この度のアンケートでは大変多くの皆様(934票)にご協力いただき、誠にありがとうございました。今回、アンケートを行いました背景をご説明しつつ、皆様からの回答も合わせてお伝えできればと思います。
お詫び)今回このようなアンケートを行なった背景に、「不安を煽る」等の目的は一切ございません。ただ、アンケート調査の内容として結果的に不安を煽られたと感じた皆様におかれましては、お詫び申し上げます。
さて今回のアンケートに至る大きな要因が以下の報告です。
この資料の細かい解説は、各個人でご確認いただければと思います。今回のアンケートでもお伝えしたように「すでに需要を上回った」「2040には1.5倍の供給となる」との報告です。
この報告は2019年に行われたものですが、需給検討会には長い歴史があります。私の方で確認できたのは1982年(医療関係者審議会理学療法士作業療法士部会)まで遡ることができました。当時でも、「〇〇年に均衡する」と言われ、「新しい需要に対応できる」と書かれています。この需給検討会は幾度となく、検討を行なっており、終了してはまた開催してを繰り返しおこなっています。
まずは、今回の報告に対して“率直に”PTOTがどのような意見を持つのか、アンケート結果を交えながら見ていきたいと思います。
需給問題における2つの課題
まずは結果から。以下の結果では「非常に焦っている」との回答が43.8%と最多で、その反対に「正直気にしていない」との回答が35.4%と、相反する回答に分かれました。
【PTOTの皆さんにお聞きします】
— POSTリハビリメディア (@POSTwebmedia) June 15, 2021
厚労省の調査(2019.4)よりPTOTの需要推計が出され、「すでに需要を上回った」「2040には1.5倍の供給となる」と言われています。この報告について率直なご意見をお聞かせください。
※拡散にご協力下さい。
※「その他」の場合コメント、リツイートでご意見下さい。
その理由として考えられることは、需給問題における2つの課題が関係していると考えています。2つの課題とは、
①需要を増やす
②供給を減らす
の2つに分けることができます。つまり「需要が増えなければ職が失われる」→「不安」、「学校数を減らす・合格率を下げることで供給を減らす」→「現職者には関係なく気にしていない」という回答になったことが考えられます。
今回のアンケートに対するご意見も様々頂戴しており、上記理由とは別の考え方も当然あります。例えば、
・需要が減っているのは前から知っていたこと、それを踏まえて準備すれば良い。
・これはPTOTだけの問題ではない。
・未来はどうなるかわからない。今焦っても仕方ない。
・このアンケートでは調査にならない。
・養成校乱立しているから仕方ない。
など。
以上様々なご意見はありますが、今回は「需要を増やす」「供給を減らす」2つの課題に対して、医療従事者の需給に関する検討会(理学療法士・作業療法士分科会)で実際に話合われた内容(議事録)から、その可能性を考えたいと思います。
資格者数を減らすことは可能か?
