Beyond pulmonary rehabilitation: can the PICk UP programme fill the gap? A randomised trial in COPD
Pulmonology, 2025
P. Rebelo et al.
Lab3R – Respiratory Research and Rehabilitation Laboratory, School of Health Sciences, University of Aveiro (ESSUA), Portugal
PMID:38734564 DOI: 10.1016/j.pulmoe.2024.04.001
背景
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の管理において、呼吸リハビリテーション(PR)は有効な介入手段とされています。しかし、PRによる効果を長期間維持することは困難であり、多くの患者で6~12か月以内にその効果が失われることが報告されています。持続的な身体活動がPRの効果維持に重要であると考えられていますが、これまで効果的な維持戦略は確立されていませんでした。
本記事では「Pulmonology」誌に発表された研究「Beyond pulmonary rehabilitation: can the PICk UP programme fill the gap? A randomised trial in COPD」を紹介し、PRの効果維持に向けた新たなアプローチとして、PICk UPプログラムの有効性について解説します。
項目 | 内容 |
---|---|
患者・対象者 | PRを完了したCOPD患者(年齢中央値 69.6歳、84%が男性、FEV1 57.1%) |
介入 | PICk UPプログラム(個別化された地域ベースの身体活動プログラム) - 6か月間の運動プログラム(シニア向け運動クラス、プール運動、ジム、気功など) - 患者が自身の好みに応じて運動を選択 - 週2回の活動 + 理学療法士によるサポート(電話・現場指導) |
比較 | 標準ケア群(対照群) - PRを受けた後、特別な運動指導なし |
アウトカム | 主要アウトカム: - 身体活動レベル(MVPA:中等度〜高強度の身体活動時間)(加速度計で測定) - 歩数/日(steps/day) 副次アウトカム: - 1分間座位立ち上がりテスト(1-minSTS) - 座位時間(SED) - 健康関連QOL(SGRQ) - 呼吸機能(FEV1) - 増悪頻度、医療利用(入院・救急受診回数) - 筋力(四頭筋最大随意収縮力、握力) |
提供された運動の詳細(PICk UPプログラム)
運動の種類と提供方法
PICk UPプログラムでは、参加者自身が好みに応じて運動を選択し、週2回(5か月間)継続する形で実施されました。
1.提供される運動の種類
1)シニア向け運動クラス(Senior exercise class)
①高齢者向けの軽度〜中等度の全身運動
②柔軟性、バランス、筋力向上を目的
2)プール運動クラス(Pool exercise class)
①水中での低負荷運動
②関節や筋肉への負担を軽減しながら持久力・筋力向上を図る
3)ジムでの運動(Gym)
①レジスタンストレーニングや有酸素運動
②個人の体力に応じた負荷調整可能
4)気功・チーゴン(Chi Kung/Qigong)
①呼吸法や緩やかな動作を中心とした東洋医学的アプローチ
②リラクゼーションとバランス向上を目的
選択と導入の流れ
◯最初の1か月間:異なる運動を試す機会を提供
◯理学療法士と相談しながら適切な運動を選択(安全性・個人の能力を考慮)
◯2つの運動を選択し、週2回の継続を推奨(5か月間)
理学療法士(PT)の関与とサポート内容
導入時のサポート
・PR後の統合プロセスを担当
・酸素依存の有無や併存疾患を考慮し、医師と協議
・酸素飽和度の低下、転倒リスクなどを評価
継続期間中のサポート(6か月間)
・最低1回は現場での指導(運動の適正確認)
・3か月後・6か月後に電話フォローアップ(継続状況や問題点を確認)
・運動実施状況や問題点を把握し、必要に応じてアドバイス
・酸素飽和度低下や転倒リスクの増加時 → 追加評価・医師と連携
・運動機器の取り扱いが困難な場合 → 追加指導
・自信喪失や不安がある場合 → モチベーション向上のための支援
・運動指導者(フィットネスインストラクター)からの要望(指導の負担が大きい場合) → 追加サポート
最終目標
・参加者が理学療法士のサポートなしで運動を継続できるようにする(自立化)
・地域資源を活用し、運動習慣を維持する体制を構築する
理学療法士の関与時間
1人あたり約6時間の関与(平均値)
・4時間30分:データ収集(PR後・3か月後・6か月後の評価)
・1時間:最初の運動体験時の立ち会い
・30分:電話フォローアップ(3か月後・6か月後)
運動の実施状況(参加者データ)
・80%の参加者が6か月間の運動を完了
・67%の参加者が推奨される頻度(週2回)を維持
・記録を提出した16名のうち40%が「週1〜3回の屋外ウォーキング」を追加で実施
・3名(15%)が運動中の軽微な問題(筋肉痛・こむら返り)を報告
・1名がプールの階段で転倒(怪我なし)
研究結果
6か月後の評価では、
・対照群はMVPAが有意に低下(p < 0.05)
・実験群はMVPAを維持
・1分間座位立ち上がりテスト(1-minSTS)でも、実験群は維持、対照群は低下(p < 0.05)
・その他の座位時間や健康関連QOLなどの指標には群間で有意な差は見られなかった。
これにより、PICk UPプログラムはPR後の身体活動の維持に有効であることが示されました。
考察
PICk UPプログラムは、個別化されたアプローチを導入し、患者が自身に適した身体活動を選択できる点で従来のプログラムとは異なります。
本研究の強み
・多施設で実施された無作為化比較試験であること
・参加者が自身の好みに応じて運動を選択可能な点
・患者、医療従事者、地域のリソースを活用した包括的なアプローチ
限界点
・6か月間のフォローアップのみであり、1年以上の長期的な効果は不明
・一部の身体活動(プール運動など)が加速度計で正確に測定できなかった可能性
・COPDの重症度が高い患者(GOLDグレード4や酸素療法患者)は対象に含まれていないため、重症例への適用可能性が限定的
今後の展望と応用
本研究の結果は、COPD患者の身体活動維持戦略として、地域のリソースを活用したプログラムが有効であることを示唆しています。具体的な応用として、
・地域でのCOPD患者向け運動プログラムの普及
・在宅・地域ベースの運動療法を公的医療制度に組み込む政策提言
・患者自身が選択できる多様な身体活動の提供によるアドヒアランス向上
などが期待されます。
今後、より長期間の追跡調査を行い、PICk UPプログラムの長期的な有効性を評価することが求められます。COPD管理において、PRの効果を最大限活用しつつ、持続可能な介入方法を確立することが重要です。