シャドウボクシング中に音が消えた
ーー 小林さんが脳梗塞になるまでを教えてください。
小林純也先生(以下:小林) ほんと若い時はけっこうぷらぷらしてたんですよ。高校卒業して同級生に誘われて芸人ちょっとやってみようかなって。当時学校でも後夜祭とかで漫才していたので。3年くらいやって相方が就活で内定もらってやめたんですけど。次はセールスの仕事の職場の途中にキックボクサーが行っているボクシングジムがあって。もともと格闘技は好きでよく見に行ってたんで、そこに入ったんですけど。1か月半くらいで「テストを受けろ」って言われるくらいやってました。
ーー 脳卒中になったのはいつ?
小林 シャドウボクシングっていう一人でやるボクシングがあるんですけど、その最中にいきなり右の身体が沈みだして、音が消えたんです。で、音が消えて「やばいやばい」ってなったんですけど右半身が動かなかったんです。
どうにかリングの外に出て水を飲もうとした瞬間に意識が消えた。昔のアニメによくある登場人物が周り全部消えて、丸だけになってって感じあるじゃないですか、そんな感じ。一回、ちょっと覚ましたんですけど、会長にたたかれて。でも目も見えないし。ぼやけてて。次に目を覚ました瞬間は病院のベッドの中でした。
ーー どこに障害がでたんですか?
小林 当時の脳画像を見せたほうがPT同士なので分かりやすいかと思うので.. 、こんな感じです。
ーー 内包はあまりかぶっていなさそうですが、運動障害や感覚麻痺の程度は?
小林 運動麻痺はあんまりないとか言うじゃないですか。けど正常ではないんですよね。だから動きも拙劣だし、一番残っているのは外側腹側核(VL核)絡みで失調症状が。指鼻指とか顕著にみられますよ。だからこれ(コップ)も持てないんですよ。
今は左手で生活しています。だから、リハビリしてて患者さんの歩行介助とかすごい怖いですよ!非麻痺側は隅々まで繋がっている感じがするけれど、こっちは点と点をつないでいる、モーションキャプチャーみたいな感じで動かしている感覚がします。
脳卒中を経験したセラピストからのメッセージ
ーー 脳卒中の当事者として、セラピストに知っておいてもらいたいことってありますか?
小林 まずは、最低限の知識だと思います。治療的な知識、解剖運動生理とかは必須だと思うんですけど、そのベースに人間力が足りない人が多い。
ーー 人間力...
小林 患者との会話で、言葉って大切じゃないですか。その言語をどんな想像で使っているのかなっていうのはすごく疑問に思うことがあります。
自分の好きなテレビ番組がどうだとか、その患者さんの気持ちを紛らわせるとかそうゆう目的で使っているならいいですけど、ただその隙間を埋めるっていう意図での言語だったらなにやっているのかなと思います。そうゆう人はやっぱ多いと思うんですよね。言語享受で反応も変わるじゃないですか。
ーー 言葉の選択って大事ですし、難しい。
小林 僕は患者経験をしていた時に感じたんですが、その患者さんの主観的な感覚をどう引き出すかっていう。ここは足りないというか、もっとやってもいいんじゃないかなと思います。
リハビリ職種で、自分の提供するメニューやらせて、はいおしまい、みたいな人多いじゃないですか。物足りない感ありますよね。だからコミュニケーション力が大事。患者さんがどうやったら表出できるのかという。
ーー 小林さん自身も失語症があったんですよね?
小林 ありました。運動性です。言っていることは理解できるけど、ほんと変換できない感じ。ほんとにそのままです。
ただ出ないとかじゃなくて、言っていることは入ってくるけれど、頭の中でごちゃごちゃになってそこから上手い言葉が言えない。発語はできるけれど適切な単語を選択できない。それは描写も一緒でした。
んーって、頭の中がもやもやしている感じ。それでも書こうとするとイライラする。それは当たり前だなと。脳の回路的にオーバーワークだったなと。その現象をもっととらえられる人が増えるともっと面白いんだろうなと。
自分もその実体験をまだ活かしきれていないところも多いので、それをもっと言語的に自分で説明できるくらいになれればたぶんもっと変わるんだろうなと思います。
ーー 失語症の実感ってそんな感じなんですね!
小林 やっぱりだから患者さんの主観は聞いた方がいいですよ!
「今どう?」とかどうって言われても何がどうかわからないし、膝曲げてとか言うけど膝がどこかわからないし。そうゆうのじゃなくて、「どうゆう風に今感じているか」 もっと引き出せるといいんじゃないかなと。
それをすると患者さんももっと考えると思うんですよ、自分の身体について。
それがないとただ提供されたものをやって退院してまた戻っちゃうじゃないですか。自分の中で能動的に考えて、この時はこうだなとか分かってくる仕組みを作っていければ退院後も何かすると思うんですよね。
小林純也先生の「人間力」に直接触れる。少人数の座談会はこちら↓
【8/25】ワタシ(理学療法士)も障害もってますー当事者対談ー
脳卒中になってよかった
ーー 小林さんは脳卒中の友の会にも参加されていると聞きましたが?
