ったことで見たこともない方法でやらなければいけなくなる,そしてそれを受け入れなければならなくなる,そんな感じです.

これは,相手の価値観を理解する,ということになります.これを深めるには,若いうちにいろんな体験をすることです.学校や社会の枠に必要以上に縛られずに,自分で思ったことを素直に受け入れることです.

私たちが対象にするのは人であり,しかも様々な背景や文化を持った人たちです.それを理解しようと思うと,自分の受け止める幅を広げていくことです.

グロスの知識なんか,努力すればその後でいくらでもつけられます.親や教員を超えることなしに,社会の発展や進歩などありません.

いじめが起きるのも,この極めて狭く同質的な価値観を持つ社会の中だからです.自分の中の宇宙を少しずつ広げたい,と思える人はリハビリテーションを担う力があると思います.

もう一度言います.今できる最善のことをすれば,評価なんて後からついてきます.

その時評価されなくても,後から必ず評価されます.私はそれを信じています.

インタビュアー細川:

吉川先生、ありがとうございました。

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     吉川先生の経歴

職種:株式会社リハステージ 事業本部副本部長

学歴:

北海道大学医療技術短期大学部作業療法学科卒業(作業療法士免許取得)

秋田大学大学院教育学研究科学校教育専攻(障害児教育)修了後,東北大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻(人間発達科学)博士課程中退

職歴:

ひまわり会札樽病院,クラーク病院,社会福祉法人楡の会こどもクリニックを経て秋田大学助手,星城大学准教授,千葉県立保健医療大学准教授を経験後臨床に戻り旭川医科大学病院から現職

吉川法生先生  -作業療法を通して社会と教育を考える作業療法士(OT)-  第2回

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