週の真ん中水曜日の江原です。医療では診断を元に治療を開始しますが、慢性疼痛の臨床では時に痛みの原因がわからないまま治療やリハビリを進めなければいけないことがあります。
この時に役立つのが急性痛と慢性疼痛の鑑別です。本日は、原因不明な慢性疼痛の解像度を少しでも上げ、境界を見分けるための工夫についてお話しいたします。
急性痛と慢性疼痛
急性痛と慢性痛は痛みの分類の1つであります。表1を参照するとその急性痛は、正常な組織への侵害刺激により末梢の侵害受容器が興奮しインパルスが脳に達することで痛みとして知覚するというメカニズムに従います。
侵害刺激には、
・火傷や冷たい刺激で痛みとして感じる熱刺激
・薬品などの化学反応や炎症反応で痛みを感じる化学刺激
・力学的なストレスで痛みを感じる機械的刺激
の3つがあります。
表1 急性痛と慢性疼痛の特徴
急性痛は、侵害刺激がなければ痛みのインパルスを発生させるものが無くなれば痛みを感じません。また組織損傷が起こり炎症反応で痛みがあっても、組織が回復すれば痛みは無くなります。痛みの持続時間は組織損傷の期間を越えることはなく、また交感神経症状が生じ短期間ではありますが情動要因に関わる反応も呈するのが特徴です。
一方慢性疼痛は末梢の受容器の興奮ではなく、中枢神経系の機能変化による痛みに心理社会的要因が修飾した痛みとされています。痛みを感じる期間は組織の損傷を越えても継続し、その期間は3か月が目安でそれ以上続くと言われています。
慢性疼痛は一次的に終わるはずの随伴症状も継続するため、睡眠障害、自律神経障害も生じます。また身体機能低下を引き起こしますので、ADLに大きく影響します。
現象学から定義された慢性疼痛疾患である、『慢性一次性疼痛』において、
・原因が見つからない
・3か月以上継続
・ADL制限
が挙げられており、慢性疼痛らしさはこれらの要素で示されています。急性痛と慢性疼痛はその骨格においては明確な差がありますが、いざ臨床で対峙するとその境界が不明瞭で非常に悩ましい存在になります。もちろん原因がわからないまま急性痛と慢性痛が混在したまま治療を進めることもありますが、見えにくい鑑別に役立つポイントをお話します。