オリンピックへ行く
− まず、理学療法士を目指したきっかけを教えてください。
小保方 元々は医者志望で、漠然と国立医学部を志望していました。そもそも医師を目指したきっかけが、スポーツドクターなどスポーツに関わる医療職種を目指していたからなのですが、センター試験で失敗してしまい医師の道を諦めました。
そこで「スポーツ・医療」とインターネットで検索したら、理学療法士という職業と出会いました。詳しく調べたら志望していた群馬大学にも学べる学部があると分かり、進学先を即決したので、理学療法士がどんな職業かということは入学してから知りました。
ずっと野球をやっていたのと、小学生の頃からオリンピックを観戦するのが好きだったので、スポーツに関わる職業に就きたいとずっと思っていました。昨年はオリンピックへの夢を叶える千載一遇のチャンスが来て、ボランティアスタッフとして参加できることとなりました。
− 小保方先生が理学療法士になった当時は、スポーツ理学療法士を目指すことは反対されがちだったと思いますが、就職する時に周りの方からの風当たりは強かったですか?
小保方 スポーツ理学療法の分野で著名であった群馬大学・坂本教授の元で勉強していたので、風当たりは強くありませんでした。むしろスポーツに関わりやすい環境にあり、周りからの反対は感じませんでした。
− 同級生の反応はどうでしたか?また、一緒にスポーツ理学療法士を目指していた方は今でもPTとしてスポーツに携わっていらっしゃいますか?
小保方 大学卒業後JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)を取得したのは、私を含めて二名だけで、大学同期の一割程度です。もう一名も大学卒業後すぐに仕事とは別にスポーツ現場で活動していました。
スポーツ理学療法を志向する学生で何をしたらいいかわからない方も多いかもしれませんが、スポーツ理学療法の現場で働きたければ、まずは休みの時間を使ってボランティアに近い形でも行動できるほどの意欲を持つことが重要だと思います。
スポーツ理学療法と言っても、学校の部活動レベルであれば、外来リハビリを行っている整形外科クリニック等で診ることができるますが、一般整形外科の患者さんのリハビリを行っているうちに、徐々に「スポーツ理学療法」というよりは、「運動器理学療法」に意識が変わってしまうケースも多いように感じます。
ただ、私は入職してすぐにスポーツ現場に出ることが当たり前の環境だったので、働いてからスポーツ理学療法への憧れが色褪せる要素はなかったです。
− そのような環境因子は就職してからでないと分からないと思いますが、病院人事にも携わっている小保方先生は、学生の方が入職後に感じるギャップを埋めるために、どのように新卒生と向き合っていらっしゃいますか?
小保方 見学の段階で「この病院で何がしたいか」ではなく「どのような方に対して理学療法をしたいか、最終的にはどこを目指しているか」を必ず確認し、目標によっては他のクリニックや病院をしっかり見学するように勧めています。そうすることで、入職後の早期離職を防げると思っています。
「プレイヤー」か「管理職」か
- 小保方先生は、新卒で入った頃から今までで働く環境に変化を感じましたか?また、病院内でのご自分の立場について最も考えた時期はいつ頃でしょうか?
小保方 働く環境はこの12年間で大きく変わりました。最も自分のポジションについて考えた時期は、上司が退職したタイミングです。
働き始めて8年目か9年目の時、理事長から上司のポジションであった企画管理部へ入って「病院の運営に携わらないか」というオファーをいただき、その時に大きく意識が変わりました。
オファーをいただく前は、スポーツ理学療法士の知識や経験を突き詰めていた時期でした。科長として働かせていただき、後輩含めて病院全体がリハビリで盛り上がってくれればいいと思って活動していました。
個人的には、大学院卒業後も研究を続けて個人的実績を積んでいた時期でしたので、突然臨床を離れて管理側に入るように言われ、キャリアの転換期を強く意識しましたね。
− 管理をする立場と臨床現場でプレイヤーとして働く立場を選ぶ時に、迷いや未練はありませんでしたか? また、マネージメント職を選んだ決め手は何でしたか?
小保方 当時は病院の業績が段々と下がり始めて離職者が増え、病院がバラバラになりかけていました。私は既にJSPO-ATの資格を取得していたので、転職することは簡単でしたが、職場への愛着があったので管理職として頑張ろうと思いました。個人のキャリアを閉じてでも病院を立て直したい気持ちが強かったです。
妻も同業者なので、研究成果を閉ざすのはもったいないのではないか、オリンピックを目指すのであれば転職すべきではないか、と言われました。また、個人的にはそれまで実績を積んできたという自負があったのでキャリアの選択肢はありました。
しかし最終的には、病院の愛着だけで今のポジションを選び、妻にもその思いを理解してもらえました。
− 管理職への昇進の前に、科長へ昇進していらっしゃいますが、それは入職後何年目の出来事ですか?
