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【運動器7】歩行観察なんか大嫌い~批評と今後の展望~

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歩行観察はリハビリの臨床では非常によく行われる評価の一つ。でも客観的でないし、実習生ができないとマウントされるし、教えにくいし学びにくい。そして今は精密な解析機器もあるのでもはや過去のもの!?理学療法の臨床に深く根を張り存在し続ける歩行観察について、私が歩行観察を嫌う理由を述べながら、この先歩行観察をどうしていったらよいのかを考えます。「もう歩行観察しないなんてなんて言わないよ絶対(古)」と歌いたくなること必至の記事です???

Buenas noches!terapeuta!(スペイン語でこんばんは療法士のみなさん)、週の真ん中水曜日の江原です。私は歩行観察が大嫌いです。いつもはPOSTさんに忖度して黙ってましたが今日は言わせてもらいます。セラピストの主観だけの評価なのに、理学療法の根幹を支えているかのような存在感を気取りやがってこの歩行観察が!

 

「トップダウン評価の代表格」みてえな面(ツラ)して理学療法界を我が物顔でまかり通りやがってコノヤロー。そして、経験が浅いセラピストに対して、「なんでこんなこともできないの?」といわんばかりに、マウントを取りやがる存在そのものがパワハラな歩行観察。今日は、「もう歩行観察しないなんて言わないよ絶対」と歌いたくなること必至の記事!歩行分析について思う存分ブチ上げます!

 

本日のトピックス

歩行観察のここが嫌い

・こんな歩行観察あるある

・歩行観察はどのくらい行われているか

・慢性疼痛リハにおける歩行観察評価は・・・?

・歩行観察をぶっ壊す~さあ歩行分析をしよう~

 

歩行観察のここが嫌い

私が本日話をする歩行観察というのは、「5m程度の歩行路を数回往復させて観察し、その特徴を口頭で説明したり記載する評価方法」のことです。10m歩行評価とか6分間歩行評価のような量的評価ではありません。患者さんのパンツを膝までまくり上げて歩行させて、理学療法士は端っこで眉間に皺寄せながら観察してるアレです。

 

「体幹が動揺している」とか、「立脚初期から中期にかけて膝関節のthrustが認められる」とか、「麻痺側上肢の緊張が強くてswingに左右差がある」などと説明しますね。現在ではスマホでも動画を手軽に撮影できるので、動画に撮ってあとから繰り返し観察することも可能ですね。時に患者さんにもその結果について、理学療法士がフィードバックしたりしますよね。

 

一生懸命やっている理学療法士には大変申し訳ないのですが、私が勤務する職場では慢性疼痛の患者さんを診る機会が多いので多くの病院の治療やリハビリを経験した方が来院されます。その中にはこんなコメントを残された患者さんがいました(複数人)。

『理学療法士さんに見てもらったことがあるけど、5mくらいのところを「さっ歩いて」と言われて歩いてくると、「よし」とだけ言ってあとは何も言わずマッサージ。それでまた歩きをみられて「いいですね」といわれる。症状は良くなってないし、歩きも楽になってない。あれは何なんですか?』

歩行観察は理学療法士の独りよがりになりやすいから嫌い。そして、患者に貢献しないことも多いので嫌いです。

臨床における歩行分析は、観察に始まり観察に終わる。これは歩行の観察には歩行障害の原因の把握と治療効果判定2つの目的が存在していることを意味する。しかし観察による情報は個人差が大きく、客観性に欠けるという問題が指摘されている。

Shumway -Cook A.Woollacott M:モーターコントロール.田中繁、高橋明(監訳),1999

という指摘もある通り、人間の目に頼っている以上客観的ではありませんし統一した見解は得られない。臨床のコツ以外何物でもない。それだけのことで、症状のすべてを見抜いたかのように扱うのは適していないと考えます。「ランチョロスアミーゴ国立リハビリセンター式Gait Analysis」という歩行観察方式があり、日本語訳の出版され広まり15年余り経過します。

 

科学的根拠に基づき理学療法に応用可能な分析が効率的に行える点で優れているといわれるこの方式にも、覚えることが多い弊害もありますし、人力による観察だけに頼るのであれば客観性に乏しいと思います。

 

こんな歩行観察あるある

例を挙げるならば、「立脚中期から後期にかけて股関節伸展角度が少なく、骨盤後方回旋の代償運動が生じバックニーが起こっている。」ありがちな歩行周期の観察例と記述だと思います。何気なく聞き流してますけど、この1文の中の特徴を整理しても、

・股関節

・骨盤

・膝関節

という複数部位の視点があり、

・股関節伸展運動

・骨盤回旋運動

・膝関節過伸展運動(バックニー)