養成校を減らす
流れとしては、「需要を増やす」を先に述べたいところではございますが、内容量の都合上、先に「供給を減らす」の課題に関して考えたいと思います。非常に短絡的な考えではありますが、「多すぎるなら減らせばよい」という可能性に目が向きます。
この可能性に関しては「ほぼ不可能」と現状で言わざるをえません。その理由は以下の判例です。
平成8年6月、福岡にて新規柔道整復専門学校設置許可申請書が提出されたが、厚生省は「養成力の増加を伴う施設を新たに設置する必要性が見いだし難い」という理由で、新規参入を認めなかったことがあった。それに対して、学校設立側は福岡地方裁判所に提訴。平成9年10月に第1回裁判が開廷し、その後、複数回の裁判を経て、平成10年8月福岡地裁において柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件の判決が下された。
裁判例結果詳細:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=16172
以後、養成施設指定規則さえ満たせば設置を認める方針になったのです。つまりは「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」に書かれている規定の条件を満たせば、設置を認めざるを得ないということであり、「現状の入学定員を減らせ」という指示も行うことが困難です。
上記以外の理由も多数存在するようですが、どちらせよ学校数を減らす、入学定員を減らすことは現実的ではないと考えます。また、この件に関して当日の議事録でも以下のように語られています。
堀岡医師養成等企画調整室長 医師と大きく違うところは(PT・OTの場合、専門学校の場合は厚生労働省、大学の場合は文科省)、文科省の告示があって定員数が決まっているわけではないので、医師と同じような形でさまざまな需給調整をしていくというのは、少なくとも、もう仕組み上、難しいというところがございます。
国家試験合格率を減らす
この点に関しても需給分科会では以下のような意見がありました。
北村構成員 追加の質問です。 先ほどの資料1の最後に見せていただいたのは、学校数がふえない、定員数が変わらな いという前提でのものですので、ふえるどころか、定員数を何とか絞らなければいけない という事態に陥っていると思うのですけれども、絞るということは、経営とかそういうこ とから考えるとかなり大変です。 かといって、厚生労働省が使える手段として、国家試験の合格率を下げるという手段は ありますけれども、大学や専門学校に授業料を払って出て、そういう職業に就けないとい うことは、本当の若い人たちの夢を砕くような気がするので、国家試験の合格率をいじることで需給をとるということは、皆さんに聞いてみないとわからないのですが、個人的に は余りいい手段ではないのではないかと思います。
2019年4月5日理学療法士・作業療法士需給分科会 議事録
合格率の減少は、手段としては可能です。しかし、入学定員を減らすならまだしも、すでに高い授業料を払い志をもった学生の首を絞めることはできないでしょう。
実はこのテーマについて、もう一つの課題が検討されました。それは、療法士の“質”に関してです。第1回の検討会から話し合われていますが、需給検討会では“量”についての検討が主となるため、別での検討が必要とされました(と言いつつも、議事録を拝見すると毎回質に関しての意見が出ます)。
以上のことから、供給を減らすという選択肢は非常に困難であることがわかります。続いて、需要の増加について考えてみたいと思います。
制度に翻弄される需要
続いて、需要の増加可能性について考えていきます。第1回医療従事者の需給に関する検討会(理学療法士・作業療法士分科会)では、
<検討の必要性>
○ 高齢化の進展に伴い医療需要が増大する中で、現在、地域医療構想の策定が 進められているが、回復期の病床の充実等の病床の機能分化・連携に対応する ため、今後理学療法士・作業療法士の需要が増加すると考えられる。
○ また、団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年に向けて地域包括ケアシステム の構築を進めていく中で、在宅医療や介護などの分野においても理学療法士・ 作業療法士の需要の増加が見込まれる。
○ 一方、平成 12 年以降、理学療法士・作業療法士の養成数は大幅に増加してお り、理学療法士・作業療法士の従事者数も増加傾向にある。
○ 以上のような状況を踏まえ、理学療法士・作業療法士の需給を検討する必要 がある。
上記のことをテーマに検討されると書かれています。前述の通り、この需給検討会はこれよりも前から行われ、確認できる限りでは1982年まで遡ることができました。
その中で、「昭和六十七年ごろに需給が均衡し、それ以降は新しい需要に十分対応できる:1986-03-25 第104回国会 参議院 社会労働委員会 第3号」との意見を確認することができます。
一方で、第1回検討会に提出された意見書では、「需要と供給は平成16年以降、2〜3年以内に均衡に達し、以後逆転すると推測される」と報告されています。上記過去資料(1986-03-25 第104回国会 参議院 社会労働委員会 第3号)を読んだ私見になりますが、ここまでの需給検討会では「需要に対して供給が間に合ってきた。ようやく別の需要に対応することができる」と前向きな検討会だったと考えます。
当然時代背景が異なるため、制度改正等によって需給推計は大きく変化してきたことと思います。そして第1,2回の検討会では、PTOTが働く分野において医療に対して介護分野で働く人数が少ないことを指摘されています。
地域医療構想の策定による地域リハ需要増
なぜ介護分野の就業数が低いのか?