小保方 8年目です。ただ、科長は目指していたキャリアではなく、私の理想を叶えるための通過点でしかありませんでした。私が診られる患者さんの数は限られているので、患者さん全員が高レベルのリハビリを受けられるようにスタッフを教育して管理したいとずっと思っていました。
その思いが理事長や当時の事務長に認められて、管理職としてのオファーをもらえたと思います。
− 小保方先生は王道の考え方で進んでいらっしゃるように感じますが、職場では他のスタッフの方も同じような考えだと思いますか?
小保方 大学院で研究の基本である信頼性や再現性を学んだからこそ、患者さんに説明できない事を提供する理学療法に疑問を感じました。当時、自分の中で能力的限界を感じていたからこそ「王道」のキャリアを選択できたのだと思います。
今でもスタンダードを理解した上で、自分の出来る範囲で派生させ、自分の判断で理学療法を提供するように日頃から後輩達には強く言っています。
− 小保方先生の考える教育方針はどの病院でも目指すところだと思いますが、着手して効果的だった具体例はありますか?
小保方 自分の良き理解者を育成することと、自分の臨床感やビジョンなどを後輩に伝えることが重要だと思います。今では、私の考えについてきてくれた後輩と共に、教育体制を整えている最中です。
ただ、段々と人数が増えてくると私だけでは見きれなくなったので、「上が下を見て、下がさらに下を見る」という階層的な教育に切り替えています。その中でも、可能な限り就業時間内にスタッフへ声をかけ、積極的に褒めて発表の機会を設けました。
階層的教育においても、可能な限りスタッフ全員の状況を把握することは重要だと思います。
− ポジションが上がることで管理するスタッフの数が増えて、対応方法に変化はありましたか?
小保方 部長になり現場スタッフへ直接指示ができなくなったので、ニュアンスが変わってしまうこともよくあり、今はそれで頭を悩ませています。最近では、リハビリ科以外の部門もマネジメントしているので、職種や特性を見ながら指示方法を変える重要性が分かってきました。
部門長や科長に対して、マネージメントをコンサルするような立場に徹しています。
好きなことだけでは昇進しなかった
− どうして上司の方は小保方先生に今のポジションをオファーしたと思いますか?
小保方 理事長がやりたいと思ったビジョンを、否定せず叶えるように努力してきたことが理由だと思います。理事長についていったのは、出世したいからではなく「今までの恩義を返さなきゃ男じゃない!」と感じたからです。
自分の好きなことだけやっていたら昇進していなかったと思います。後輩スタッフたちへの教育体制を整え、経営陣の要望も叶えたことで、マネージメント能力が評価されたと個人的には感じています。
臨床現場を離れる時にはとても悩みましたが、やはり今までの恩義が決め手となり決断できました。元々はスポーツに関わる仕事をしたいという夢を抱いていましたが、今では運営やスタッフ教育の面白さも感じ始めています。
− ずばり、キャリア的には登りつめたと感じていらっしゃいますか?
小保方 そうは感じていません。今の職場でもまだ目指せる余地があると思っています。今はまだ、管理者として病院での役割やポジションは不十分なので、目標は経営責任のあるポストに就くことです。
それとは同時に、仮に転職したとしてもどこでも活躍できるように、さらにスキルアップしたいと思っています。最近は、「本業は管理職」と気持ちに踏ん切りがつけられて気持ちが楽になりました。
− 今後、病院組織としてどのような発展をさせていきたいですか?
小保方 スタッフには、うちの理学療法を世界のスタンダードにできるくらい、高度な技術レベルを追求していこうと話しています。ここを今後のビジョンにしているからこそ、プロトコールやクリニカルパスもデータ化して発信していこうと動いています。
− これからマネージメント職を目指す方に向けて、何かメッセージをいただけますか?
小保方 臨床職とマネージメント職を両立しようとするといつか破綻してしまいます。マネージメントは人を介して成果を出す職種なので、そこに魅力や興味を感じられるかが重要です。人を動かして成果を出すことに喜びを感じられる方は、マネージメント職をどんどん目指すべきだと思います。
人の出した成果に喜びを感じられるかどうかが、マネージメント職を目指す判断基準です。マネージメント職を目指す人が最近少ないと思いますが、もし目指しているのであれば諦めずに行動すべきです。行動すれば病院外部でも内部でも見てくる人や評価してくれるはいます。
プロフィール
学歴
平成17年4月 群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 入学
平成21年3月 群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 卒業
平成23年4月 群馬大学大学院保健学研究科博士前期課程 入学
平成25年3月 群馬大学大学院保健学研究科博士前期課程 修了
職歴
平成21年4月 医療法人龍邦会 東前橋整形外科(現:東前橋整形外科病院)
リハビリテーションセンターに理学療法士として就職
平成26年7月 同 リハビリテーションセンター主任 就任
平成28年2月 同 リハビリテーションセンター長 就任
平成29年9月 同 企画管理部長 就任
平成31年4月 医療法人五紘会 東前橋整形外科病院に病院名変更
企画管理部長兼診療技術部長 就任
令和2年10月 同 診療部長 就任
現在に至る
資格
理学療法士(スポーツ理学療法認定理学療法士、管理・運営認定理学療法士)
保健学修士
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
日本障がい者スポーツ協会公認中級障がい者スポーツトレーナー