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脳卒中の予後(死亡率)と脳卒中専門医師数の関係について -ビックデータを用いて初めて可視化に成功―

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国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の予防医学・疫学情報部の西村邦宏(部長)、病院長 飯原弘二らは、J-ASPECT研究(研究代表 飯原弘二病院長)データを用いて、本邦の施設単位の脳卒中関連学会の専門医師数が脳卒中の予後(死亡率)に与える影響を初めて明らかにしました。その研究成果が、日本循環器学会の学会誌、Circulation Journal誌に8月13日に掲載されました。

 

概要

脳卒中は、世界中で身体障害や死亡の重要な原因となっています。日本では、脳卒中は死亡原因の第4位であり、長期障害の主な原因でもあります。日本では、毎年、約27万人が新規または再発の脳卒中を発症し、約12万人が脳卒中後に死亡しています。一昨年、日本では一次脳卒中センターが認証されました。専門医師数と入院治療成績との関係についてはよく知られていますが、脳卒中については、施設で必要な専門医師数に関しては大規模な統計データからこれまで検討されていませんでした。そこで、本研究では、院内での脳卒中死亡率と、病院あたりの脳卒中専門の医師数との相関関係を分析しました。

 

方法

私たちは、DPC(入院医療費の支払い制度)情報を活用した、J-ASPECT研究(日本で最大の脳卒中・脳神経外科医療のデータベース事業、775施設から429万件、研究班ホームページ https://j-aspect.jp)を、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会との連携のもと、10年前から継続しています。今回のこのJ-ASPECT研究データから、2010年から2016年に、虚血性脳卒中、脳内出血(ICH)、くも膜下出血(SAH)で入院した患者を抽出し、脳卒中診療医および関連する学会専門医の数と入院後30日以内の死亡との関係を検討しました。30日院内死亡率のオッズ比を、一般化混合ロジスティック回帰を用いて施設や患者年齢、重症度の違い等を調整した後に推定しました。虚血性脳卒中(脳梗塞)295,150人、脳内出血98,657人、クモ膜下出血36,174人の患者さんの30日以内の院内死亡率はそれぞれ4.4%、16.0%、26.6%でした。

すべての脳卒中のタイプにおいて、脳卒中関連の総専門医数、脳神経外科学会専門医数、神経学会専門医数、脳卒中学会専門医数は入院30日死亡率の低下と有意に関連していました。30日以内の院内死亡率の低下に対する、脳神経外科学会および脳卒中学会専門医数については、全ての病型でそれぞれ6人以上の専門医がいる施設で30日死亡率の低下を認めました 脳梗塞(オッズ比[95%信頼区間]:脳神経外科学会0.83[0.75-0.92]、脳卒中学会0.84 [0.77-0.93])、脳内出血(脳神経外科学会0.88[0.79-0.99]、脳卒中学会0.79 [0.71-0.89]、クモ膜下出血(脳神経外科学会0.78 [0.68-0.90]、脳卒中学会0.77 [0.68-0.87])でした。神経学会専門医数は、虚血性脳卒中患者においてのみ、30日間の院内死亡率と関連しており、その閾値は4名以上(0.89 [0.80-0.98])でした。このことは閾値以上の数の専門医数がいる病院では、脳卒中患者さんの死亡率が11%-23%低下していることを示しています。

 

結論と意義

脳卒中を診療する専門医の数が多いほど、すべてのタイプの脳卒中で院内死亡率が低下することが示されました。専門医の数の閾値は、専門分野と脳卒中の種類によって異なっていました。本研究は、わが国の脳卒中診療を行う病院で、死亡率の低減に必要な専門医の数を始めて定量的に検討し、脳卒中治療医の必要数を客観的に示しました。ただし、脳卒中の治療成績は、一般に医療のプロセス等、今回の研究では測定されていない多くの因子にも影響されるため、今回の専門医数の閾値の正確な解釈には、今後さらなる研究が必要です。本研究は、今後の地域医療計画策定、高度脳卒中診療の集約化の観点から、重要な情報を提供する研究と考えています。

 

発表論文情報

著者:Kunihiro Nishimura; Kuniaki Ogasawara; Takanari Kitazono; and Koji Iihara and the J-ASPECT Study Collaborators

題名:Impact of physician volume and specialty on in-hospital mortality of ischemic and hemorrhagic stroke

掲載誌:Circulation Journal

 

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • ・日本医療研究開発機構 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業
  • ・厚生労働科学研究費 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業
  • ・国立研究開発法人国立循環器病研究センター 循環器病研究開発費

 

<図表>

図1

詳細▶︎http://www.ncvc.go.jp/pr/release/20210816_press.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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