前回は、計画的偶発性理論に基づいたキャリア形成と、マネジャーというキャリアがなぜ今求められているのかについて触れました。今回は、理学療法士として臨床業務に従事する仕事(プレイヤー)と、リハビリ部門のマネジャーとして『他者を介して成果を出す』仕事との違いについて掘り下げたいと思います。
◆臨床とマネジメント、どちらが重要?
理学療法士は技術専門職です。自らの腕一本でclientの動作を改善したり、生活を豊かなものにする支援をしています。他者に直接貢献することで、感謝されたり喜ばれたりする機会にあふれている幸せな仕事です。
そんな臨床現場には、数多くのやりがいや、貢献欲求を満たす機会で満ち溢れています。そして、自分の知識や技術が高まれば高まるほど貢献できる機会も増え、やりがいも増していきます。
だからこそ、マネジャーとなった際に、多くの理学療法士は臨床現場から離れることに不安や葛藤を覚えます。
実際、
「現場から離れると腕が落ちないか?」
「臨床をやらない管理職にはなりたくない」
といった声もよく聞かれます。かくいう私もそう思っていました。
しかし冷静に考えてみると、マネジャーの仕事と臨床業務に従事する理学療法士(ここではプレイヤーと表現します)の仕事とは、大きく異なるように思います。
野球チームの選手(プレイヤー)と監督(マネジャー)とでは、その役割や仕事内容が異なるのと一緒です。
リハビリテーション領域では、臨床現場で求められるスキルがマネジメントスキルよりも重要だと認識される風潮があるように感じています。まず大前提として、マネジャーの仕事とプレイヤーの仕事は全く異なる役割であり、求められるスキルも異なるということをしっかり認識することが重要です。
そして、役割が異なるわけですから「どちらが重要か?」という不毛な議論をするのではなく「どちらも重要」であることを共有しておきたいと思います。
◆求められるスキルの違い
マネジメントという言葉を本連載では「他者を介して成果を出すこと」と定義しました。この表現と対比すると、プレイヤーの仕事は、「自分で直接成果を出すこと」となります。
では、求められるスキルはどのように異なるのでしょうか?
古典的な理論ではありますが、現在でも多く用いられている「カッツモデル」を参考に考えてみましょう。
カッツモデルでは、以下の3つのスキルが必要とされています。
①テクニカルスキル(業務遂行能力)
②ヒューマンスキル(対人関係能力)
③コンセプチュアルスキル(概念化能力)
そして、プレイヤーとマネジャーとでは、役割の違いから求められるスキル①~③のバランスが異なると言われています。図にするとこのようなイメージです。
①テクニカルスキル
テクニカル=技術 と連想しがちですが、ここで言うテクニカルスキルとは、いわゆる理学療法士としての専門知識や技術を中心とした全般的な業務遂行能力です。
理学療法の専門書を読んだり、技術系セミナーや各種手技の講習会などに参加して自己研鑽している理学療法士の方々は非常に多いのではないでしょうか。
プレイヤーとして直接成果を出すためのスキルとして、イメージしやすいスキルです。
②ヒューマンスキル
プレイヤーとしての理学療法士は人と直接関わる仕事ですから、対人関係能力の重要性もまた理解しやすいかと思います。患者さんやその家族との関係性、他職種との関係性を良好に保ち、コミュニケーションを図りながら成果を出すことが臨床現場では求められます。
また、マネジャーの仕事は後輩や同僚、時には上司を含めた組織全体に動いてもらうことが求められます。マネジャーにとってのヒューマンスキルの重要性もまた理解しやすいかと思います。
このスキルは、プレイヤー・マネジャー共に同等程度のバランスで必要となるスキルです。
③コンセプチュアルスキル
3つのうち最もイメージしにくいスキルかと思いますので、詳しく見ていきましょう。日本語では「概念化能力」と訳されますが、私自身は「課題解決力」と捉えています。
マネジャーの仕事は、限られた情報しか無い中で正解の無い問いに対して決断を迫られ、その結果責任を問われます。このような仕事(課題)の難易度と結果責任の重さに対して、管理職手当などが別途支給されているわけです。
(決して、夜遅くまで残業して雑務をこなすことに対して手当てが出ているわけではありません。笑)
複雑な事象を扱うことが多いマネジャーは、物事を多角的に捉えて分析し、課題を特定し解決へと導くことが求められます。このスキルは、マネジメントの仕事が増えるにしたがって重要性が増すスキルです。
【参考文献】
Robert L.Katz:「Skills of an Effective Administrator」 Harvard Business Review