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スポーツ関連性エンテソパチー発症要因の一部を解明ーオーバーユースよりも動作時における遠心性収縮優位な運動が影響を及ぼすー

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埼玉県立大学大学院博士後期課程大学院生小曽根海知さんらと、同学の金村尚彦教授、国分貴徳准教授(責任著者)のグループは、筋肉の骨付着部であるEnthesis(エンテーシス)※1に頻発するスポーツ関連性腱骨付着部症(エンテソパチー)※2の発症要因には、これまで定説とされてきたオーバーユース※3よりも、動作時における筋収縮が遠心性収縮優位となることが関与していることを明らかにしました。この研究結果により、「スポーツ活動の休止」という対症療法が選択されてきたスポーツ関連性エンテソパチーに対し、新たなリハビリテーション介入戦略の確立に寄与することが期待されます。この研究成果は、2021年12月4日に、Journal of Orthopaedic Research誌(インパクトファクター:3.494)のオンライン速報版に掲載されました。

 

ポイント

  1. 1. スポーツ動作に関連し発症するエンテソパチーの発症要因を明らかにするため、若齢マウスに対し、前肢への負荷が異なる運動介入を実施し、棘上筋腱の骨付着部の病理学的変化を比較しました。 
  2. 2.単純に運動量を増加させたオーバーユース群では観察されなかった病理学的変化が、遠心性収縮優位な動作を行わせたミスユース群では、運動量が少ないにも関わらず観察された。
  3. 3.オスグッド・シュラッター病に代表される成長期に好発するスポーツ関連性エンテソパチーは、単純な運動量の増加だけでは発症せず、動作時の筋収縮が遠心性収縮優位となる運動条件下において腱骨付着部(エンテーシス)の病理学的変化が生じることが明らかとなりました。

 

研究の背景

オスグッド・シュラッター病やテニス肘などのスポーツ障害の多くは、成長期に筋腱の付着部;エンテーシスで好発します。これら疾患はこれまで、使いすぎ(オーバーユース)に伴う機械的ストレスの増加(積算)が主な発症要因だと考えられてきました。しかしながら実際の臨床現場では、運動量の多寡に関わらず発症している点や、一度発症すると一定期間運動を休止し回復したのちも少ない運動量で再発するなど、一概にオーバーユースが問題であるとは断定できない現状にありました。そこで本研究チームは、運動量以外に機械的ストレスを増加する要因として動作時における筋収縮タイプの優位性変化に着目しました。筋収縮タイプは大別すると3つ:求心性収縮※4、等尺性収縮※5、遠心性収縮※6 (図2) に分類されます。このうち遠心性収縮は,同じ運動回数を実施しても他の収縮タイプに比べ機械的ストレス量が増加することが報告されています。そこで我々は、単純に運動量が増加するオーバーユースよりも、動作時に筋収縮が遠心性収縮優位となることがエンテソパチー発症に関与すると仮説をたて、小動物を用いた基礎研究にて検証を試みました。

 

図1 腱骨付着部(エンテーシス)の構造

エンテーシスは特徴的な4層構造を呈しており、腱が非石灰化線維軟骨および石灰化線維軟骨を介して骨に付着しています。エンテーシスは筋肉で発生した力を効率的に骨に伝達させるための重要な部位です。

 

図2 筋収縮タイプの特徴

筋肉の収縮タイプは大別し3つに分類されます。筋肉の収縮方向と関節運動が同じ方向となる求心性収縮、筋肉は収縮しているが関節運動は生じない等尺性収縮、筋肉の収縮方向と関節運動が反対方向となる遠心性収縮があります。

 

研究内容

4週齢(若年期)のSlc: ICRマウスにトレッドミル運動を実施しました。四足歩行を行うマウスでは、前肢も荷重関節になるため、エンテーシス構造を有する棘上筋の骨付着部を標的部としました。トレッドミルの走行条件として、平地走行によって求心性収縮優位な運動、下り坂走行によって遠心性収縮優位な運動を模倣し、棘上筋のエンテーシス部へメカニカルストレス※7を負荷しました(図3)。4週間の運動介入を実施したのちに棘上筋と、棘上筋腱、棘上筋腱骨複合体を採取し、棘上筋の横断面積、エンテーシスにおける線維軟骨面積、線維軟骨領域における炎症・変性・石灰化関連因子の発現を組織学的解析により調査しました。さらに、腱が付着する骨における変化を観察するため,µCT撮影によって骨体積と軟骨下骨構造、石灰化線維軟骨体積を調査しました。また棘上筋腱における炎症性因子の発現を分子生物学的解析によって調査しました。 