本間構成員 全国老人保健施設協会の本間です。丁寧な御説明を頂いてありがとうございます。私も 46 回の国家試験のところが少し気になりました。さて理学療法士について、資料 5 の 15 ページで新卒者の就業先の推移をお示しになっておられます。
新卒者は急性期あるいは回復期に就職するということは非常によく分かるのですが、私どもの老人保健施設のような生活期の施設で働く理学療法士は、新卒で最初から来るのか、急性期、回復期を経験されて何年かたって来られるのか、もしそういうデータ等があれば教えていただきたいのです。
最近の新卒者を見ていると、質が非常に厳しいと感じられます。新卒者の就職先選定が質に影響しているのかどうか、教えていただければと思います。
水間座長 これは重要なところだと思いますので、 PT と OT からもお願いいたします。
これに対する回答はPTOT共に、
*「キャリアパスにも関連すると思いますので、この辺りのところは、また詳細のデータについては、きちんと追跡した上でお示しすることができればと思っております。今、印象でというお話ですので、あくまでも個人的な印象ということですが」と前置きした上で。
・比較的大きな病院で指導を受けられるような状況から少し研鑽を積んで、そして地域やクリニックへ出ていくという大きな教育の流れがあるのではないか。
・現在の教育体系は、非常に大きな見方をすると、回復期段階での理学療法を行うために必要な知識や技能を中心として教育がなされていて、単位の配分もそちらに多くなっている。
・臨床実習においても全体の3分の2は病院や診療所等で行うということで、地域で卒後すぐに働く卒前の教育が、必ずしも十分に担保できているとは言えない状況もある。
・一方では新卒者で初めから地域在宅の中で働いていきたいという学生も少なからずおり、実際に就職している方々も散見する。
上記理由ほかに、離職率や給与の観点から差があるのではないかと指摘されており、第2回検討会において資料を提出し説明されました。ここまでの話を一旦まとめると、
・地域医療構想の策定によって、地域リハ(介護分野等含む)の需要は増加するのではないか?そもそも需要はあるのか?
・需要に対して現在の就業状況を見ると、医療分野に偏っている。
・医療分野に偏る原因は、カリキュラム(実習含む)や賃金等に問題があるのではないか?
ここで検討したいのは、地域医療構想の策定によって本当に需要は増加するのか?という点になるかと思います。また、あったとしてどのような制度の中で提供するのか、という点も課題になります。この点はまだ、検討会でも議論の分かれるところで、第3回に引き継がれます。
第3回に引き継がれる重要ポイントは以下になります。実際の議事録を抜粋して掲載します。
○堀岡医事課長補佐 基本的には、今から高齢者が大幅に増えますので、年齢階級別の今のサービスは、大幅に高齢者が多いものは増えていきますよね。その年齢構成の投影はきちんと考慮して将来の受給者数を推計します。将来の受給者は、人口が例えば 0.8 倍に減るから、全部 0.8 倍になるんだという乱暴なことをやるつもりはありません。きちんと性・年齢階級別に、今、どんなサービスがどれぐらい使われているから、人口投影をきちんとやって、計算することを考えています。いずれにせよ、データを示しながら、きちんと推計をやらせていただきます。
○星構成員 一部抜粋*要はなるべく入院期間は短かくして、在宅にいきましょうっていう話をしています。これは、いろんなところで言われていて、診療報酬の財政基盤の問題からしてもそうなんでしょう、きっと。
一部抜粋*
是非とも理学療法士、あるいは作業療法士、あるいは ST の皆さんにも、在宅での流れの中で、病院の中でこういうことをしてきたから、今後こうなるんだと。したがって、これだけ需要が増えるんだとか、あるいはこういう方式に変わるので、実は今訪問でやっているようなリハビリとは様子が変わってくるんだとか、何かそういう夢ではないんですが、こういうことを目指しているんだという話が聞かれないと、判断のしようがないのかなと。
一部抜粋*
○吉川医事課主査 御指摘、ありがとうございます。今回の推計の前提としては、地域医療構想に基づいて将来のあるべき入院医療の姿を踏まえた推計を行おうと考えています。資料 1 、 3 ページ目を御覧ください。ただいま、星構成員から御指摘がありましたように、将来的には在宅などで対応する患者さんは、確実に増えていきますので、我々もそのことを考慮して推計を行っていきます。地域医療構想をベースにして PT ・ OT の需要推計を行うことにより、一定の理想的というか、将来の医療、介護の状態を組み込んだ上での推計を行えると考えています。
