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脳科学者が実際に脳卒中を経験して感じたこと

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神秘的でそれは美しいものだった

■ジルボルトテイラーは、ハーバード精神医学部のフランシーヌ・ベーネ博士の研究室で働いていました。研究テーマは、「正常な人の脳は、総合失調症や総合失調性感情障害や双極性障害の人たちの脳と比べて、生物学的に何が違うのか」でした。

■1996年12月10日の朝、目が覚めるとテイラーは自らの脳に異変が起きたのに気づきます。その後の4時間、脳がすべての情報を処理する能力が、完全に退化していくのを発発見しました。

そう、左脳の脳梗塞を発症したのです。

■その時の痛みは、アイスクリームを噛んだときに感じる類のキリキリする痛みと例えています。いつものように有酸素運動装置に乗ると、自分の手が、原始人の爪がしっかりバーをつかんでいるように見え、「なにかおかしいぞ」と思い体を見下ろすと、「奇妙なものになっている」と思い、それはまるで、意識がマシンで運動している私の正常な現状認識から離れて、どこか神秘的な空間に移動し、運動している自分を見ているようであったと話します。

■テイラーは自分の体の境界が分からなくなっているのに気がつきます。自分がどこから始まってどこで終わっているのか分からない。自分の腕の原子や分子が、壁の原子や分子と混じりあい、それで自分が巨大になり広がっていくのを感じます。

すべてのエネルギーと一体になっているのを感じそれは美しいものだったと話します。

■あなたと外界に結び付けている脳の働き、そこから完全に切り離されたら、どんな風になるの想像できますか?この空間の中で、自分自身や仕事からのストレス、それがみんな無くなったとテイラーは言っています。「想像して御覧なさい、37年間の感情が詰まった荷物を失ったらどんな気持ちになるか。私は恍惚感に満たされていました。その恍惚感は美しいものでした・・・」と。

■そうしているうちに、右腕は完全に麻痺し傍から動かなくなりました。「そうだ、脳卒中だ、脳卒中になったのだ」つぎの瞬間、脳が私にささやく。

「わあ、これは素晴らしい、素晴らしい、脳科学者が自分の脳を内側から研究できるなんてめったにないことだ」

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ゴールデン・リトリーバーみたい

■助けを呼ぼうとして、職場に電話しようとしました。しかし職場の電話番号を思い出せませんでした。名刺の束を取り出しますが、自分の名刺がどんな形をしているか心でははっきり見えるのだが、どれが自分の名刺か分かりません。

なぜなら見えるもの全部が画素(ピクセル)に見えるのです。

文字の画素が背景や記号の画素と混じりあい、識別することができず、鮮明さの波が戻ってくるまで待たなければなりませんでした。結局、自分の名刺を探し出すのに45分もかかってしまいます。

■この45分が経つうちに、左脳の出血は大きくなっていました。ダイヤルを回しても、途中で忘れてしまいますが、なんとか電話をかけることができました。同僚が電話をとって応対したのだが、彼はこう言ったのである。「うおおお、うおおお、うおおお、うおおお」

「あらまあ、ゴールデン・リトリーバーみたいだ」。

そしてテイラーは、同僚に「ジルよ、助けて」と言うのですが、出てきた声は「うおおお、うおおお、うおおお、うおおお」テイラーは思いました。

「あらまあ、私はゴールデン・リトリーバーみたいだ」

そのようにやってみるまで、自分が言葉を話せない・理解できないということを知らなかったのです。

■同僚は、助けを必要としていると知り手配してくれました。すぐに救急車で、ある病院からボストン市街を抜けて、 マサチュウセッツ州総合病院へ向かいました。その日の午後おそく目が覚め、テイラーはまだ自分が生きているのを知ってショックを受けました。感覚器官を通じて入ってくる刺激は純粋な痛みでした。光は野火のように私の脳を焼き、音はけたたましくまた支離滅裂で、 背景の騒音で声が聞き取れませんでした、私は逃げ出したかった。

■しかし、テイラーは気が付きました。「私はまだ生きている、まだ生きている。そして私は涅槃(ニルヴァーナ)を発見したのだ。 もし私が涅槃(ニルヴァーナ)を発見してそして生きているのなら、生きている誰もが涅槃(ニルヴァーナ)を発見できるはずだ。 私は、世界が、いつでもこの空間に来ることができると知っている人たち、美しく平和で優しく愛情に満ちた人々で溢れている。 そういう世界を思い描いている。」

■脳出血の二週間半後に、外科医たちが入ってきて、言語中枢を圧迫していたゴルフボール大の血の塊をとり除いてくれました。完全に回復するのに八年かかりました。

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参考書籍・動画

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫) 


動画:ジル・ボルト・テイラー「脳卒中体験を語る」

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キーワード:♯脳 ♯中枢 ♯理学療法 ♯書籍
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