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子どもの"お口ぽかん"に対するお口の体操の効果を明らかに お口の体操で唇を閉じる力が強くなり、口元の形が改善します

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鹿児島大学病院小児歯科の稲田絵美講師らの研究グループは、朝日大学歯学部小児歯科学分野の齊藤一誠教授ならびに海原康孝准教授らとの共同研究により、お口の体操の一つである「あいうべ体操」の、子どもの"お口ぽかん"(口唇閉鎖不全)に対する効果を明らかにしました。

本成果は、2023年6月4日(英国時間)に国際学術雑誌「Archives of Oral Biology」に掲載されました。

趣旨等

・お口ぽかんのある子どもに、「あいうべ体操」を1年間実施しました。

・体操をした子どもは、唇を閉じる力が強くなり、口元が引き締まりました。

・「あいうべ体操」はお口ぽかんを解消する方法の一つとして有効です。

内容

1.研究の背景

子どものお口ぽかん(口唇閉鎖不全)は日常的に唇が開いた状態になってしまうため、お口の乾燥によりむし歯や歯肉の炎症を引き起こし、口腔内環境を悪化させます。また、唇を閉じる力(口唇閉鎖力)が弱いため、歯を取り囲んでいる唇・頬と舌の力のバランスが崩れてしまい、上の前歯が出っ歯(上顎前歯の唇側傾斜)になったり、上顎の横幅が狭く(上顎歯列弓の狭窄)なったりすることで歯並びが悪くなることが少なくありません。さらに、アレルギー疾患を誘発する、姿勢が悪くなる、集中力が低下する等の弊害も報告されています。

日本人の子どもたちを対象として、お口ぽかんの有病率を調べた我々の過去の研究では、3歳から12歳までの子どもの30.7%がお口ぽかんの状態であること、その有病率は年齢とともに増加すること、さらに、自然に改善することが期待しにくい習癖であることが明らかとなりました。このことから、お口ぽかんは積極的に対応するべき歯科疾患であると言えます。

お口ぽかんに対しては、鼻づまりや極端な歯並びの異常がある場合を除き、口唇閉鎖力を強くさせるための体操を優先して行います。しかしながら、子どもに対する体操の効果やその有効性については明確にされていないのが現状でした。そのため、本研究では未就学児に対し「あいうべ体操」(図1)を実施し、効果について検証しました。

 

図1:あいうべ体操

2.研究の概要・成果

鹿児島県内の幼稚園に通園している3~4歳の子ども123名を「体操群」として、1年間「あいうべ体操」を実施しました(対象期間:2015年~2018年)。「あいうべ体操」とは、唇を「あ・い・う」の順番に動かし、最後に舌を「べ」と前へ突き出す運動を1セットとする体操(図1)です。これを毎朝幼稚園で36セット実施しました。

子どもたちの口唇閉鎖力と口元の形(図2:上唇の突出感、下唇の突出感、上下唇の突出感)の変化について、2009年から2013年に同幼稚園に通園し、体操を実施していない3~4歳の子ども123名の「対照群」と比較しました。図2の3種類の角度は、小さければ小さいほど唇がより前に突き出て、お口ぽかんの状態になります。

図2:口元の形に関する解析部位

両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加しましたが、体操群はより増加量が大きいことが判りました。また、口元は両群とも成長により引き締まる傾向にありましたが、下唇については体操群の方がより引き締まることが判りました。

さらに、体操群の中でも口唇閉鎖力が弱い34名(27%)と対照群の中でも口唇閉鎖力が弱い37名(30%)だけを対象として口唇閉鎖力と口元の形を比較しました。その結果、両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加しましたが、体操群の方がより増加量が大きいことが判りました(図3)。

また、口元の形については、体操群は上唇、下唇、上下唇いずれも引き締まる傾向がありましたが、対照群は上唇、下唇、上下唇いずれもより前に出る傾向があり、お口ぽかんの状態が見た目でも分かりやすくなる可能性が示唆されました(図3)。

図3:お口ぽかんの子どもの口唇閉鎖力と口元の形の変化

以上の結果から、お口の体操である「あいうべ体操」はお口ぽかんを解消する方法の一つとして有効であることが示されました。

3.今後の展望

これまで歯科領域では、むし歯治療のような疾患の修復に重点が置かれていました。しかし近年は、「食べる」、「話す」、「呼吸する」といった口腔機能を獲得・維持・回復することが重要視されるようになりました。これに伴い、平成30年4月からは、ライフステージに応じた口腔機能管理の推進のため、口腔機能の発達不全を認める子どもの口腔機能の評価や治療、管理について健康保険が適用されるようになりました。

子どもの時期の口腔機能は常に発達・獲得の過程にあります。将来起こり得る問題を未然に防ぐためにも、口腔機能の発達不全に対する積極的な訓練を含む治療や体操が必要です。お口の体操には様々な方法がありますが、子どもや子どもを取り巻く環境に適したものを取り入れながら継続することが重要です。今後も子どもの口腔機能に関する病態解析や治療・訓練効果の検証を進めることで、子どもの健やかな成長発育を支援していきたいと考えています。

4.研究成果の公表

これらの研究成果は2023年6月4日に国際学術雑誌「Archives of Oral Biology」に掲載されました。

論文タイトル:Lip and facial training improves lip-closing strength and facial morphology

(口唇ならびに顔面の筋トレーニングは口唇閉鎖力と顔貌形態を改善する)

著者:稲田絵美、海原康孝、野上有紀子、村上大輔、窪田直子、辻井利弥、清川裕貴、澤味 規、山本祐士、伴 祐輔、奥 陽一郎、奥 猛志、齊藤一誠

doi: 10.1002/cre2.490. Epub 2021 Sep 9

詳細▶︎https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2023/09/post-2088.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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