○星構成員 そう来ますか。だから、この需要の中身が変わる可能性があるということを、私は指摘をしているのですよ。全部在宅に移行するから、今の在宅のやり方に人数が増えるから、その分増えるよねって話なのか、今の在宅の話とは関わり方が変わるから、増えるとか、減るとか、こういうことが実現できれば、あるいは入院期間中にグッとそれをやるので、今の単位数よりもずっとその入院患者に対する必要度が増えると。しかし、一方で、在宅に行ったらその分は減らすことが可能なんだというような、そういう中身の変化を誰も言わないんですもの。なので、せっかく構成員皆さんいらっしゃるので、是非、語っていただきたい。それは、どのぐらいの影響力があるのかは分かりませんが、少なくともその議論をした上で、前に進めていただきたいと私は思います。
一部抜粋*
○荻原構成員 よろしいでしょうか。現実的にイメージしていただけるかどうか不安なところですが、例えば私ども日本作業療法士協会は、 5 ヵ年戦略をもう 2 回目、今度 3 回目を立てるわけですが、そこに 5 ・ 5 計画を作りまして、作業療法士の配置を医療と医療以外を 5 対 5 にできないかと。
一部抜粋*
○大道構成員 さっきの発表のときにも私言ったんですが、施設側の人間としては、管理者としては、どれぐらい人がほしいかというところの、一番ネックになるところって何かって言うと、意外と身近なところでして、例えば 6 単位制限があるらしいぞとなれば、では、うちでどれぐらい人員が余るっていう話になるわけですよ。直ぐ様それを計算するわけです。そうすると、 30 人ぐらい療法士が余るよっていうことがすぐに分かりますから、そしたら、それ、在宅シフトにしようか、どうしようかっていうことになるわけです。
一部抜粋*
今私が言ったような、制度上の問題とか、ちょっとした目先の変更に、我々管理者としては、非常に敏感に反応するものだというのは御理解いただければと思います。
一部抜粋*
○星構成員 本当に、大道先生、正直な方なんだろうと。正にそうですよね。ただ、私が夢を語ってもらいたいというか、どういう形になるのかということは、ここで数値に反映できないものを含めて、言うべきだと私は思っていて、先ほど質の話も出ました。質って何かって言うと、どういうサービスに堪えられる人間なのかということだと私は思っているんですね。
一部抜粋*
少なくとも在宅に移っていく、入院期間が短くなっていく、その中で、こういう OT ・ PT ・ ST の関わりがあったら、どう変わっていくのかという話と、もう 1 つは、先ほど言ってた地域何とかって言って、予防を含めて地域に出ていってやる。これ、かなり能力がいるし、同時に必要な仕事だと思います。
一部抜粋*
短い入院期間そして在宅への流れ、そして地域で予防的なものをやるとすれば、どんなふうなことを求められて、それは人数に換算するかどうかは別として、こういうことがこの領域な人たちに求められるということは、付加的に書くことは可能だろうなと私思いますので、やはり、そこは考えていただきたい。
一方で、介護に関わる人間何万人とか、給料何万円ずつ上げるとかいう話がよく根拠なく官邸から聞こえてきますが、あれも何なんだろうと私は思いますけど、あれに比べれば、よっぼどまともな話を私はしていると思うので、そのまともな話がここで人数をこのぐらいの人数だよねっていうことだけで終わらないことを心から願います。
一部抜粋*
介護分野以外の需要増を考える
第3回の検討会では以下の資料が提出されました。ここに書かれている通り「2025年に追加的対応(介護・在宅医療分野)する患者を29.7万人」想定しており、これを考慮した推計を行なった結果「2040年に32.8万人」とされています。個人的な意見としては疑問が残りますが、私見が含まれますので後述します。
医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士分科会(第3回)
一方、行政・教育・福祉・その他分野に従事するPTOTの推計も報告されています。こちらに関して、需要を増やす施策が議事録で確認することができます。ただこれは、検討会中のアイディアであり、例え話の域であると考えます。
・地方でPT・OTが少ないならば、その両方のライセンスを持ったような人を育てて、 地方に仕事を増やす。
・リハビリの現場で骨量を測定するような検査技師的な仕事もやり得る。