小林 セラピストになってから入ったんですけど、入ったらまあ一番若くて40代後半。最初自分が入ったときはその方もいなかったので、ほんと70歳以降の人たちでバリバリ片麻痺の人たちでした。
当時のリハとかきっとめちゃくちゃじゃないですか。会長が70歳代後半でがっつり左麻痺なんですけど。ほんとウェルニッケマンみたいな。ぶん回して棒のように足動かして。でも自立なんですよね。5年間くらい要介護5の奥様の介護を自分でしていたらしいです。できるのかって思いました。あの能力はすごいなって。
ーー 要介護5の奥様を・・
小林先生 友の会の人たちが持っている経験をもっとリハに還元できたら面白いと思います。やっぱすごいし、でもすごい反面あまり身体のことを知らないことも多い。ひたすら頑張るリハを受けてきた世代なので。
もうちょっと楽に動かせるとか感じれるようになるんだよというのをこちらから提供したいなーって。会長はうそ全くなしで、脳卒中になってよかったっていうんですよ。
自分は全然思わないけど。彼はめちゃめちゃ笑うし、あの明るさは他の患者さんとケアカウンセラーみたいな感じで提供できるともっと救われる人はいるんだろうなと。
ーー 小林さん自身も脳卒中相談室を運営してるとか?
小林 あれはかっこよく言うとケアカウンセリングです。単純に脳卒中患者さんが疑問に思ったことを何でもいいので、自分に投げかけてそれに対して自分なりの答えを出す。それはもちろん治療的な側面でもいいし、どう考えているかでもいいし。
ーー 脳卒中を体験したセラピストだからこそできることですね。
小林 体験したから主観でわかるのが強みですよね。この時どう思ってたっていう自分の感情があるじゃないですか。それと照らし合わせてアドバイスができる。
回復限度なんてない。
ーー 小林さんが脳卒中を経験して感じたことって何ですか?
小林 自分の場合、最初リハを受けた印象イマイチだったんですよね。ぶん回し歩行だし、右手も動かなかったしスウィング出ないし。
信号が点滅すると止まっちゃうし、階段降りるのも手すりないと怖いしって感じでロッキングもあるし。入院中のリハドクターに「まだ右腕がよくならないんですよ」って言ったら、「6ヶ月の中だから回復限度かな」と言われたんです。
「そんなこと知らないから!なんだ回復限度ってそんなわけあるか!!」と思った。それで、そのあと自分で探して行った施設でリハビリしたらよくなったんです。ぶん回しだったのが、今は走れるようにもなりました。
脳卒中は6か月経ったらプラトーになっちゃうよって言われているけど、いつの時代の考え方なんだって。確かに上がり幅は違うと思うんですけど、構造的にやり方次第で変わっていくと思う。
ーー くやしいところですよね。セラピストによっても技術の差ってありますし。。
小林 そうですね。患者さんにとってみれば、病院行ったら一定水準以上のリハビリは受けられると思って当たり前だし、でも現状に差はある。それは患者さんが知らないことが問題かなと思うんです。
その知るすべが作られていって例えば患者さんが評価できるような時代になっていけば、セラピストはウカウカしていられなくなりますよね。やる人は残っていくだろうし、やらない人はもっと評価が下がっていく風に変えていきたいなとは思っている。
ーー 情報が手に入りやすくなっている今、うかうかしてられるのも今のうちと。
小林 すごい治療ができるセラピスト、定時になるとすぐ帰って遊んでいるセラピスト、それぞれいると思うんですよ。古い考え方だとは思うんですけど、医療職というのは生活のために仕方なくやる仕事じゃないと思うんですよ。
そうゆう人多いと思うんですけど、手に職で安定だからやるって。でもやるからには人の人生変えますからね。まー、患者を経験している立場なので少し厳しいこと言っちゃいました(笑)
ーー 最後に若手療法士に向けてメッセージをお願いします。
小林 仕事が楽しいっていうのはもちろんだと思うんですけど、楽しさを得るためには患者さんを好きになってほしいなって思ってます。ただ患者さんを好きになったら結果的に頑張るし、楽しいし、その人がよくなればうれしいし、悪くなれば悔しいしっていうのは自然発生すると思う。話していて楽しい自分が好きなのであって。患者さんを好きになれればいいと思う。患者さんって自分にも色々与えてくれる存在ですよ。
小林純也先生の「人間力」に直接触れる。少人数の座談会はこちら↓
【8/25】ワタシ(理学療法士)も障害もってますー当事者対談ー
小林純也先生
「脳卒中なんでも相談室」をはじめ、患者のためのリハビリ情報サイトづくりが次の目標と語る。
メール no-kousoker119@bb.emobile.jp