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外傷性脳損傷後の両眼性複視患者に対する眼球運動訓練と視線分析:症例報告

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外傷性脳損傷後には両眼性複視を含む眼球運動障害を合併することが多いとされています.これらの障害は転倒による骨折の可能性を高め,日常生活活動や生活の質の回復に悪影響を及ぼします.特に複視症状を呈した患者の治療経過をまとめた報告はほとんどありません.岸和田リハビリテーション病院 中村 兼張 氏,本学客員研究員 渕上 健 氏,本学 森岡 周 教授らは,外傷性脳損傷後に両眼性複視を呈した患者に対して眼球運動訓練を実施し,その治療経過をまとめました.この研究成果は,Journal of Medical Case Reports誌(Eye movement training and gaze analysis for a patient with binocular diplopia after traumatic brain injury: a case report)に掲載されています.

研究概要

外傷性脳損傷患者の約90%が両眼性複視を含む眼球運動障害を発症すると報告されています.両眼性複視とは,1つの物体が2つの物体に知覚される状態であり,左右の眼球の視軸のズレによって引き起こされます.複視を含む両眼視機能の障害は,転倒による骨折の可能性を高め,運動能力や日常生活動作,QOLの回復に悪影響を及ぼします.複視に関連する輻輳,追視,およびサッカードに関する眼球運動訓練は既に臨床現場で導入されており,治療効果が報告されています.しかし,これまでの研究では,輻輳や近視,眼球運動障害に焦点が当てられることが多く,専門機器で測定できる複視症状に関する亜急性期からの長期的な追跡調査報告はほとんどありません.岸和田リハビリテーション病院の 中村 兼張 氏,本学 客員研究員 渕上 健 氏,本学 森岡 周 教授らは,両眼性複視を呈した患者に対して眼球運動訓練を実施し,眼球運動機能,複視症状のみでなく,視線推移の評価も加えて経過を追跡しました.

本研究のポイント

・両眼性複視に対する眼球運動訓練の治療経過を追跡した.

・効果判定には,眼球運動機能と複視症状,そして視線推移を評価した.

・治療効果が確認されるとともに,障害側だけでなく非障害側への訓練の必要性が示唆された.

研究内容

患者は30代男性で,外傷性脳損傷後に右眼球の外転方向への運動機能低下と両眼性複視症状を呈していました.運動麻痺や感覚障害,高次脳機能障害は認めませんでした.毎日2回,40分間の眼球運動訓練を行い,これを4週間継続しました.眼球運動訓練の内容は,セラピストがゆっくりまたは素早く右側に動かしたレーザーポインターを追視させること,右眼球を外転方向へ最大に動かし保持させること,@ATTENTION(クレアクト社製)に搭載された機能で点滅するターゲットを追視させることでした.

治療経過は,右眼球の外転方向への運動距離,正中からの複視出現角度,Holmesの複視質問票を用いて追跡しました.さらに,@ATTENTIONに搭載されている視線推移も計測しました.

 

右眼球の外転距離と複視出現角度(左図),視線推移(右図),視線座標の誤差ともに改善し,複視質問票の点数も介入前の76点から,2週後に26点,4週後に12点と改善を認めました.

 

左図:右眼球外転距離と複視出現角度の介入前,2週後,4週後の結果
右眼球外転距離(A)は介入前と比べて,2週後と4週後の距離が増加していました.複視出現角度(B)は介入前から2週後,4週後と経過する中で,出現角度が大きくなっていることから,複視が出現しにくくなっていることがわかりました.

右図:@ATTENTIONによる視線推移評価の結果
経過とともに視線推移のばらつきが減少していることが確認できました.

 

これらの結果から,眼球運動訓練を行うことで,障害されていた右眼球外転運動や複視が改善し,視線も安定することが確認できました.また,4週後には障害側の的と視線との誤差よりも,反対側の的と視線との誤差が大きくなっていたことから,障害側だけでなく,非障害側への眼球運動訓練の必要性が示唆されました.

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

両眼性複視に対する眼球運動訓練の経過を追跡し,その有効性が認められました.さらに,視線推移分析から,障害側への眼球運動訓練だけでなく,非障害側への眼球運動訓練も必要であることが示唆されました.今後は,症例数を増やし,前向き研究デザインで効果を検証していく必要があります.

 

論文情報

Kaneharu Nakamura, Takeshi Fuchigami, Shu Morioka

Eye movement training and gaze analysis for a patient with binocular diplopia after traumatic brain injury: a case report.

Journal of Medical Case Reports, 2023

詳細▶︎https://www.kio.ac.jp/nrc/2023/12/26/press-20/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

外傷性脳損傷後の両眼性複視患者に対する眼球運動訓練と視線分析:症例報告

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