脊髄損傷により、自立歩行が不可能となり、一生車椅子と宣告されていた男性が、5ヶ月で1㎞先まで歩けるようになったという。
▶ Three people with spinal-cord injuries regain control of their leg muscles
スイス連邦工科大学ローザンヌ校などの研究チームにより行われ、英科学誌ネイチャー(Nature)に10月末に発表された。
実験では、患者の脊髄に電極を埋め込み、標的化EES(硬膜外電気刺激)を無線通信でリアルタイムに刺激。患者が動かしたいと意図したタイミングで電気信号が送られるように、電気刺激を与える場所と時間を厳密に定めた結果、それぞれの筋肉群に最適な刺激のパターンが突き止められた。そのパターンを使い、脊髄を損傷して4年以上経過した、下肢の部分麻痺または完全麻痺の3人の男性患者に、電気刺激を行いながらトレッドミル上で歩行訓練をした。その結果、数日後には、歩幅や足を上げることが可能となり、また、補助用具を使用しながら室内歩行が可能となった。5ヶ月目には、歩行器で2時間、1㎞歩行することが可能になっている。
また、同じく5ヶ月目には、すべての患者で標的化EESを使用しなくても短距離歩行が可能となり、随意的な下肢の運動も回復した様子が見られている。この以前にも同様の研究がされていて、補助を受けながら約100メートル歩くことができたと報告されているが、神経伝達の方法や理論などはっきりとした全容が判明していなかった。
今回の研究では、神経伝達のタイミングを計測データやコンピューターシミュレーションなどを活用して明確に作り出した。それを用いることで、歩行の際に生じる脳の電気信号を忠実に再現でき、1㎞という長距離歩行や電気刺激を使用しなくても歩けるような神経の回復に繋がったと考えられる。
この研究チームは、他にも早期の脊髄損傷に対しても研究を行っている。麻痺の初期段階では、筋の萎縮もない為、成功すれば高い回復率が見込めると期待がかかっている。
脊髄損傷による麻痺に対して、すぐに限界を見てしまいがちだが、今回のような研究が増え、脊髄損傷も当たり前に治る時代がやってくるのだろうか。