と運動方向への説明も付随しています。これに、頭頚部・体幹のアライメントや、トレンデレンブルグ徴候などの典型的な異常歩行、上肢の筋緊張、各下肢筋筋活動(触診?)が入ったりします。このように同一のパラメーターで議論をしていないのが、また別の歩行観察の嫌いな点です。「観察者が歩行観察のどこを見ているのか」のことを「注視点」と呼びます

 

注視点に注目した理学療法の歩行観察を主題とした演題発表抄録を読んでみると

歩行分析・観察の技術は、経験の少ない理学療法士にとって難しさを感じる技術の一つである。その理由としては、歩行分析。観察の学習過程が認知科学的に理解されていないこと、経験ある理学療法士にとっても学習で非言語化されたものを説明することが難しいことなどが挙げられ

渡会 昌広他:歩行観察における理学療法士の注視点(第1報)―注目している部位を明確にする―理学療法学Supplement32(2) (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)

と説明しているように、そもそも歩行観察を習熟させるためにどのように学習していけばいいのかすら定まってすらいないのです。この発表における歩行観察での注視点をランキング型式で発表すると、

1.重心位置・移動

2.骨盤の挙上・下制

3.上肢の緊張や振り動作減少

などへの記述が多く、肩・骨盤・下肢に注目しがちであること、注視点が定まるまでの時間は理学療法士の経験によって短くなる傾向を示すと考察していました。重心や関節運動や筋緊張などと部位だけでなく注視している現象にもばらつきがあり、方法論としても一定の見解が得られていない。私の印象の裏付けとなるような見解もあるのだなと実感しました。ミスも多く不確実な人間の目にゆだねられている。評価分析機器が精密に手軽になってきているのに依然このような矛盾が残っているのです。

 

歩行観察はどのくらい広く行われているか

下の画像をご覧ください。調べる前の私の印象同様に歩行分析・観察は一般的に行われています。

図1 骨関節系で実施している評価(伊藤俊一:腰痛理学療法に対するEBPT.理学療法学36(8)506-507,2009より引用)

上記引用文献において県レベルで調査した骨関節系理学療法で用いられる評価の中の、なんと9割で歩行分析が行われていました(観察だけによるものかは不明です)。理学療法ガイドラインに目を向けてみますと、最も歩行観察が頻繁に行われているであろう「変形性膝関節症ガイドライン」でも、歩行観察に関するエビデンスレベルや推奨グレードの記述は見つかりませんでした。

 

歩行観察で確認できるものとして、膝OAの進行要因に関わる「外側スラスト」について述べられているのみです。例えば、このように考えるのはだめなのでしょうか?「膝OAの歩行観察はlateral thrustさえ見つけることができればいい」比較的経験の浅い初学者でもスラストの有無くらいは確認できると思いますので、膝OAの歩行観察ではそれを観察できれば十分なのではないかと考えています。

 

慢性疼痛リハにおける歩行観察評価は・・・?

私の仕事のメインフィールドである慢性疼痛リハビリにおいては、私見ですが以下の画像のように考えています。

図2 痛みと姿勢の間にある悪循環の模式図

痛みや姿勢に対してではなく、痛みに関与構成すると思われる身体機能障害を改善する

 

痛みそのものや悪い姿勢は関係がある場合とない場合があり、姿勢が悪いだけでは痛みは出現しません。したがって評価するべきは痛みに関連すると予測される身体機能障害と、症状を修飾する心理社会的要因を評価します。この要素が悪循環を形成し、慢性疼痛を長引かせています。悪循環の原因となる部分を改善しようとすると、痛みや姿勢や身体機能障害の改善とシンクロしていくことが多いです。

 

もちろんリハビリ初期より注視点を決めて歩行観察を行えば、痛みの改善に合わせて歩容も改善していきます。しかし歩容を改善しようとプログラムを立案しなくとも、痛みの改善とともに歩容も良くなったりすることも多いので、歩行観察に痛みとの優位な相関があるわけではないと考えます。例を挙げるとすると、左臀部痛がある方の歩行観察で左トレンデレンブルグ徴候があったとします。その方が3名いると設定しましょう。

 

これに対して、中殿筋エクササイズ(MMTは5)、左片足立ちや右足のステップ練習5分間、シャドーボクシング5分間をそれぞれ行ったところ、おそらく全員トレンデレンブルグは軽減します。そのくらいあいまいなもので、特に介入アプローチの選択には歩行観察結果は全く関与していないと考えています。なので、ほとんどの患者さんで歩行観察をしていません。(嫌いなだけで歩行観察をしていない訳じゃないのです)

 

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