最終回:臨床実習の改革【茨城県立医療大学 教授|理学療法士 大橋ゆかり先生】

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学校と実習でやるべきことの違い

 

―実際、何がどのように実習は変わったんでしょうか?

 

大橋先生:私が学生であった頃は、レポートを通してバイザーとやりとりするというのは本質的ではありませんでした。実習では平均4人くらいを担当して、オンザジョブトレーニング(OJT)*が主体でした。

 

ただ、理学療法士の人数も増えてきて、「今まで通りの教育で良いのか?」という時代に移り変わっていきました。それに伴い、レポートの書き方や課題をレポートとする所も出てきました。この点に関して、ちょっと間違った方向にいってしまったのではないかという見解をもっています。このような課題や研究は、本来学校でするべき課題です。つまり、現場でやるべきものではないと思っています。

 

そもそもレポートというのは、ひとりの教員が40〜50人の学生を、一人一人相手に出来ないため、書いてきてもらうというものです。臨床実習ではほとんどマンツーマンですから、直接話しをしてもらいたいなと思いますね。

 

本学では、スーパーバイザー会議の時に「本校の付属病院ではこのように実習しています」というビデオを見ていただいています。「実習では、学生と一緒に患者さんを触るようにしてください」というお願いもしています。ただ、指導者も職場に帰ると職場の色に染まってしまうようで、それがなかなか浸透していません。

 

*OJT:通常の職場において、上司や先輩が部下や後輩に対して、具体的な仕事を与えます。その仕事の経験を通して、必要なスキル、例えば知識や技術、職業人としての態度を含むスキルを意図的かつ計画的に指導する方法を言います。これを実習に応用し、学生に対しても担当をつけ、その経験から理学療法士のスキルを磨くための教育方法。

 

―症例報告書とかはどうされているんでしょうか?

 

大橋先生:症例報告書は書かせています。それは、学校で指導するようにしています。臨床では臨床で学べることを学んでもらえるようにしています。臨床で学んで来たことをまとめたものが症例報告書になりますから、症例報告書の書き方、考え方は教員でも指導出来ることですので、現場ではその材料を作ってほしいという感じですね。

 

―それでは、レポートは実習先では全然指導しないんでしょうか?

 

大橋先生:「見なくてもいいですよ」という感じです。「なるべく見ないでください」と、お願いしています。

 

―そのような方針は最近はじまったのでしょうか?

 

大橋先生:確か、このようにお願いするようになったのは7期生の頃からだったと思います。ただ、その時に賛同してやってくれた病院は2割くらいでした。最初は付属病院でも、中々大学の意図が伝わらなかったですね。

 

ですから、付属病院の方には申し訳なかったのですが、その年にスーパーバイザーをすることが決まっている理学療法士を集めて、私が講義をしたことがあります。それから、付属病院の、実習のスタイルは大きく変わりました。職場の半数が理解するとさすがに浸透するものです。

 

―こういうスタイルで実習をするようになると、実習先の確保が難しくなってくると思うのですが、そうなると学校は潰れていくのでしょうか?

 

大橋先生:今度から、実習指導者の条件が難しくなっていくようですね。研修行ってまで臨床実習を指導したい先生がどれほどいるのかが疑問です。そこを心配していて、そうなってくると、実習をお断りされるかもしれません。

 

臨床実習指導者が減ると結局は理学療法士が困るんですよね。新卒が全然出てこなくなりますから。これから、そういう時期があるかもしれないですけどね。2020年までに、臨床実習指導者が2万人いないと学生が実習出来なくなると言われています。それだけの人を育成するための講習の回数を確保することが一番困難かもしれません。

 

 

理学療法をリスペクトしてほしい

 

―先生は大学院に、行くことはお勧めしますか?

 

大橋先生:アメリカはもう、DPTですよね。ただ、理学療法士の仕事が日本と全然違うので、直接比べることは出来ないと思います。ただ、徐々に高学歴化していくのは避けられないでしょう。

 

大学院の教員をしていると、学部とは全然違う面白さがあります。院生は色々と経験した上で学びにくるので、話も通じやすく学びも深いです。是非、やる気のある人はトライしてほしいですね。

 

― 今の理学療法士に期待することはありますか?

 

大橋先生:私は、自分の定年退職が目に見えている段階なので、自分が辞めた後の理学療法の世界がどうなってほしい、というような事は言わないつもりです。要は、現役の人達が、大事に思っていることをやっていってもらったらそれでいいと思っています。

 

最初に戻りますけど、私が理学療法士に魅力を感じたきっかけが「医師には出来ないことが理学療法士には出来るんだ」ということでした。専門職ってそうだと思うんですけど、他の職種には出来ないことをやるのが専門職だと思うんです。

 

だから、若い理学療法士の皆さんには、自分のやっていることにプライドを持ってやってほしいです。「他のどの領域とも違うんだ」と理学療法をリスペクトしてほしいのです。それだけです。

 

 

―最後に大橋先生にとってプロフェショナルとは?

 

大橋先生:仕事に誇りを持ってやれることです。

 

ー完ー

 

【目次】

第一回:医師には出来ない仕事

第二回:運動学習研究のはじまり

最終回:臨床実習の改革

 

大橋先生オススメ書籍

 

レベル7(セブン) (新潮文庫)
Posted with Amakuri at 2018.8.1
宮部 みゆき
新潮社

 

大橋ゆかり先生のプロフィール

経歴
1986年 - 1995年 東京都立医療技術短期大学 助手
1995年 - 2000年 茨城県立医療大学 講師
2000年 - 2001年 茨城県立医療大学 助教授
2002年 -      茨城県立医療大学教授

学歴
 - 1995年 学習院大学 人文科学研究科 心理学
 - 1978年 学習院大学 文学部 哲学科

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