・医師の仕事の肩がわりをできるのではないか。
・予防に関する分野が今後少し拡大しそうな部分の一つではある。
・小学校と考えると、全国に5万校か6万校あるのです。保育園で言うと、さらにその2倍か3倍ぐらいあり、職能を生かすことができる(看護師さんなども同じことが言える)。
第3回の検討会では、介護分野の話以外にその他の分野で需要拡大を望めるのではないかという発言が見られました。しかしこれに対して、
少なくとも医師の働き方改革自体は実施するゴールといいますか、どの時点でスタートしていくかということが決まっております。 その間に、医師の現在の業務のうち、医師しかできないことについてできるだけ集中していただいて、他の職種と連携しながらやっていただく。こういう議論については、鋭意進めなければいけないという状況でございます。
医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士分科会(第3回)議事録
という話でここでの検討は一旦ストップすることとなりました。つまりは、医師の方針が決まらない限り(医師業務のタスクシェア、タスクシフトなど)この分野の需給推計は難しいことなのだと考えます。実際の検討会開催頻度を見ても、PTOT分科会は2019年時点で第3回開催。一方、医師分科会は2021年6月までで38回の検討会を終了しています。
今回、医療・介護分野以外における需要の創出においてもPTOT法に基づく「医師の指示の下」が尾を引いていると感じます。ここまでが、全3回の検討会で行われている内容ですが、スッキリとした結果を得られていません。
今回問題となった、2040年の需給推計は当然考えて行かなければいけない問題ではあると思いますが、検討会の場ですら意見がまとまっていない状況のため、我々療法士、療法士を雇用する雇用主が混乱するのも当然だと思います。現状のことを踏まえると、2040年の需給推計データは(案)と書かれている通り、仮説の域を出ていないのが現状だと思います。
ちなみに、第2回検討会から3年後に第3回検討会が開かれ、急に2040年のデータが提出されたことがわかります。似たようなデータが報告されたのは、「第4回医師需給分科会(2016年3月31日)」の際に提出された以下の資料です。医療従事者の需給に関する検討会では、PTOT他、医師と看護師にて需要分科会が開かれていますが、2040年までの推計を出したのがこの資料がはじめてではないかと思います(これより以前に出された情報をお持ちの方がいればご指摘ください)。
PTOT同様に、2040年には需要に対して1.8万人程度の供給過多となると報告されています。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120209.pdf
詳しく議事録を見ていくと、医師に関しては閣議決定により入学定員等を制限することが可能であるため、今後の推計値をみて判断されるとのことでした。今回の、PTOTに関するデータもこれを基準としています(実際に議事録には推計方法を医師等の方法を参考にしたとある)。
当初の予定では、全5回を年内で終了する予定でしたが、第3回が行われたのが3年後の2019年となりました。その理由は、以下にも書かれている通り「※ 地域医療構想については、先行する医師及び看護職員需給分科会での議論を踏まえつつ、その取扱いを検討する」ためだと思います。
平成28年
4月:第1回 PT・OTの需給を取り巻く状況について
7月:第2回
需給推計について①
理学療法士・作業療法士の養成・確保について①
10月:第3回
需給推計について②
理学療法士・作業療法士の養成・確保について②
11月:第4回 報告書骨子案
年内 :第5回 報告書取りまとめ
※ 地域医療構想については、先行する医師及び看護職員需給分科会での議論を踏まえつつ、その取扱いを検討する。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000122252_2.pdf
以上のことから、2040年の供給過多に対して信ぴょう性もさることながら、具体的な戦略等は全く皆無であることがわかります。このような状態で協会に対して「方針を」というのも現状難しいことがわかります。
ここで話を終わりにしても、煮え切らない面もあるかと思いますので、以下の問題に関して考えてみたいと思います。私見を多く含みますのであらかじめご了承ください。
・現在示されている需要推計値にもう少し幅はないのか?
