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日本人における予防可能ながんによる 経済的負担は 1 兆円超え(推計) 適切ながん対策により、経済的負担の軽減が期待される

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発表のポイント

・がんによる経済的負担と、生活習慣や環境要因など予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計し、がん予防の経済効果を明らかにしました。

・がんによる総経済的負担は約 2 兆 8,597 億円(男性は約 1 兆 4,946 億円、女性は約 1 兆3,651 億円)で、経済的負担は男女間で大きな差がないことがわかりました。

・予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は約 1 兆 240 億円(男性は約 6,738億円、女性は約 3,502 億円)で、男女ともに胃がんの経済的負担が最も高く(男性 約1,393 億円、女性 約 728 億円)、次いで男性は肺がん(約 1,276 億円)、女性は子宮頸がん(約 640 億円)の順に高いことがわかりました。

・予防可能なリスク要因別の経済的負担は、「感染」による経済的負担が最も高く約 4,788億円で、がん種別ではヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんが約 2,110 億円、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がんが約 640 億円と推計されました。

・予防可能なリスク要因に対し適切な対策を実施し、がんを予防・管理することは、命を救うだけでなく、経済的負担の軽減にもつながることが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所(理事長、所長:中釜 斉、東京都中央区)予防研究部(部長:井上 真奈美)を中心に構成される研究グループは、日本人における最新の人口寄与割合(以下、PAF)のデータを用い、がんそのものによる経済的負担と予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計し、がん予防の経済効果を明らかにしました。

「がん」は、1981 年以来、わが国において死因第 1 位となっており、その罹患者数は 2019年で約 100 万人(男性 約 57 万人、女性 約 43 万人)、死亡者数は 2021 年で約 38 万人(男性約 22 万人、女性 約 16 万人)と、がん患者は増加傾向にあります。がんの要因とされる生活習慣や環境要因に対して、適切な対策や予防を行うことによって、新たながん患者を抑制し、がん関連の直接医療費や労働損失を回避することが可能になると考えられます。

本研究成果は、2023 年 5 月 4 日に国際英文ジャーナル「Global Health & Medicine」で早期公開されました。

背景

がんは、1981 年以来、日本人の死因第 1 位となっており、公衆衛生上の大きな課題となっています。多くのがんは生活習慣や環境要因によって引き起こされると広く認識されており、適切な対策を取ることで予防できるとされています。

2022 年に、日本における予防可能なリスク要因に関連するがんに関して、主要な生活習慣や環境要因の PAF(注 1)が報告されました。

近年、疾病負荷に関する科学的根拠が示されるようになりましたが、がんが日本人における死因の第 1 位であるにも関わらず、社会に与える経済的負担を推計した研究は現在までほとんど行われていません。がんは、直接的な医療費に加え、治療中の一時的な就業中断による労働力からの離脱によって、社会にも重大な経済的負担を引き起こします。

がんの原因を予防することで、がん関連の直接医療費や労働損失を回避することが可能になると考えられるため、これら予防可能ながんによる経済的負担を推計することで、がん予防による経済効果がどの程度になるかを明らかにしました。

 

注 1)人口寄与割合(PAF:Population attributable fraction)とは

特定のリスク要因への曝露が仮になかった(またはそれに準じる状態であった)とした場合、疾病の発生(または疾病による死亡)が何パーセント減少することになるかを表わす数値指標。本研究で利用した PAF は、日本のがん罹患とがん死亡のデータ、リスク要因の保有率、がんの相対危険度を基にがんの PAF を計算。

 

推計値算出と評価方法

・Prevalence-based cost-of-illness アプローチという手法を用いて、直接医療費および間接費用(死亡および罹患による労働損失)を、社会的視点から算出

・全国 99.9%の病院や診療所の診療報酬情報をカバーする「レセプト情報・特定健診等情報データベース」の集計表を用いて、2015 年時点のがん患者数や直接医療費を算出

・WHO 国際疾病分類第 10 版(ICD-10)に基づいて 20 のがん種に分類

・2015 年のがん罹患における PAF の最新のデータを用いて、予防可能なリスク要因である生活習慣や環境要因(喫煙、飲酒、過体重、運動不足、感染、食事、外因性ホルモン使用、母乳育児、大気汚染等)によって引き起こされるがんの直接医療費(診察・医療費、処方・薬剤費等)、死亡や罹患(受療による欠勤や休職)に起因する労働損失を推計し、その経済的負担を評価

