第五回:開業権の話をしよう【半田一登先生】

  • Line
  • Hatena
4815 posts

前回の続き

開業権という言葉の意味を知れ

ー 言葉という点で、半田会長へのインタビュー前にPOSTアカデミア会員の方から、会長への質問を募集しましたところ、“開業権”についての質問がありました。正直、まだ会長がおっしゃられている言葉が伝わっていないように思いますので、この点についてお話しいただけますでしょうか?

半田会長:まずは開業権の定義の理解が重要です。私は「公的保険下において医師の指示なしにダイレクトアクセスして、公的保険を請求できる立場」というのを開業権としています。

 

それが現実的に可能か、という点において医療・介護保険の予算が急増している中で、これを認めてもらうにはハードルが高すぎます。また、その責任においても個人で対応できるのか?という大きく二つの点で、実用可能かという点を理解する必要があります。

 

今、開業権を認めたとして個人の責任の中で、全ての責任をその個人が負うというのは非常に難しいことです。また、その責任が負えるほど知識技術が十分なあるのか否か、という点も重要です。

 

もし、やるのであれば、アメリカやカナダなどの教育同様6年間教育とすれば、可能性は出てきます。現在の3年間の専門学校教育を主体とした日本の状況からすると、難しいわけです。

 

開業権という言葉にこだわるより、1次予防の部分に力を入れるべきではないかと思うわけです。今、介護保険であっても“終わりをはっきりしてほしい”ということが言われはじめています。ともなれば、それを受けられなくなった対象者さんをどう救うのか、という点を考えるべきです。

 

リハビリテーションが終わった後の“ポスト”リハビリテーションという分野は、これから非常に大事な分野で、どちらかといえば地域の分野になっていきます。

 

歩行のトレーニングで、転倒予防などによるケガを予防する。有酸素運動で、脳梗塞になってしまう要因の一つである生活習慣病を予防する。何も問題がないわけです。

 

でも、これは「開業権」とは言わないのです。この分野は今後、ものすごく大きな市場となるわけです。そこに対して、理学療法士がどのように関わるのかということをみんなで考えた方がいいと思います。

 

もう一つ知っておいてほしいことが、現在開業権を認められているのは“医療類似行為”を行う、柔整、鍼灸、あん摩マッサージ指圧師さんです。歴史を辿れば、我々理学療法士が誕生する以前は、これらの職種の人たちが医療機関にいました。

 

理学療法士誕生後、この方々は医療現場から離れ、医療類似行為を行う職種として開業している方が多いのです。一方で、我々理学療法士は医療従事者です。理学療法士が誕生したことにより、医療従事者と医療類似行為者との間にキレイな線引きが行われたのです。

 

ですから、医療従事者からみたら医療類似行為者は良くみえて、医療類似行為者からみたら医療従事者が良くみえるという、ある意味では“隣の芝生が青くみえている”状態なのです。では、この線引きをやめますか?ということです。どちらがいいですか?

 

理学療法士は、この分野でガッチリ

ー 医療機関に勤めている9割近くの会員は、今のように医療で守られている方がありがたいですよね。

半田会長:もし、病院がイヤだというなら、理学療法士が“起業”する方法は色々とあるわけです。今であれば、度胸とお金があれば“シルバージム”のようなものをやったらいいと思います。

 

ー 私が今、シルバージムの運営をはじめました。

半田会長:それをどう広めるかという時に、理学療法士が担当すれば痛みがあっても個別メニューを組んで痛みを抑えながらできる運動が提供できます。ところが一般的なジムは、痛みがあったら対応できません。

 

私も、ジムに通ったことがあるんですけど、年取ってくると楽しくないんですよ。こっちはヨチヨチ、トレッドミルで歩いていると、隣で若い人がガーッと走っているわけです。なんか「あかんな」と思ってしまうんですよね。全然楽しくないわけです。

 

一方で、介護事業所が栄えているのは、同じような運動能力を持った方がたくさん集まっていますから、そこに行くだけでも楽しいんですよね。運動効果も大事ですが、そのコミュニティに参加するということが重要なわけです。

 

ー 何で皆さんやらないんですかね?

半田会長:視野が狭いと思います。実際にある地域で面白い取り組みをしている理学療法士がいます。若い女性が運営しているのですが、朝10時くらいにジムの前をタクシーで通りかかったら、男性のお年寄が行列を作っていたんです。

 

知り合いに聞いたら、「若い女性が運営しているジムです」と聞いて、「そりゃ来るよな」と。

 

動機はともあれ、どの様にしてやる気を起こさせるか。これは極めて重要なことです。その逆も然りで、その本質をついた仕事を考えなければ、運営はうまくいかないんです。

 

男性のお年寄りをジムで運動させるのは、女性のお年寄りよりも難しいんですね。ですから、仕組みでそこをカバーすれば男性も運動する場に来るんです。

 

この前も、ある医師と意見のぶつかり合いをしてきましたが、「地域包括ケアで、理学療法士が体操のお兄さんみたいになっていませんか?」と、医師に言われました。もちろん内容も重要ですが、「そこに参加する人をどう増やすかが重要なんです」と、返しておきました。

 

1週間に一度、ちょっと体操したくらいでは、身体能力が変わるわけではありません。それよりも、その場に行くと友人ができたりおしゃべりできたり、参加することによるメリットもあるのです。

 

私も昔、九州労災病院にいた頃、業務後理学療法室を高齢者に開放して、運動をやってもらっていたことがありました。理学療法室は広いですしトレッドミルの機器も充実して、理学療法士も沢山いましたからね。

 

3ヶ月に一度、血液検査と身体の評価をしてメニューを作り直していました。同じ運動だと飽きますからね。

 

それからドンドン人が増えてきたので、参加者の中から数名リーダーを作って、グループ化しました。お休みが続いたら、グループの仲間が連絡して「どうしたの?」と声をかける。

 

そうすることで、仲間意識が芽生えますから、継続率が高くなるわけです。1年に1日は、“身体に悪いことをする日”と称して、飲み会を開いたりもしました。一年中健康のことを考えると疲れてしまいますから、そういった取り組みも重要になります。

 

— 理学療法士が増えている一方で、介護士不足が叫ばれています。理学療法士が介護士になればいいという意見もありますが、会長のお考えをお聞かせください。

半田会長:私は…

続くー。

 

【目次】

第一回:PT養成校に入学するに至った不純な動機

第二回:聖域なき構造改革

第三回:理学療法士になって良かったとつくづく思う

第四回:世界の中心で理学療法と叫ぶ

第五回:開業権の話をしよう

第六回:PTが介護士になれば介護士不足は解消する?

第七回:競争社会を作る

第八回:理学療法士ライセンスの希少性

第九回:会員を守るために“戦える集団”をつくる

最終回:リハビリテーションの概念改革

 

半田一登会長のプロフィール

1971年、九州リハビリテーション大学校卒業 後、労働福祉事業団(現・独立行政法人労働者健康福祉機構)九州労災病院に入職。

1987年、社団法人日本理学療法士協会理事に就任し、2007 年より同協会会長を務める。  

日本健康会議 実行委員、チーム医療推進協議会 代表、一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団 理事長 等 

  • Line
  • Hatena
第五回:開業権の話をしよう【半田一登先生】
マイナビ
Shosekipc
280841.line

企業おすすめ特集

編集部オススメ記事

Bnr 01