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歩いているアバターによるバーチャル歩行感覚の増強

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概要

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 北﨑 充晃 教授と東京大学の研究チームは、座っている人にバーチャル歩行体験を提供するシステムを開発し、歩いているアバターと足裏への振動の組み合わせによって歩行感覚の錯覚を増強できることを示しました。歩いているアバターは一人称視点と鏡の中に見え、それを自己身体と感じることができました。将来的には、このシステムが歩行困難者にもバーチャルな歩行体験を提供するものとなることが期待されます。

 

詳細

歩行は人にとって基本的で、日々の活動の中心となる大切な運動です。豊橋技術科学大学と東京大学からなる研究チームは、座っている人にバーチャル歩行体験を提供するシステムを開発し、歩いているアバター(バーチャル人間)と足の接地タイミングに同期した足裏振動の組み合わせによって歩行感覚の錯覚を増強できることを示しました。歩いているアバターは一人称視点と鏡の中に見え、それを自己身体と感じることができました。また、全身アバターに加えて、手足だけを提示した「透明身体」アバターでも歩行錯覚を生じさせることができました。将来的には、歩行困難者にもバーチャルな歩行体験を提供するシステムとなることが期待されます。この研究成果は、2021 年 4 月 21 日に Frontiers in Virtual Reality 誌に掲載されます。

 

バーチャルリアリティでは様々な歩行装置が開発されています。しかし、その多くは実際に手足を動かすものでした。そのような装置は、往々にして大きく、重く、複雑で家庭用には向いていません。そして、歩行困難者には使うことができません。

 

豊橋技術科学大学と東京大学の研究チームは、座った人が足を動かさずに歩行を体験できるシステムを開発しています。それは、普通のヘッドマウントディスプレイと足裏に置く4 つの振動子(バイブレーター)から成ります。

 

このシステムでは、バーチャル空間の中でアバターが歩きます。アバターの頭はユーザーの頭の動きと連動していて、ユーザーが右を向くと右が見え、アバターの頭も右を向きます。アバターは、自分の視点がアバターの視点と一致する一人称視点から観察され、同時にバーチャル空間にたくさん置いた鏡の中にも見えます。アバターが歩いて足が地面に着くと、同じタイミングでユーザーの足裏(踵と前足部)に振動が来ます。アバターとそれと同期した足裏振動を両方提示すると、最も強い歩行感覚が生じました。また、バーチャル空間にいる感覚(テレプレゼンス)も強くなりました。

 

手足のみしか提示されていない「透明身体」アバターを歩かせた場合でも、何も提示しない時よりも強い歩行感覚が生じました。一方、アバターを背後から見るような第三者視点からの観察では、アバターの効果はありませんでした。

 

開発秘話

この研究は、情報・知能工学系特任助教の松田勇祐と大学院生の中村純也が中心となり、等しい貢献度で行われました。松田氏によると、バーチャル空間に多くの鏡を規則的に置くことは一見すると不思議に思えるかもしれませんが、それがアバターを自己身体化することに必要だとのことです。普段人が歩いているときは、全身の一部しか視野に入りません。ところが鏡を使うことで、全身を見ることができ、歩いているアバターが自分だと思えるようになります。中村氏は、手足のみの透明身体アバターの重要性について、2018 年に研究室の先輩が開発したものであり、全身アバターを用いる場合に比べて、計算資源が削減でき、自分の本当の姿とアバターの外見との違いから生じる違和感を減らせる利点があることを語ってくれました。

 

今後の期待

このような四肢を動かさずに歩行している感覚を得られるシステムがより発展すれば、歩行困難者に歩くことの楽しさを提供し、それによって QOL を上げることが将来的に期待できます。さらにコンパクトになれば、家庭での歩行体験あるいは旅行体験も可能になるでしょう。

 

本研究の一部は JST ERATO JPMJER1701(稲見自在化身体プロジェクト)および科研費(JP18H04118,JP19K20645,JP20H04489)の補助を受けて実施されました

 

Publication:

Matsuda, Y., Nakamura, J., Amemiya, T., Ikei, Y., and Kitazaki, M. (2021). Enhancing Virtual Walking Sensation using Self-Avatar in First-person Perspective and Foot Vibrations, Frontiersin Virtual Reality, doi: 10.3389/frvir.2021.654088.

 

Reference:

Kondo, R., Sugimoto, M., Minamizawa, K., Hoshi, T., Inami, M., and Kitazaki, M. (2018).Illusory body ownership of an invisible body interpolated between virtual hands and feet viavisual-motor synchronicity, Scientific Reports, 8:7541 doi:10.1038/s41598-018-25951-2.

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=SyEY7C2RC7o

Title: バーチャル歩行体験時の動画

Caption: 全身アバターあるいは手足のみアバターが歩行している際に、足裏にはアバターの歩行と同期した振動が与えられます。動画中の音は振動を模擬的に示しており、実際には提示されていません。

 

Title: 実験におけるバーチャル空間

Caption: (A) バーチャル空間を上方から見た様子。(B) 実験中に観察者が見ているシーンの例。(C) 手足のみのアバター

 

Title: バーチャル歩行システムのハードウェア

Caption: (A) 全体像 (B) 振動装置を上から見たところ。4 つの振動子が左右の足の前足部および踵に振動を与えます。(C) 振動装置を側面から見たところ。振動子はバネで吊されており、足裏にフィットすると同時に、その振動がお互いに伝わらないようになっています。 

 

▶︎https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/frvir.2021.654088/full

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

歩いているアバターによるバーチャル歩行感覚の増強

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