研究結果

1. がんによる総経済的負担は約 2兆 8,597 億円

・2015 年に受療したがん患者延べ数は、男性が 2,107,331 人、女性が 1,938,609 人、計4,045,940 人で、上位 3 部位は、男性が前立腺がん 551,195 人、胃がん 316,112 人、結腸がん 230,125 人、女性が乳がん 659,970 人、結腸がん 197,745 人、胃がん 154,807 人でした。

・がんにおける直接医療費と死亡や罹患による労働損失を推計し、総経済的負担を算出したところ約 2 兆 8,597 億円で、男性は約 1 兆 4,946 億円、女性は約 1 兆 3,651 億円と大きな差がないことがわかりました。

・労働損失が最も大きかったがんは、男性が肺がんで約 921 億円、女性が乳がんで約 2,326億円でした。

2. 予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は約 1 兆 240 億円

・生活習慣や環境要因に起因するがんの経済的負担は、男性で約 6,738 億円、女性で約 3,502億円、計約 1 兆 240 億円であり、そのうち男女ともに胃がんの経済的負担が最も高く(男性 約 1,393 億円、女性 約 728 億円)、次いで男性は肺がん(約 1,276 億円)、女性は子宮頸がん(約 640 億円)の順に高いことがわかりました(図1)。

図1.部位別にみた予防可能ながんの経済的負担(男女別、単位:百万円)

 

3. リスク要因は「感染」による経済的負担が最も高く約 4,788 億円

・5 つの予防可能なリスク要因別(能動喫煙、飲酒、感染、過体重、運動不足)の経済的負担は、「感染」による経済的負担が最も高く約 4,788 億円(注 2)で、がん種別にみるとヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんが約 2,110 億円、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がんが約 640 億円と推計されました。

・他は能動喫煙による経済的負担が全体で約 4,340 億円、うち肺がんが最も高く約 1,386 億円、飲酒は約 1,721 億円になることがわかりました(図2)。

注 2)主要部位の合計とがん全部位の合計は異なることにご留意ください。

図2.リスク要因別にみたがんの経済的負担(男女計、単位:百万円)

まとめ

2015 年のわが国では、がんによる経済的負担は男女間で大きな差がないことがわかりました。理由としては、女性のがんのなかで最も一般的な乳がんは、働き盛りの世代での罹患が多いため、直接医療費だけでなく労働損失が大きな影響を与えていると推察されます。同様に、子宮頸がんも若年女性が罹患する疾患のため労働損失が多い結果が示されました。

リスク要因別では、感染に起因するがんの経済的負担が最も高く、特に胃がん(ヘリコバクター・ピロリ菌感染)や子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス感染)は、適切な対策が講じられた場合、多額の経済的負担を回避できることが示唆され、また、能動喫煙による経済損失が大きいことがわかりました。

展望

本研究によって、予防可能なリスク要因において「感染」と「能動喫煙」に起因するがんの経済的負担が大きく、なかでもワクチン接種や治療という選択肢がある「感染」は、多額の経済的負担を回避できる可能性が示唆されました。

2022 年より積極的接種勧奨が再開された子宮頸がんワクチン接種のさらなる積極的勧奨を行うこと、肝炎ウイルスに感染している場合の治療やヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療を検討すること、定期的な健診・検診の受診勧奨を行うこと、たばこ対策を強化すること等、予防可能なリスク要因に対し適切な対策を実施し、予防・管理することは、命を救うだけでなく、経済的負担の軽減にもつながることが期待されます。

発表論文

雑誌名:

Global Health & Medicine

タイトル:

Economic burden of cancer attributable to modifiable risk factors in Japan

著者:

Eiko Saito*1, Shiori Tanaka, Sarah Krull Abe, Mayo Hirayabashi, Junko Ishihara, Kota Katanoda, Yingsong Lin, Chisato Nagata, Norie Sawada, Ribeka Takachi, Atsushi Goto, Junko Tanaka, Kayo Ueda, Megumi Hori, Tomohiro Matsuda, Manami Inoue*1)2021 年まで国立がん研究センター職員、現在は国立国際医療研究センター所属

URL:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ghm/advpub/0/advpub_2023.01001/_article/-char/en

掲載日:

2023 年 5 月 4 日(早期公開)

 

研究費

研究事業 名:科学研究費助成事業

研究費名・区分:基盤研究(B) / 19H03913

研究課題名:日本人におけるがんの原因の寄与度:最新推計と将来予測

 

研究事業 名:国立がん研究センター研究開発費

研究費名・区分:2021-A-16

研究課題名:科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

 

関連資料

・日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)

https://epi.ncc.go.jp/paf/index.html

 

詳細▶︎https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0802/index.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

日本人における予防可能ながんによる 経済的負担は 1 兆円超え(推計) 適切ながん対策により、経済的負担の軽減が期待される

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