精神科領域における理学療法の可能性を求めて|北欧での学びと経験

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広島大学大学院の博士課程後期に在籍している石原裕輝と申します。

 

2015年に理学療法士免許を取得し、現在は病院やクリニック、デイサービスセンター等で働きながら研究活動に従事しています。まだ駆け出しの大学院生ではありますが、私の活動について執筆する機会をいただきました。留学というテーマを基に、精神科領域の理学療法に関する私の経験を綴らせていただきます。

 

本記事をご覧になられている皆様の立場はそれぞれ異なると存じますが、医療、特にリハビリ業界に携われていらっしゃる方であれば、「精神科領域の理学療法」という言葉には少し違和を感じるかもしれません。現在、日本の精神科病院に勤務している理学療法士の数は非常に少なく(日本理学療法士協会の調査によると、2018年3月末では122人)、精神疾患患者に対する理学療法では診療報酬が発生しません。

 

そのため理学療法養成校の教育プログラムでは、精神医学の概要を学ぶのみに留まり、卒業後も精神疾患について学ぶ機会が非常に限られています。それでは、私が精神科領域の理学療法に興味を抱いたきっかけについて述べていきたいと思います。

 

精神科理学療法に興味をもったきっかけ

私が精神科領域の理学療法に興味をもったのは大学生のときでした。ヒトのこころに興味をもっていたため、文学作品や心理学に関する書籍を読んで過ごすことが多かったです。そのためか研究室へ配属される3年次には、精神科領域のゼミに入ることを決めていました。

 

私が在籍していた大学には、当時アジアで唯一、精神科領域における理学療法の手技の認定を有しており、精神疾患の研究に取り組んでいる先生がいらっしゃったため、幸いにも学部生のときに国際的な精神科領域の理学療法に触れる機会をいただきました。またその先生から、ある精神疾患をもつ方が怪我をしても十分な理学療法を受けることができなかったという話を聞いたことも強いきっかけとなっています。

 

その方は脊髄損傷を患ったのですが、精神疾患を理由に十分な理学療法を受けることができず、精神科病院へと転院されたそうです。当時、その精神科病院では十分な理学療法を受けることができなかったため、その患者さんは車椅子移動ができた可能性があったのに、座ることもできず寝たきりになってしまったという出来事があったそうです。

 

私は話を聞いただけですので、実際にはもっと多くの問題が背景にあったと思います。それでも、その患者さんが理学療法を受けることができなかった事実に胸を痛めました。そのときに、私は精神疾患をもっている方でも適切な理学療法を受け、地域へ帰ることができる社会をめざすため、大学卒業後も精神科領域の理学療法を学び続けることに決めました。

 

ノルウェーへ留学

精神科領域の理学療法について学ぶため、私は大学卒業後に大学院博士課程前期(修士課程)とBergen University college(現:Western Norway University of Applied Sciences) Basic Body Awareness Methodologyへ進学することを決めました。Bergen University Collegeはノルウェー南部の街、ベルゲンに位置する公立大学です。

 

​Basic Body Awareness Methodology(BBAM)は2001年よりBergen University Collegeにて設立された、精神科領域における理学療法の手技であるBasic Body Awareness Therapy(BBAT)を世界で唯一「英語」で学ぶことのできる2年間の卒後教育プログラムでした(現在はUniversity of AlmeriaのMaster degreeに移転)。

 

 

Bergen University Collage (現:Western Norway University of Applied Science)

 

またBBAMの担当教授は、World Confederation for Physical Therapy(WCPT:世界理学療法連盟)のサブグループであるInternational Organization of Physical Therapy in Mental Health(IOPTMH:精神保健領域における理学療法の国際組織)の副会長を務めている先生であり、学生は欧州を中心に世界の精神科医療に従事する理学療法士です。精神科領域の理学療法を学ぶには最適な環境であると感じた私は、指導教員の後押しのもと、BBAMに出願することを決めました。当時の出願条件は「理学療法学の学士号を取得し、十分な英語でのスピーキング、ライティングスキルを有している者」でした。

 

私が出願したのは大学4年生の3月で、そのときはまだ英語を話すどころか聞きとることさえ難しかったです。そのため、私は出願条件の理学療法士学の学士号(取得見込み)も英語のスキルも不十分なまま出願する形となりました。急いで出願したのには理由がありまして、2015年の募集を最後にBBAMの担当教授が大学を退官することが決まっていました。またノルウェーは大学の学費が無料なのですが、その制度は海外留学生にも適応されます。

 

この機会を逃すと、もう海外で精神科領域の理学療法を無料で学ぶことができなくなると感じ、玉砕覚悟で応募することに決めました。しかし、この決断は非常に良かったといまになって思います。英語のスキルにしても、必要に駆られたからこそ(まだまだ不十分ですが)身についたと思いますし、英語のスキルが身につくまで応募しないという選択をしていれば、いまでも出願をしていなかったかもしれません。当時の環境が、私に一歩を踏み出す勇気をくれたのだと思います。

 

2015年度の出願者数は定員よりも多かったそうですが、無事にアクセプトいただき、博士課程前期1年次の10月にノルウェーでの留学が始まりました。ノルウェーといえば、物価が非常に高いことで有名です。ちょっとした外食でも2,000円以上は必要だったと思います。当時はお金がなかったため、8人部屋のゲストハウスに滞在していました。

 

部屋には2段ベッドが4つと簡易ロッカーが設置してあり、キッチンやシャワー、リビングは他の部屋とも共用で、常に外国人との共同生活です。ゲストハウス利用客の滞在日数は3-7日間程度だったので、毎週新しい方とルームメイトになります。ゲストハウスの利用者は海外からの旅行客が多く、ヨーロッパを周る学生や、休暇中の医師や弁護士など、世界中の魅力に溢れた方々とお話することができ、大学以外でも刺激的な毎日を過ごすことができました。

滞在していた8人部屋のゲストハウス

 

第一回:精神科領域における理学療法の可能性を求めて|北欧での学びと経験

第二回:Basic Body Awareness Therapy(BBAT)とは?

第三回:精神科領域のリハビリテーションを学ぶためデンマークへ

 

石原裕輝さんプロフィール

【学歴】

2011-2015 神戸学院大学総合リハビリテーションテーション学科理学療法学専攻

2015-2017 広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学専攻博士課程前期(修士:保健学)

2015-2017 Bergen University College Basic Body Awareness Methodology(認定BBATセラピスト)

2017-    広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学専攻博士課程後期

【職歴】

2015- 株式会社 アールプラス

2015- 医療法人社団 加川整形外科病院

2017- 広島大学大学院医歯薬保健学研究科 クォリファイド・ティーチング・アシスタント

2018- 医療法人社団 福原リハビリテーション整形外科・内科医院

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