肩甲胸郭関節の可動性を低下させる広背筋の癒着を攻略

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広背筋という強大な筋はたくさんの筋と癒着を作り、肩の機能を著しく低下させます。広背筋という一つの筋を癒着から解放できるようになるだけでも、肩の治療は大きく変わるはずです。

1. 肩甲骨と胸郭の間の広背筋 

 肩甲胸郭の可動性を低下させる原因として、肩甲下筋を前鋸筋(および滑液包)が癒着すると思っていました。しかし、画像や触診を繰り返すうちに、実際には肩甲下筋と前挙筋の間には広背筋が挟み込まれ、しかもかなり強く癒着している例が多いことが分かってきました。肩甲下筋はほとんど前鋸筋に触れていません。すなわち広背筋は肩甲骨と胸郭の可動性を失わせる接着剤のように挟み込まれているのです。

 

 肩甲骨の前面において、肩甲下筋と広背筋は広範囲で癒着を起こしています。このため、肩甲骨の上方回旋や外旋(内転)に対して抵抗します。さらに、その前で広背筋と前鋸筋が広範囲で癒着し、上方回旋を引き起こす前鋸筋の機能を低下させます。同時に広背筋の柔軟性も失われるので、肩甲上腕関節の挙上にも強く制限をもたらします。

 広背筋を上方にたどると、その前縁が烏口突起(場合によっては小胸筋)に癒着している場合があります。これは相当に肩の運動やアライメントに影響を及ぼしています。運動では絶対に代えられない上部体幹のマルアライメントとも関連します。

 

 烏口突起の下では、広背筋の前面で腕神経叢から伸びる多数の神経や上腕動脈と癒着し、後面で腋窩神経と癒着していることもあります。そして、烏口突起の外側を通った広背筋は烏口腕筋と上腕骨の間、さらに大胸筋の深層を通って上腕二頭筋長頭の内側につきます。この上腕骨の停止部付近で起こる癒着は肩甲上腕関節の外旋制限の原因となります。

 

2. 広背筋を解放

 広背筋の前縁から前鋸筋との間をリリースしていくと、肩甲骨下角に到達できます。そのまま肩甲骨から指先を離さずに上内方に向かって滑らせていくと肩甲骨内側縁を辿ることが出来ます。徐々に上方の広背筋・前鋸筋間をリリースし、次に肩甲骨前面(肩甲下筋)をこするようにしつつ広背筋を外側に向けてリリースすると、広背筋を前鋸筋と肩甲下筋の両方から解放できます。それをさらに上方にたどると、広背筋内側縁と小胸筋や烏口突起との癒着をリリースできます。

 

 ISRセミナー(初級編)では、先日の大阪会場からこの肩甲骨内側縁の触診を含め、肩甲胸郭の癒着のリリースを本格的に開始しました。過去の受講者の皆さんも、肩甲胸郭に挟み込まれた広背筋を救出してみてください。

 

3. 広背筋の癒着の影響

 広背筋の癒着が肩の可動域に及ぼす影響は以下の通りです。

 

1)広背筋は肩の伸筋なので、これが胸郭上で前鋸筋と癒着すると肩の屈曲制限を招く。

2)広背筋が大円筋や肩甲下筋と癒着すると、肩甲骨の上方回旋を外側でブロックし、上方回旋制限をもたらす。その状態で無理に上方回旋しようとすると、広背筋は胸郭から部分的に浮き上がって遠回りすることになり、さらに屈曲制限を強める。

3)広背筋が肩甲下筋と癒着すると、肩内旋筋である肩甲下筋とともに肩の外旋制限を招く。その結果、外転に必要な肩の外転可動域が制限される。

4)さらに小胸筋、烏口腕筋、腕神経叢、大胸筋(上腕二頭筋短頭と長頭の間で)とも癒着してさらに頑固な肩の可動域制限をもたらす。

 

以上のように、広背筋という強大な筋はたくさんの筋と癒着を作り、肩の機能を著しく低下させます。広背筋という一つの筋を癒着から解放できるようになるだけでも、肩の治療は大きく変わるはずです。ISR(組織間リリース®)を習得して、ぜひ取り組んでみてください。

 

4. ISR(組織間リリース®)セミナー2018

 関節疾患が思うように治らないとき、関節拘縮やその原因である組織間の滑走不全が障壁となっていることが少なくありません。組織間リリース®またはISR®(=Inter-Structural Release)とは、長期間の「拘縮」や「可動域制限」に対しても、確実に可動性を回復させるための徒手療法技術です。2016年度から開催しているISRセミナーを「初級編」と位置づけ、2018年度から「中級編」を開催します。中級編では、股関節包の癒着を含め、深層のリリースの完成度を高めることを目標とします。

▼ ISR(組織間リリース®)セミナー2018

http://www.glabshop.com/isr2018/

▼ ISR(組織間リリース®)イントロダクションセミナー in帯広

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5. CSPT2018 クリニカルスポーツ理学療法セミナー

 CSPTを受講することで、関節疾患の治療を進める上での「治療の設計図」と、その設計図を進めるための「技術」を学ぶことができます。「治療の設計図」とは各関節の治療の考え方や進め方、つまり治療理論を学ぶことができます。治療理論を学ぶということは、治療技術を最大限に活かすことにつながります。設計図を進めるための「技術」では、組織の癒着に対して組織間リリース、筋機能低下に対して運動療法、不安定性や解剖学的因子に対して補装具療法を、実技を含め学ぶことができます。

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