結果として、単純に運動量のみを増加させたオーバーユース群では、コントロール群と比較して、多くのパラメータにおいて有意差は確認されませんでした。一方で、低速の下り坂走行により遠心性収縮優位な動作を模倣したミスユース群※8では、運動量が少ないにもかかわらず、コントロール群やオーバーユース群と比較して、筋肉の肥大化とエンテーシス領域における病理学変化が確認されました。この変化は高速の下り坂走行を実施したミスユース+オーバーユース群でより顕著となる結果を示しました(図4)。

 

図3 運動介入群

実験群を4つに分類し、平地走行によって求心性収縮優位な運動、下り坂走行によって遠心性収縮優位な運動を模倣しました。ミスユース群は他の運動群に比べ運動量が少なくなるように速度を低速に設定しました。

 

 

図4 線維軟骨領域の形態変化比較

エンテーシスにおける線維軟骨領域は、遠心性収縮を模倣したミスユース群、ミスユース+オーバーユース群で増加する結果を示しました。この変化は単純に運動量のみを増加させたオーバーユース群では確認されませんでした。

 

以上のことから、機械的ストレスの運動量依存的増加よりも、遠心性収縮により特異的に増加する局所的メカニカルストレスが、スポーツ関連性エンテソパチー様の病理学的変化を誘導することが明らかとなりました (図5)。

  

図5 本研究の概要

単純な運動量の増加だけでは病理学的変化を示さず、動作時の筋収縮が遠心性収縮優位となる運動条件下においてスポーツ関連性エンテソパチー様の病理学的変化が生じることが明らかになりました。

 

国分貴徳准教授のコメント

成長期のスポーツ活動に伴い膝関節に発生するオスグットシュラッター病に代表される筋腱の骨付着部(エンテーシス)病変は、頻回に発生する非常に一般的な傷害で、いわゆる使い過ぎ(オーバーユース)が発症要因とされてきました。しかし今回の研究から、エンテーシス部に発生する病変は、単なるオーバーユースではなく遠心性収縮が優位となる間違った使い方(ミスユース)により、局所的にメカニカルストレスが増加することが要因である可能性が示されました。今回の結果だけで、エンテソパチーの発症要因が完全に解明されたわけではなく、更なる研究が必要ですが、同外傷の発症メカニズムおよび今後の治療選択に大きく影響を及ぼす結果であると考えています。また、エンテソパチー同様に、これまでオーバーユースが要因とされてきた筋骨格系の傷害についても、新たな視点から発症要因を再考することが必要となっていく可能性があると考えています。今後、単なる休息ではなく、ミスユースを改善することで発症を予防する、あるいは発症後もスポーツ活動を継続しながら患部の治癒を図っていくというようなリハビリテーション介入の確立へ向けて、研究を継続していきます。

 

用語解説

※1エンテーシス 腱骨付着部のことを示す。  

※2エンテソパチー 腱骨付着部症を示す。エンテーシスにおいて線維軟骨の増加や炎症性因子の増加、血管新生などの病理学的変化が生じた状態のこと。  

※3オーバーユース 筋肉の過剰使用、使いすぎの状態を示す。  

※4求心性収縮 筋肉の収縮方向と関節運動方向が同方向となる収縮タイプ。力発揮は大きくなく、損傷のリスクが少ない。  

※5等尺性収縮 筋肉は収縮しているが、関節運動は生じない筋収縮タイプ。  

※6遠心性収縮 筋肉の収縮方向と関節運動方向が反対方向となる収縮タイプ。力発揮は大きいものの、負荷が大きく、損傷のリスクが高い。  

※7メカニカルストレス 物理的な力が加わることによるストレス。剪断力(Shear)や圧迫力(Compression),伸張力(Stretch)などが挙げられる。  
※8ミスユース 身体の誤用によって遠心性収縮有意な動作となっている状態を示す。

 

謝辞

  本研究は公益財団法人日本科学協会笹川科学研究助成(助成番号:2019-6004)、並びに日本学術振興会 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究(助成番号:JP26560279)の助成を受け実施されました。

 

論文情報

題名 :

Structural and pathological changes in the enthesis are influenced by the muscle contraction type during exercise  

著者 :

Kaichi Ozone, Takanori Kokubun, Kei Takahata, Haruna Takahashi, Moe Yoneno, Yuichiro Oka, Yuki Minegishi, Kohei Arakawa, Takuma Kano, Kenji Murata, Naohiko Kanemura  

DOI :

10.1002/jor.25233  

URL :

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34862672/

 

詳細▶︎https://www.spu.ac.jp/tabid600.html?itemid=1379&dispmid=1828

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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