骨盤底筋の評価とトレーニング

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出産に関連する疾患や愁訴に関心を持つと、骨盤底筋に関する情報を多く入手することになります。その中で「ウーマンズヘルス=骨盤底筋治療」のような図式ができつつあるようにも感じます。

しかし、出産後の仙腸関節痛や恥骨結合周囲の痛みに対して、骨盤底筋の触診を行う必要性は感じませんし、行ったこともありません。不安定性やマルアライメントを正確に理解し、骨盤輪全体をきちんと整えることが優先されます。また出産したから骨盤が弛いと思い、痛みの軽快を諦める必要もないのです。

 

■ 産後の仙腸関節痛と骨盤底筋の機能不全の関係

 

骨盤の痛みの治療において骨盤底筋のことを重視しない理由は、仙腸関節痛の原因因子あるいは結果因子のいずれにも骨盤底筋の機能不全が含まれない症例のほうが圧倒的に多いことが挙げられます。仙腸関節痛の治療において、骨盤底筋の機能低下を原因因子に含めることが少なく、ましてや結果因子に位置づけることもありません。一方、尾骨周囲の癒着が、仙骨の前傾(nutation)を妨げる場合があり、これは仙腸関節障害の原因因子と位置づけられます。これは内閉鎖筋や大殿筋、陰部神経、肛門挙筋などの癒着が原因で生じるもので、主に腹臥位での尾骨周囲の治療が必要となります。

 

仙腸関節痛とは無関係に尾骨周囲および肛門挙筋に異常が生じることがあります。骨盤底筋の収縮時痛や尾骨部痛があれば、腹臥位で尾骨周囲のリリースを行うことがあります。仙骨のアライメントに影響しない病態であれば、仙腸関節痛の治療とは切り離して対応を考えます。

 

■ 産後の骨盤の弛みと歪み

 

産後に骨盤がどの程度弛むのか、またどの程度の歪みが生じるのかは解明されていません。体表からノギスや定規で測ったデータを見かけますが、骨盤運動の小ささを考えると、正確性としては不十分と言わざるを得ません。私達は、MRIから3次元モデルを作り、産後2週間から3ヶ月にかけて、骨盤アライメントにどのような変化が生じるのかを調べる研究と、東京と広島で行っています。もしもこの研究に被検者となっていただける方がおられましたら、出産予定日の2-3週間前までにご連絡ください(info@realine.info)。

 

実際に、産後1ヶ月以内の骨盤アライメントを見ると、上後腸骨棘間距離(PSIS間距離)や寛骨の水平面、矢状面、前額面のアライメント、仙骨の傾斜などにおいて、産後ではない方の骨盤と大きな相違を見出すことはできません。もちろん、完璧と言えるような状態ではありませんが、男性も含めて仙腸関節痛を起こしやすいアライメントになりやすいのは間違いありません。出産直後の可動性が大きいと思われる時期(おそらく2週間以内)において、どこまで理想に近い骨盤に誘導するかがその後の慢性化予防のカギを握ると思われます。これについては、もう少し研究データが溜まったら詳しく説明したいと思います。

 

■ 産後の仙腸関節痛の治療

 

産後であれ、妊娠中であれ、あるいは非妊娠者であれ、仙腸関節前方の関節面や後方の骨間靱帯にストレスを及ぼす理由は共通していると言えます。したがって、正確なアライメント評価とそれを引き起こしている原因因子の特定がたいへん重要になります。すなわち、仙腸関節痛に対して、原因因子は仙腸関節の離開をもたらすようなアライメント変化を引き起こす要素を特定し、さらにその原因因子として癒着や筋機能低下を同定します。

 

寛骨上部を外側に引く外転筋群の癒着は前額面上の寛骨下方回旋を引き起こします。寛骨前部を内側に引く組織の癒着は水平面上の寛骨内旋を引き起こします。さらに、鼡径部や殿部の非対称的な癒着は矢状面上の寛骨前後傾を引き起こします。いずれもPSIS間距離を増大させることから、これを測定するのがまずは簡便といえます。さらに、これらのアライメントパターンと原因因子は混在することもあり、正確な評価にはある程度のトレーニングと経験が必要となります。

 

骨盤底筋は、尾骨を前方に引く作用とともに、坐骨を内側に引き込む作用があります。前者は仙骨の後傾(counter nutation)を導き、後者は仙腸関節上部の離開を招きます。つまり骨盤底筋の単独収縮は、仙腸関節の安定性に対してはマイナス要素になります

 

このことはリアライン・コンセプトの設計図において、リアラインが完了し、痛みが消失した上で、スタビライズを行うことに一致します。つまりスタビライズとして骨盤底筋の機能回復は必要ですが、リアラインの過程では不要ということになります。

 

■ 腹腔内圧についての誤解

 

一方で、咳やくしゃみ、重量物の挙上、対人コンタクトなどで腹腔内圧の上昇が必要となり、その際には骨盤底に圧が逃げないように骨盤底筋の活動が重要となります。産後には、あかちゃんの抱っこというリフティング動作を繰り返すことにるため、その際の姿勢の作り方や腹腔内圧のコントロールついて、一定の知識を啓蒙する必要性があると考えています。腹腔内圧の上昇を得るためには、予め理想的な骨盤アライメントが取り戻され、仙腸関節の安定性が確保されていることが優先されるべきです。

 

腹腔内圧については、その性質を正しく理解している専門家が極めて少ないのが現状です。腹腔内圧は呼吸を止めることによって上昇させることができます。急激な速い呼気の直後に呼気を止めると自然に腹腔内圧は上昇します。「せーの」と掛け声をかけるとき、「の」は短く止めるのが普通です。これを「のー」と伸ばしてしまうと、良いタイミングで腹腔内圧は上昇しないのです。呼吸との関連性が強いのに対し、腹腔内圧の数値は姿勢や腹筋の緊張ともほぼ無関係です。

 

■ まとめ

 

ウィメンズヘルスについての勉強会の内容をみると、やや骨盤底筋偏重ではないかと思うような情報の偏りがあるように感じす。もちろん、泌尿器科的問題や婦人科的問題に対して骨盤底の機能回復は必要であることを否定するものではありません。それを理解した上で、仙骨後傾や寛骨下方回旋と逝った骨盤アライメントを崩すような骨盤底筋のトレーニングを安易に行うべきではなく、予め骨盤輪全体のリアラインが終了し、その上で骨盤底筋をターゲットとしたスタビライズトレーニングを行うべき、というのが私の主張です。

 

■ 筆者・セミナーご紹介

筆者:蒲田和芳

・広島国際大学総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 教授

・株式会社GLAB(ジーラボ) 代表取締役

・一般社団法人日本健康予防医学会 副理事長

・株式会社リベラシオン 代表取締役

 

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