・新卒採用はどうなる?
・そもそも現状で需要を上回っているけど、人数足りてる?
・供給過多となった場合、クビになる時代は来るのか?
・医師の働き方改革、看護師不足で連携による需要増は考えられないのか?
2040年問題について考える
保険外での需要は?
今回大きな問題となっている需給問題に関して、2040年には需要に対して1.5倍の供給となる(PTについては約1.6倍、OTについては約1.3倍)ことが示されました。推計値としては、PTOTは47万人になり、需要は37.5万人を切る見込みとなっています(本来専門性の違うPTOTを一緒に推計している点は問題があり、第3回検討会でも分けたデータ提出をとの話が出ました)。
一方、2040年の大きな問題として高齢者(65歳以上)の人口がピークになると予想されています。その数、3,878万人。上記需要数は、高齢者だけでなく若年層を含んだ人数だとしても高齢者3,868万人に対して需要が37.5万人というのは少なすぎるのではないでしょうか。
当然、上記のすべての人が医療保険ないし介護保険を使い続けることは不可能なわけです。だからこそ医療・介護分野以外の職域を確保することが重要なのだと思います。
当然「人数が多い=需要が多い」とはならないでしょう。現状のデータでは、行政・教育・福祉・その他分野に従事するPTOTの人数が少なく、これを元にした推計となるため当然ボリュームは少なくなります(協会でデータ化できない部分もあるとのこと)。個人的には、ここの需要増がキーポイントになると考えています。検討会の議事録を見る限り、これらの需要創出は他職種の決定を待つしかないと見てとれます。きっとそれでは出遅れます。もはやすでに出遅れている状態でしょうか。
これまでの医療・介護分野等保険の枠組みから拡張した職域(制度内で拡張できる範囲まで)を考え、実行するための教育等、投資を行うことが必須です。PT協会が定時総会でも指し示すように「職域の防衛、拡大」を同時に進行しなければいけないことでしょう。
保険内の需要をもう一度考える
介護・在宅医療分野の需要増に関しては、保険制度の問題もさることながら有資格者の地域偏在も一つ問題となります。医師分科会でも、多く時間を割いている最中で、医師過剰都道府県から不足都道府県への派遣が提案されています。ただし現状では問題解決に至っていません(医師不足地域で働くことを前提にした奨学金制度等実施など)。つまり制度を先行して走らせた結果、結局機能しなかったというのが現状です。
一つの例では、法律まで変え、医療法上で「地域医療支援病院等の管理者になれる」というキャリアに関するインセンティブをつけましたが、ほとんど機能していません。この例だけで全てを否定することはできませんが、制度重視の需給施策で失敗する典型例だと思います。
以上のことから分科会での決定を待つと、制度中心の施策となり、なおかつ他職種の決定内容に左右されることから、PTOTにおいては独自の文化を築いていく必要があると考えます。制度を待つより先に需要をつくる。需要があることをデータにする。その後に制度化されるという流れになるのではないかと思います。簡単なことではなく「みんなが一丸となってやろう!」というものでもありません。「できる人に投資する」ここに予算を投入することが必要だと思います。
また、地域偏在の問題に関していうと医療従事者だけで解決できる問題ではないように思います。最近コロナウイルスの影響?(それを大義名分として)で都内にある本社を地方に移動させるという報道がありました。地方も、多くの移住者を受け入れるための施策をそれぞれの自治体にておこなっています。そもそも、人そのものが都心に偏っているため、医療従事者のみ増やそうと努力し、求職者集めを行っても直接的な解決にはならないのだと思います。つまり、地域に移住者を増やすための方法を考えなければならず、この問題はもっと大きな枠組みで解決を考えなければいけないでしょう。
新卒採用はどうなる?
一番の不安は新卒採用になるかと思います。今できることとしては、実習地を医療に偏在させないようにすることだと思います。この点、2020年4月入学生から新たなカリキュラムが適応されます。中身は以下の通りで、
・3分の2以上は医療提供施設 (医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2第2項に規定する医療提供施設 (薬局、助産所を除く。)をいう。)において行うこと。
・医療提供施設における実習の2分の1以上は病院又は診療所で行うこと
・訪問または通所リハビリテーションに関する実習を1単位以上行うこと
課題としては、例えば訪問リハにおいて1単位とすると5日間ほどになりますが、訪問する際の乗り物、在宅実習でのリスク等これまでの実習ではなかった別のリスクが増え、実習地確保と合わせて評価指標の見直しなど各学校にかかる負荷は相当なものになるでしょう。
この改正が、さらに4年後の2024年新卒採用にどんな変化が生まれるのか?6年に一度の診療報酬同時改定の煽りを受けることは間違いありませんが、介護分野への偏在に変化が見られるのか注目の年となります。
現状で人数は足りているか
現状の充足感に関しては、第2回の検討会にて資料が提出されています。この資料では、PTOTSTを含んだデータであり、3つの基準(施設基準上、採算上数、運営上)で充足状況を聴取しています。PTOTST共に「基準上の充足はしているが、経営上必要とする人員が不足し、患者に対し十分なリハビリが提供できていない施設がある」ことがわかっています。
ここには、様々な要因が含まれますが経営上の観点と次で考える解雇規制上の観点から考えてみたいと思います。まず経営上の観点から、これもPTOT需給分科会の議事録の中で話が出ますが、制度の波に翻弄されている現状が伺えます。
診療報酬改定は2年、介護報酬改定は3年ごとに行われているのは周知の事実です。経営者であれば、この改定には常に目を見張らなければなりません。最近記憶に新しい、訪問看護における人員配置基準の見直しに肝を冷やした人も少なくないと思います。
このような報酬改定が突如おこると、雇用する側にとっては「足りない→増やそう」と単純に考えることができないのです。「最初の2年は増やして収益が上がったが、次の改定で人員が余ってしまった」では許されないのが、日本の解雇規制なのです。
そこで次に、供給過多だからってクビになるの?という不安を解消していきましょう。
現行制度ではほとんどクビにできない日本
日本の解雇規制は世界に例がないほど厳しいもの(雇用主側にとって)となっています。その中でも、「整理解雇の4要件」というものがあります。
1,人員整理の必要性:企業が客観的に、高度の経営危機にある状態が要件。「赤字だ」「経費削減したい」では適用されない。
2,解雇回避努力義務の履行:これは正社員を守るために、努力したのかが問われる。正社員を守るため「新卒採用の中止」や「非正規社員を解雇すること」を奨励している。よくある「希望退職者の募集」はこれにあたる。
3,被解雇者選定の合理性:一般的には、
1)解雇しても生活への影響が少ないもの
2)企業再建・維持のために貢献することの少ないもの
3)雇用契約において企業への帰属性が薄いもの4,手続の妥当性:従業員に十分に説明しているか否かがポイント。いきなり説明なしの解雇は許されない。
実は上記4項目のうち、どれかに当てはまればいいわけではなく、4つ全てにあてはまらなければなりません。つまり、ほぼ正社員の強制解雇は日本において不可能なのです(倒産等は話が異なる)。
つまり、このままPTOTが増え続け、「クビになるのでは?」という不安は“今の所”必要ありません(制度変更の可能性は0ではない)。次の不安は、「給料が下がる」という話ですが、こちらも労働法的に「労働者の同意なく不利益に変更することはできません」下げることが可能な部分としては、賞与です。
つまり、現職の方ですでに正規雇用として働き、安定した収入を得ているのであれば、そのまま制度が変更されない限り「解雇」「減給」の不安を感じる必要はないと考えます。ただし、「自主退職の応募」というものはあるかもしれません。給与等、収入の不安に対して“副業”という選択肢がありますが、今回は話が広がりすぎてしまうため割愛します
医師の働き方改革、看護師不足で連携は?
今回医療従事者の需給に関する検討会の他、医師、看護師、PTOTの分科会がそれぞれ開かれています。医師、看護師の分科会で話し合われている内容に目を通してみると、医師では「働き方改革」看護師では「看護師不足」が検討内容に上がっています。医師では、AI、ICT、IoTなどの発展により改革は進むだろうと考えられてはいますが不透明な部分が多いです。これに対して、他職種に対してタスクシフト、タスクシェアを検討している場面では、薬剤師、看護師との連携が話し合われました。
一応、「PTOTでも分科会がありますが、、」という参加者からのコメントはありますが、残念ながら医師でも看護師の分科会でも、具体的なタスクシェア・シフト内容に関しては話が全くありません。PTOT分科会第3回の議事録でもあった通り、「医療・介護分野またはその他の分野の需要に関して、医師、看護師分科会での決定がないため話が進められない」という話が出ていますが、議事録を見てもPTOTとの具体的な連携内容には話が及んでいません。
この問題には2つの側面があると思います。①PTOTの専門性が全く理解されていない②何でもかんでもタスクシェア、シフトをするといざ、需要が低下した際に問題となるのではないかと思います。まず①について、医師分科会においては専門科目の偏在も問題視されており、一つの病院に対してどの専門医が何名在籍しているのかをデータ化しています。一方、我々PTOTにも専門性があるはずですが(そもそもPTOTと分けられていない)、分科会では一切触れられていません。認定・専門療法士の制度はできたばかりであり、取得者も少ない現状ではありますが、学会が法人化されたことによる成果を期待したいところです。
②について「訪問看護の人員基準」の検討が、ここに関連しているのではないかと思っています。「看護師が足りない→リハを増やそう」とすると「何我々の職域まで手を出してるの?」という状態になるのかと思います。おそらくこの人員基準の検討は、次の改定でも当然のように提案されることと思いますので、防衛は必要でしょう。矛盾が多い問題ではありますが「少ないなら補おう」という考えでのタスクシェア、シフトは上手くいかないのでしょう。
ここまで非常に長くなってしまったので、一度終わらせたいと思いますが、今回のアンケートで不安を煽りたかったのではなく、今何が行われどうしてこのデータが出たのか?そして、今何をすべきなのか、について考える機会になればと思った次第です。なぜなら、制度を待っていては方針が決まらず、ただ振り回されるだけだと危惧したためです。
今できることは、とにかく現場での実績を積みあげることだと思います。当然職域を広げる活動は必要ですが、全員が行動すべきことではないと考えます。不安を煽られ、「何かしなくては」と思いますが、戦略的に「何もしない」という選択肢もあるのだと思います。